第113話 暴走するスーツ その5

 パワータイプのコウは、直接的な攻撃のやり取りに対してはソラよりもかなり有利な立ち位置にあるようだ。まるで遊んでいるかのように、戦いながらヤツは質問を飛ばす。


「同系列の力は相性悪いもんなあ。いつもどうやって戦こうてたん?」


「こうやってだよっ!」


 ソラはその挑発に乗って両手を前に出すと今までで一番威力の強い精神波を打ち出した。ふたつの手の平から放出されたエネルギーは絡まりあって、互いに力を高めつつ目標物に迫っていく。

 しかしこの渾身の一撃もコウは片手で軽くいなしてしまった。それたエネルギーはそのまま地面に接触して大爆発を起こす。その瞬間に爆風が辺りを視認不能にしたものの、すぐにそれは払拭される。

 コウが軽く手を振っただけで湧き上がっていた爆風が一瞬でかき消されたのだ。


「ヒーロー言う割りに技が少ないんやなぁ。あかんでそれは」


「ならば、超加速!」


 コウにダメ出しをされたソラは次の手段としてスーツの力で加速を始める。一瞬で目の前から姿を消した彼に対し、派手スーツ男は全く動揺していなかった。背後から超スピードで殴りかかったソラの腕をコウはすばやく見極め、そのまま掴んだかと思うと流れるような動きで抑え込む。


「スーツの力なら俺もちゃんと使いこなしてる。舐めとんちゃう?」


「このや……」


 押さえつけながらも鼻息の荒いソラにコウは渾身の一撃を叩き込む。


「せいっ!」


 抑え込まれた上にそこから背中に向かって放たれた掌底の一撃でソラの身体を中心に半径3mほどの小規模なクレーターが出来た。思いっきり地面にめり込んだ彼はそのダメージに耐えきれず、思わずうめき声を上げる。


「うごほっ!」


「信じられんやろ?スーツは物理ダメージ無効のはずやもんな」


 コウに組み伏せられたままソラは一方的に関節を決められた。身動きの出来ない状態で彼は首を動かして相手の顔を見る。


「お前の特性がそれか」


「そ、俺パワータイプやから」


「こ、こなくそーっ!」


 ソラは気合を入れて体内電気を発生させる。精神エネルギーをスーツの力を使って電気変換したのだ。流石にこの攻撃は予想していなかったらしく、コウは思いの外ダメージを受けていた。絶縁体のはずのスーツに通電させるとう言う事はかなりの高圧電流だったのだろう。


「うごおおお!」


 この不意をついた攻撃によってソラはコウの束縛から逃れ適切な距離を取る。そうして攻撃をまともに受けた派手スーツ男に啖呵を切った。


「ヘッ!そっちこそなめんな!」


「デンキウナギかいな、ちょいビビったわ」


「まだまだ技は持ってんだよ!」


 ソラはそう言いながらもコウとの距離を縮めない。それはさっきまでの戦いで十分警戒している事の現れだった。相手もまた同じスーツ装着者、電流のダメージはすぐに回復したらしく、挑発的な表情でソラをにらんだ。


「俺に同じ技は二度と効かんから慎重に使いや」


「その言葉、そっくりお返しするぜ?」


 こうして膠着状態が続く中、自動操縦の車が現場に到着する。そこから現れたのはモモだった。彼女は車から降りるとすぐにソラのもとに駆け寄った。


「間に合った!大丈夫?」


「ピーチ!俺ひとりでも大丈夫だったのに」


「苦戦してるじゃないの!強がりはよして!」


 モモは現場に着くまでにこの2人の戦いを見て対策を練っていた。だから彼が苦戦していたのも既に知っている。強がりなソラが彼女のアドバイスを右から左に受け流していると、そこで人数が足りない事に気付いた。


