第106話 蘇る伝説 その7

 勿論これは俺の勝手な推測だ。けど、多分そんなに大きくは間違ってはいないはず。って言うか、そもそもあのパワーアップは一体どう言う仕組みなんだ?多分それを理解した方が今後の対策も立てやすい。

 この遺跡にも詳しかったモモなら知っているだろうか?


「その前に教えてくれ、あの力は一体」


「伝説が真実ならば……あの力はこの地を支配した神が、この地を去る時に祝福として残した物だとか……」


 彼女の話を聞いた俺はその話の違和感に首を傾げる。神の加護があったなら何故――?


「でも、この地に住んでいた人達は絶滅してしまったんじゃ……」


「そう、神の力を頼る前に流行病の流行でね。それに力を得るには生贄が必要だった。それを拒んだためとも言われてる」


「じゃあヤツは誰かを生贄に……あっ!」


 俺は石像が生贄を求めると言うその言葉にピンときた。すぐにモモも同じ結論に達する。


「あの叫び声の主が生贄にされた?」


「きっとそうだ!あいつは現に力を得ている。間違いない!」


 2人の意見が合致したところで、大体の事情が見えてきた。ルードラは何かのきっかけでこの遺跡に眠る石像の事を知り、自分の欲望のために仲間を犠牲にしたんだ。本当になんてヤツだ!


 ふっとばされた俺達は何とか踏ん張りをきかせて、ギリギリで遺跡から落ちずにいた。力を得て余裕たっぷりのルードラは、視界を遮る風の鎧を消してゆっくりと俺達の方に向かって歩いてくる。

 その静かで重い圧は、俺達の精神を容赦なく削ってくるのだった。


「さぁてぇ?そっちが来ないならこっちから行くぞお?」


「くそっ!あいつ、力試しで俺達を殺すつもりだ!」


「今は逃げましょう。その間に作戦を考えます!」


「頼む!」


 俺達はお互いにうなずきあって逃げ出した。まずはこの屋上からの脱出。急いで階段を降りて一階を目指す。正直このまま遺跡から脱出してもあまり意味はないだろう。どこかでヤツとは対峙しなければならない。ただ、こうする事で何とか時間は稼げるはず。今は頭脳派のモモに頼るしかなかった。

 出来れば所長にもアイディアを求めたいところなんだけど、国外に出たからかさっきから全然連絡がつかないんだよな……。



 俺達が屋上から逃げ出した後もルードラはその場に留まり、自身から溢れ出す力に酔いしれていた。


「ふおおお!力が溢れてたまらない!この力を使いたくてウズウズする!」


 ヤツは姿を消した俺達の位置を目測で読み取り、その方向に向かって力任せに腕を振り下ろす。その瞬間に発生した魔力のこもった突風は遺跡を破壊し、急いで逃げる俺達のすぐ足元までえぐり取った。

 この衝撃で一瞬モモの足の動きが止まる。


「きゃっ!なんてデタラメなのっ!」


 破壊された部分を俺は覗き込む。この攻撃で遺跡の一部は完全に破壊され、そこから地上の様子が見えていた。この状況を目にした俺はある作戦を思いつく。


「そうだ!俺達は物理的なダメージは無効化されるんだったよな?」


「えっ?」


「ショートカットだよっ!」


 俺はそう叫ぶと、モモをお姫様抱っこして破壊された場所からそのまま地上目掛けて思いっきりジャンプした。この突然の行動に彼女は大声を上げる。


「ちょ、うわあああー!」


「ほう?勝てないと分かって自殺か?」


 屋上からその様子を見下ろしていたルードラは、俺の行動を都合良く誤解してくれた。自由落下する俺達は一切の攻撃を受ける事なくまっすぐ地面へとスピードを上げて落下していく。

