第118話 タイムリミット その2

「セルレイス以外なら俺達で何とか出来るぞ」


 俺はそう言って胸を張った。正直今の実力なら敵スーツ男以外なら余裕で対処出来る気がしている。そんな調子に乗っている俺を彼はジト目で呆れた風に見つめると、決定的な一言を告げる。


「敵のタイムスケジュールでも知ってるって言うのかよ」


「それは……」


「一番出て来て欲しくない時に最悪のタイミングってのはやってくるもんなんだよ」


「そうなんだよな……」


 俺の自信はこの年下の少年の冷静な言葉に簡単に打ち砕かれてしまった。やっぱ考えが甘いよな、俺。敵がいつどこにどんな手段を持って現れるのか、それが分かれば苦労はしない。逆に言うとソラ抜きでセルレイスに勝てる実力を身に着けない限り、目の前の青春少年はその特権を生かせないのだ。


 俺がこれからの事をもう少し真面目に考え始めたところで、ソラの方から話を振ってきた。


「で?スーツの方はどうなってるんだ?」


「今色々と解析中なんだとさ」


「まだ時間かかりそうじゃねーか。ヤバイな」


「だから俺としては出来ればずっと暇なままであって欲しいんだよ」


 そう言って俺は笑う。って言うか、笑うしか出来ない。もしこちらの内情が敵側に筒抜けなら、どの組織だってこの隙を狙ってくるだろう。そう言う動きが見られないって事は、逆に言うとこの情報はどこにも漏れてはいないと言う事だ。

 だから一応は安心していいのだろうけど、隙云々じゃなく、敵は敵独自の理由で悪事を働く。今の俺が出来るのは、自分のスーツが戻ってくるまで敵が全く動かない事を願うだけだ。何も出来ないのは本当にもどかしい。


 そんな俺の顔を面白そうに眺めていた彼は、持っていたジュースをそこで一気に飲み干すと得意げに笑った。


「ま、いざとなったら俺がすべて片付けるから心配すんな」


「はは、期待してるぞ」


「任しとけって、リーダー」


 正直、今はこの目の前の自信満々少年を頼りにするしかない。俺は力なく相槌を打つと、ジュースを飲み終えてこの場を離れていくソラを見送った。ああ、早くスーツが戻ってこないかなぁ……。

 このテラスから見える基地の外の景色は相変わらず素晴らしい自然の美しさを湛えていた。休憩を終えた俺も訓練室に向かう。少しでも体力をつけて、セルレイス相手にもいい勝負が出来るようにならなくては……。



 その頃、セルレイス本部では待機していたスーツ男に会議で決まった作戦司令が届く。


「はぁ?ガシューのバケモンと手を組む?」


「ああ、完璧を期すためにな」


「まぁええわ。で、作戦は?」


 赤いスーツの関西弁男のコウは典型的なイエスマンだ。上が命令すればどんな無茶な話でも素直に耳を傾ける。そうして出来る限り忠実に動こうとする。今回も組織外の勢力と組む事に一瞬だけ難色を示したものの、すぐに素直にその作戦に従った。


「街を人質に取る。それでおびき出して倒せ」


「はは、まるで三下の悪役やん」


「不服か?」


「いや、それが命令ならしゃーないですわ」


 上からの指令を伝えてきたサングラスの黒スーツ男に、コウはやれやれと言ったジェスチャーをする。それはヤツなりの軽いおふざけだったものの、黒スーツはこの行為に全くも無反応でそのまま作戦書類を手渡した。


「じゃあ頼んだぞ。これが資料だ」


「毎度」


 自分の仕事を終えた黒スーツは無言で自分の持ち場へと戻っていく。1人になった待機室で、コウは緊張感が解けたのか大きなため息を吐き出した。


「はぁ、やってられへんわ……。勝っとったら文句も言えるんやろけど、負け犬は生かしてもらえるだけマシやからな……」


 ひとしきり心の奥に溜まったものを吐き出すと、渡された資料を何度も読み返してその内容を頭に入れ、ヤツはすぐに行動に移る。こうして一番動き出して欲しくない組織がまたしても動き出したのだった。



「解析終わり!」


「長かったぁ~」


 基地では2人体制になったラボで俺のスーツのデータ解析がようやく終わったようだ。実際、これで終わりではなかったものの、大きな区切りがついたと言う事で、所長とモモは一息ついていた。カップに注いだコーヒーを飲みながら所長は頼もしい助手に感謝する。


「有難う、モモのおかげだよ。もう後は私1人で出来るから。休憩が終わったらまたヒーローの方に戻って」


「了解です!」


「さぁて、もうひと踏ん張りと行きますかぁ」


 所長がそう言って背伸びをしているところを、モモは少し遠慮しがちに横切ってラボを出る。そうして歩き始めて少ししたところで、突然基地の警報が勢い良く鳴り響いた。


「何事?」


 この警報はまたしても街に悪党が出現したと言う証だ。通路を歩いていたモモと別の場所でくつろいでいたソラも急いで情報の集まる司令室に向かう。彼が司令室のドアを開けると、ちょうど街を襲った敵がモニターに大写しとなっていた。


「ゲハハハハ!オデの名前はゾルグだ!これからこの街はオデ達が支配する!逆らうヤツは皆殺しだど!」


「まぁ、そーゆーこっちゃ。文句のあるヤツは今すぐ俺達を止めてみるんやな!」


 そこに映されていたのはガシューの怪人と見覚えのある赤スーツ。怪人の方も気になったものの、やはりこの間苦戦した相手を目にするとそっちの方にどうしても気が向いてしまう。敵の正体が分かったところで2人が同時に声を出していた。


「あ、あれっ!」

「コウじゃねーか!あいつ!」


 セルレイスの赤スーツばかりに注目してしまうけれど、ヤツと共闘しているガシューの怪人もかなり厄介そうだった。180センチのコウより大きい事から190センチはあるのだろう。その長身に比例するようにかなりガタイもかなりのマッチョマンだ。そうしてこいつも何故かまた全身が真っ赤だった。何でキャラがかぶってるんだろう。それとも赤で統一したと言うのだろうか?


 ラボで研究中の所長は集中するために外部からの連絡を一切断っている。

 けれど、思わぬ強敵の出現に動揺したモモはこの件についての助言を求めようと思わず口走った。


「所長に連絡を……」


「待て!」


「えっ?」


 ソラは焦る彼女の手を握ってその行為を止める。そうして不思議がるモモに真剣な顔でその理由を説明した。


「アリカにはリーダーのスーツの再調整を急いでもらう。だから連絡は後にしてくれ」


「分かった。じゃあ今から2人で行こう!」


 無言でうなずきあった2人が司令室を出ようとしたところで、ようやく俺はそのドアを開ける。モニターに映っている敵の姿を見て少し前の2人と同じような反応をしてしまった。


「おいおい、これは……」


「何だリーダー、自主練から戻ってきたのかよ」


 遅れて入ってきた俺にソラは呆れた顔で文句を言った。

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