「あれ?リーダーは?」


「まだ時間かかってる」


「なるほどね。了解」


 短いやり取りで事情を察したソラはすぐに視線を対峙する敵の方向へと向ける。やっと意識が自分の側に来たと認識したコウは改めておどけたようにこの更新された状況を口に出す。


「お、もう1人増えたやん」


「どうも」


 その言葉が何を意味しているのかすぐに理解したモモは、目の前の敵に対して戦闘態勢を崩さないまま必要最低限の挨拶を交わす。彼女の声を聞いたコウはほうと驚いた顔をしてパンと軽く手を叩くと、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。


「そのヘルメットの中、きっとベッピンさんなんやろね。俺はコウ。よろしく」


「じゃあ私はピーチって呼んでね」


「ピーチか。お姫様やんな」


 突然戦闘に現れた異性にコウは興奮しているようだ。そのおかげで視線は彼女の方にずっと向いていた。すぐにその状況を理解したモモはヤツの注意を惹きつけるように挑発的なポーズを取る。

 しかし逆にそれがわざとらしかったのかコウの警戒心を高める結果となり、すぐに彼は現状認識をしようと視線を戻した。そうしてすぐにその違和感に気付く。


「あれ?あいつは?」


「たああーっ!」


 そう、この時、ソラはコウがモモに気を取られているのを利用して超高速でまた攻撃を仕掛けていたのだ。この2人のコンビネーションには全く無駄な動きはなかったものの、異変に気付いたヤツの動きもまた素早かった。スーツパワーで目にも止まらない早さで攻撃を繰り出したと言うのに、ほんの一瞬でまたバックステップで距離を取られてしまったのだ。


「不意打ちとか、俺に効く訳ないやん」


「くそっ!」


 自慢の一撃が空振りに終わり、ソラは不満の声を漏らす。この一連の動きを実際に目にしたモモは冷静に状況を分析した。


「あいつ、早いね」


「パワータイプだ。油断出来ねぇ」


 こうして戦闘は膠着状態に突入する。2対1と数の上では有利なはずのヒーロー側がうかつに攻撃に動けない中、コウが突然意外な一言を告げる。


「で、いつ3人揃うん?」


「何?」


 その言葉にソラが反応する。動揺するヒーロー側の2人に対し、セルレイス側の派手スーツ男は淡々と自分の目的を素直に口に出した。


「いや、君ら3人でセットやろ?全員倒せって命令受けとるし」


「お前如き俺1人でも十分だっての!」


 ソラはコウの言葉を受けていつものように強気な言葉を返した。今までの戦闘ならこの言葉にもある程度の説得力があったものの、今回は戦力差と言うアドバンテージがない事もあって、全く敵側に精神的な揺さぶりの効果はなかった。それどころか逆に挑発し返されてしまう始末。


「あれ?君俺が今まで遊んでやってたのに気付いてなかった?」


「何っ?」


 コウの放ったその一言にソラは機嫌を悪くする。挑発した本人は更に言葉を続け、ヒーロー側、特にソラを煽った。


「君1人倒してもしゃーないやん。今までのは全員揃うまでの遊びやで。遊び」


「ざっけんな!波動カッター!」


 挑発されて最高に気分の悪くなったソラは腕に力を込めると時空を切り裂く威力の精神エネルギー波を放った。その攻撃に気付いたコウもすぐにその技に反応する。


「無空波!」


 ふたつの巨大なエネルギーは空中で衝突しお互いに打ち消し合う。どちらかの力が強ければ強い方の攻撃がそのまま相手を貫いただろう。

 けれど結果は対消滅。これはふたつの力が全く同じ威力と言う事を意味していた。この結果を目にしたモモが思わず声を上げる。


「嘘!打ち消しあった?」


「効かんって、君の技は」


「ならば……」


 波動カッターを防がれたソラは次の技の構えを取った。両腕を胸の前で交差して力を溜め、素早く振り払う。次の瞬間無数のエネルギー波が空中に発生し、次々に標的の派手スーツ目掛けて撃ち放たれた。

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