 高所からの落下が初めてのモモは、スーツの性能も忘れて恐怖にかられていた。


「あああーっ!」


 最大限にスピードが乗ったところで、俺は足を踏ん張って見事に着地に成功する。スーツのダメージ無効化システムのおかげで、高所から落ちたところで全くのノーダメージだ。見事着地に成功したと言う事で、俺はほっとため息を吐き出した。


「っと、よし、大丈夫!」


 それからお姫様抱っこした彼女を優しく地面に下ろす。しばらくぽかんとしていたモモは、事態を理解した途端に俺の頭をポカポカと叩いた。


「大丈夫って……。無茶しないでよっ!」


「あはは、ごめん」


 地上で俺達がそんなコメディを演じていると、屋上でその様子を目にしたルードラが目を丸くする。


「まさか……生きているのか」


 ヤツはスーツのダメージ無効化機能を完全に理解していないのだから、そう言う反応になるのも当然だ。ただ、一度理解してしまった以上はすぐにまた攻撃は再開されるだろう。

 あまり浮かれている余裕はない。俺はすぐに彼女に声をかける。


「で、作戦は?」


「え?まだ何も……」


 ヤバイ、脱出を急いだせいで時間自体は余り稼げていなかった。まずはヘリコプターにまで移動してそこから逃げるか――いや、逆にそんな事をしたらヘリコプターごと破壊されるのがオチだ。

 ならば敢えて逆方向に逃げた方がいい。地上に降りたのだから森の中に逃げ込めばまだ勝機はある――はず。


「ふん、今の俺に敵との距離など関係ない……」


 ルードラは遺跡の屋上から腕に力を込める。遺跡の屋上は地上から30mほどの高さがあった。その位置から俺達のいる場所に向かって強力な風の刃が周囲の空気を切り裂きながら向かってきた。

 風刃は魔力を持った風なので目には見えない。なので突然至近距離で木々がなぎ倒される光景にビビってしまう。


「うわっ!」


「ソラがいればな……遠距離攻撃も出来たのに……」


「私達で何とかしましょう」


 遺跡の屋上からだと言うのに全く威力に問題がないルードラを前に、俺達は戦慄を覚えた。立ち向かうにしても逃げるにしても、まずは情報が欲しい。

 俺は遺跡方向に注意を向けながらモモに質問する。


「あの神の力とやらに何か弱点は?」


「さあ?あるんでしょうか?」


 彼女から返ってきたのは何とも頼りない言葉だった。このままでは埒が明かないと質問の方向を変える。


「じゃあ、この遺跡の伝承とかでそれらしきものは?」


「……ちょっと待ってください、確認します」


 モモはそう言うとスーツの機能を利用して情報を収集し始めた。この作業には平常心が何よりも重要だ。焦って小さなミスをしてしまうだけでもかなりの時間のロスに繋がる。

 俺は彼女に安心して作業をしてもらうために行動を開始した。


「頼んだ!時間稼ぎしてくる!」


「えっ?」


 戸惑うモモを置き去りにして、俺は遺跡に向かてって走り出した。屋上からでもそれが確認出来たのだろう。風の魔法使いはターゲットを俺ひとりに絞って魔法の構えを取る。

 それにしてもかなり離れているのにはっきり目視出来るとか、パワーアップってのは身体能力全てに発揮されているらしいな。


「ほう、ひとりで立ち向かうか。殊勝な心がけだな」


「お前らが力を得たように俺もちょっとは成長しているんだぜ」


「ならば神たる俺に示してみろよ!そらそらそらっ!」


 30mの高さからの風刃の攻撃を俺はトレースの力を借りて紙一重で避けまくる。実際距離がある分、気をつければ避けるのはさほど難しい事ではなかった。

 イメトレは体が勝手に反応するため、頭は他の事を考える余裕がある。それを利用して、俺はヤツが余計な事を考えないように挑発し続ける事にした。


「くははは!力だけは強くなったみたいだなっ!」


「何故だ?何故当たらない?さっきもそうだった!」


「教えるものかよっ!くらえ風刃!」

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