第24話 ラボの暗躍 その2
「今日、天気大丈夫だよね?」
「大丈夫なんじゃないか?」
私が天候の不安を口に出すと、彼は脳天気に楽天的な言葉を返した。この言葉の根拠って一体……。私は雨が降った時の事を考え、自分の要望を伝える。
「ねぇ、雨降ったら中止にしない?」
「今日は降らないと思うぞ……むぐ」
有己は飽くまでも今日は雨が降らないと言うスタンスを崩さなかった。通常テンションでこう言われるとそれを普通に信じたくもなってしまう。
降らなきゃそれに越したことはないけど……私が言いたいのは雨が降った時の事なんだよね。
「いやだから、雨が降ったら、だよ!こんな探し方じゃあ……」
「傘とかあるだろ?ないならさっきの時に買っておけば良かったのに。折りたたみ傘なら……」
ああ、やっぱり彼は全く分かってない。雨具があればいいってものじゃない事を。ここはやっぱりはっきり言わなきゃだね。
「雨の中をあんまり出歩きたくないんだよ」
この私の言葉に有己は目を丸くする。彼の中にその発想がなかったんだろうな。それから素の顔のまま彼は私に言葉を返した。
「ハンターがいつ襲ってくるかも分からないのに?……もぐ」
「それはそうなんだけど」
う、ハンターの話を出されると私も言い返せないよ。こんな状況で雨の日は出歩きたくないだなんてやっぱりワガママなのかな。幸い、有己の言う通り天気はまだしばらく持ちそうだったので、その間に回れる道を回ろうと私は少し早歩きになりながら道を歩いていった。成果は察しの通りだったけど。
「いないねぇ……」
「じゃあ、街を変えるか。眷属の行動範囲から考えてもかなりこれで当たりを絞り込めたはずだ」
ある程度歩き回ったところで、彼から場所転換の話が出る。もうこの街で怪しいと思う所はすっかり歩き回ってしまったのだ。こうやって地道に可能性を潰すのは本当に骨が折れるなあ。
駅で次の目的地への電車を待つ間、私はあるアイディアを閃いた。善は急げと、すぐにそれを隣で鞄から次のパンを取り出そうとしている有己に伝える。
「あ、そうだ、眷属だよ!眷属を飛ばして調べればいいじゃない。何で今まで気付かなかったんだろう?」
「うん?眷属を出してもいいけど、敵に見つかる可能性も上がるぞ……むぐ」
彼曰く、眷属を放てばハンターに見つかるリスクが高まるらしい。そんなのは初耳だ。もしそうだとしたら何故今までこの事を言わなかったんだろう?
後付け設定みたいなこの話に私は少し違和感を覚えた。
「え?今までそんな話……」
「普通のハンターなら上手く誤魔化せるけど、専任はそう上手くも行かない」
そうだ、専任のハンターが動き出していたんだった。プロ中のプロの専任ハンターなら、中にはそんな凄腕もいるのかも知れない。有己の話によれば専任ハンターは今までに多くの使徒を倒して来たらしいし……。まだ戦力が厳しい今は特に油断禁物だよね。
「はぁ~。上手く行かないなぁ」
「次の街で見つかる事を期待しようぜ……もぐ」
世の中本当に中々上手く行かない。自信のあったアイディアが即却下されて、私は少し暗い気持ちになっていた。楽しようとしたのが間違っていたのかな。
しばらく待つと駅に電車がやって来る。目的の電車だ。私達は次の街に行く為にその電車に乗り込んだ。空いた席に座った私はポツリとつぶやく。
「それか、ピンチ待ちだよね」
「だから、確証のない事は期待すべきじゃないって……」
「分かってるよぅ」
電車に揺られながら、私は昨日も却下されたアイデイアをまた彼に話かけ、また同じように否定された。仕方ないので流れる景色を見ながら何か良い策がないか必死で考えを巡らせるものの、目的地の駅に着くまでにいいアイディアが浮かび上がる事はなかった。
目的の駅に着いて電車を降り、駅の外に出たものの、何も思いつかなかった私のテンションは下がったまま。それで思わず本音が口から出ていた。
「うーん、ちょっと休みたいなぁ……」
「どこかで休むか?探していて公園でも目に入ったら……むぐ」
珍しく有己が私の意見をすぐに受け入れてくれた。私はそれが嬉しくて思わず笑顔になった。
「そうしよう、足が棒になっちゃうよ」
そんな訳で公園を目指して歩いているその時、背後で私達を見つめる影があった。完璧に気配を消したそいつは有己にすら悟られない技術の持ち主だった。
影はすぐに情報をどこかに送信する。私達の知らない所で何か大きな事が動き始めようとしていた。
「ターゲット発見!追跡を開始する」
「全ての指示はこちらで行う。勝手な行動はするな」
影に指示を出していたのは冒頭で紹介したカーセル博士だった。と言う事は、つまりこの影の正体が実験体と言う事なのだろう。実験体はその完璧な尾行技術を持ってして私達を追尾していた。
そんな事を何ひとつ知らない私達は脳天気に街を歩きながら、ついに良さげな公園を発見する。私は嬉しくてついそれを口に出した。
「お、公園と具合の良いベンチ発見!」
「じゃあジュース買ってくる、何がいい?」
公園発見に喜んでいると、またしても有己が気の効いた事を言って来た。これは何か悪い事が起きなきゃいいけどと思いながら、私はその話にホイホイと乗っかった。
「おごり?なら冷たいミルクティーで」
私のリクエストを受け入れた彼はそのまま自販機を探して姿を消していった。公園に自販機がなかったのだ。小さい公園だからね、仕方ないね。
この公園にあったのはベンチに砂場に滑り台。それと桜?かな?木が何本か。本当に家の近所にありそうな可愛らしい公園だ。
まだそんなに古くないベンチに座った私はハァと軽く息を吐き出した。そうして視線は自然に頭上の空へと移動する。
「ふー。本当に難しい空模様。何か蒸し蒸しするような気もするなぁ……」
(気をつけろ……何かがいる)
「え?敵?」
一息ついた所で急に私の中の闇神様が反応する。それはまるで緊急地震速報だ。こう言う時に吉報だった試しがない。まずい、今有己が側にいないんだ。
もし専任のハンターが現れたんだとしたら私ひとりで一体どうすれば――。
(ハンターとは違う……異質なものだ)
「何それ怖い……」
闇神様の答えに私は戦慄する。ハンターだけでも手一杯なのにこの期に及んでまた別勢力が参戦?しかも異質なものっていう表現が怖い。
何なのよ。まさか人間側の敵じゃなくて神様系の敵とか?私はネットで見かけた異形の闇の神の映像を頭に思い浮かべていた。
「素晴らしい!早速数値が跳ね上がった!ターゲットがチャネリング状態に入ったぞ」
「適度にストレスを与える事が重要なようだ。実験体には現状維持を!」
実験体をモニターしていた2人は興奮している。どうやら実験体の目的は――私みたい。ハンターの目的が使徒退治でその主である闇神様にさほど興味がないのとは全くの正反対。ラボの博士2人はデータの解析に夢中になっていた。
そんなラボの事を全く知らない私は何でもいいからとにかく情報を知りたくて必死に私の中の闇神様にアクセスしていた。
「どう言う事?ハンター以外にも敵がいるって……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます