第81話 ランチタイムまでに その4

「く……くく……これはな?あの男がピンチの時に使えと渡してきたものだ……」


 パルパルはそう言いながらそのリモコンのスイッチを操作する。その行為に嫌な予感を感じたソラはすぐにそれを止めようと声を張り上げた。


「ば、やめろっ!」


 その忠告も虚しく、やつはその装置を作動させ――結果として大爆発を起こす。爆発力はかなりのものではあったけれど、ソラの結界を引き剥がす程のものではなかった。

 こうしてパルパルの最後の行為は無駄死にと言う結果に終わる。よっぽど"あの男"とやらを気に入っていたみたいだが、悪の怪人の癖に疑う事も知らないマヌケなヤツでもあったようだ。


「ったく。結局は利用されただけで終わってんじゃねーか」


 怪人の自爆で今回の事件はケリがつき、やがて悪趣味な霧も晴れてきた。ソラはすぐに自分の結界内に避難させた俺を大雑把に揺さぶって起こす。


「先輩、先輩っ!」


「ん、ああ、ソラか……」


「ったく、しっかりしてくださいよ」


 寝ぼけ眼の俺は寝起きというのもあって周りの状況に理解が追いつかない。頭を振って何とか意識を覚醒させようとしたところで、寝てしまう直前の一番の懸念材料を唐突に思い出した。


「そうだ!モモは……」


「彼女ならそこで寝てるよ。言っとくけどあれ、ただの催眠ガスだから」


「そうだったのか、良かった」


 すやすやと眠る彼女が無事だと聞いて俺はほっと胸をなでおろした。大体の感覚が戻ってきて俺はゆっくりと立ち上がる。眠る前に俺達の行動を遮っていた霧はもうすっかりと晴れ、見慣れた街の景色が目に入ってきた。どうやらまたソラに手柄を独り占めにされたらしい。

 俺が起き上がったのを確認した彼は、またいつものようにすぐに現場を去ろうとする。


「じゃ、俺、行くから」


「あ、ちょ、ま……」


 俺はまるで焦って現場を後にしようとするソラをとっさに引き止めた。それが気に入らなかったのか、呼び止められて振り返った彼は不機嫌な顔をする。


「何?急いでんだけど……」


「いや、ありがとな」


「仲間だから当然でしょ」


 いつも言えないお礼を今回はちゃんと言えて俺は満足する。ソラはと言えば、そんな俺との会話を早々に終わらせると、走って停めてあったバイクの場所まで向かう。そうしてすぐに俺の視界から消えていった。

 その様子からかなり焦っている事が伺われたものの、俺は彼がなぜそんなに急いでいたのか、その理由は分からない。ソラが完全に視界から消えたところで、俺はいつものように現場の後始末をする。


 現場に残っていた爆発の後を片付けていると、その気配に気付いたのかモモもここで意識を取り戻した。それからは2人で適切な処理をして、事後処理を綺麗に終わらせると、誰かに気付かれて騒ぎになる前に素早く現場を後にしたのだった。



 その頃のソラは時間との戦いに望んでいた。こればっかりはズルの出来ない真剣勝負だ。目一杯飛ばしたバイクは学校までそのスピードを緩ませない。


「やべっ!間に合うかな……」


 学校に戻った彼はバイクを駐輪場に止めて急いで自分の教室まで戻る。この時、時計の針は12時をとっくに過ぎていた。最短距離を最高速度で走って息を切らしながら教室に入ると、班のメンバー全員誰ひとりお弁当に手を付けつる事なく愚直にソラの帰りを待っていた。


「おっ、来た」

「おっそーい!」


 班のメンバーにさんざん絡まれながら、ソラは自分をずっと待ってくれていたメンバーに軽く頭を下げる。


「わりぃ……」


「でも良かった。戻ってきてくれて」


 嬉しそうに笑う美咲のこの言葉に彼は頬を赤く染めながら返事を返した。


「や、約束したんだから……当然だろ?」


「早く座って、一緒に食べよっ!」


「ったく、面倒臭い……」


 こうして何とか昼食に間に合った彼は班のみんなと楽しいランチタイムを過ごす。面倒臭がりながらも、それがポーズだと言うのはその笑顔を見ていたら分かる。


 しっかり学生として過ごし、クラスメイトとも打ち解けていると言う報告が後で所長の耳にも届き、彼女はひとりニヤニヤとしながらこの時のソラの観察データをしっかりとデータベースに記録するのだった。

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