第69話 ソラの謎 その4
以前からスーツの力を引き出そうと何度も挑戦していたこの技は、スーツの特性である無敵の防御機能を更に強化する事が出来る。この技が失敗なく通常の戦闘で使い物になるレベルまで使えるようになったのはつい最近の事だった。
俺の気力が充満したスーツは奴のとっておきの技を打ち砕く。その様子を目にしたルードラは、自慢の技が効かなかった事に動揺する。
「お、おう……やるじゃないか」
「ふ、反撃はこれか……うぐっ!」
俺が調子に乗って得意げな顔で勝ちセリフを喋っていたその時だった。死角から放たれた謎のレーザー光線が俺の身体を貫いた。気配なく行われたこの不意打ちを受けて俺は片膝を付く。
「ルードラ君、囮ご苦労」
「な……に……?」
それは出撃前に基地の司令室で聞いた声だった。まさかと思い振り向くと、ずっと探していたスーツ男がそこにいた。今のレーザー攻撃は奴が放ったものに違いない。このスーツ男の登場にルードラは悔しそうな顔でボソリと呟く。
「私はお前に負けた、だから従う。それだけだ」
「さて、チェックメイトだな、ヒーロー君」
「お前は……誰だ?」
撃たれた脇腹を押さえながら俺は言葉を絞り出す。スーツの回復機能があるからこの程度のダメージ、時間さえ稼げれば何の問題もない。モニターで見た通りの黒地に緑ラインのスーツ男は軽く咳払いをして、渋い声で語り出した。
「今から死に行く者に名前を名乗る程悪趣味でもないが……いいだろう。私の名前はテン。貴様に引導を渡す者だ」
「テン……か。短くて覚えやすい、いい名前だな……」
「ふん、今から死ぬ人間に讃えられてもな……」
どうやらテンに軽口は通用しないらしい。その態度は流石セルレイスの人間らしく上から目線だ。
しかし、このやり取りで十分に回復するだけの時間は稼げた。これで十分。早速反撃だとばかりに俺は勢い良く立ち上がると腕に力を込める。
「そこだっ!風神撃!」
「あっ、お前それ俺の技のパクリッ!」
技名を叫んだ俺にルードラのツッコミが入る。そう、この技は奴の風刃と原理は全く同じものだ。同じ技を使いたくて鍛錬した成果がやっと形になったのも、またほんの数日前だった。所長が飛び道具を作ってくれないから、遠距離攻撃を得る事は急務だったんだよね。
俺の腕から放たれた風の刃はしかしテンの体をすり抜ける。破壊対象を失った風の刃は威力を失い、やがて大気に溶けていった。
「き……消えた?」
「私は少々早く動けるのが長所でね。それ以外はキウ先輩の方が上ですが」
困惑する俺の目の前に突然奴の姿が浮かび上がる。そうやら緑のスーツ男の特技はその素早さにあるらしい。
「くっ!」
俺はすぐにバックステップを踏んで適切な距離を取る。テンはその行為に全く動じず、得意げに講釈を垂れる。
「速さを馬鹿にしてはいけません。素早さこそ何を置いても一番に磨くべきスキルです」
奴はそう言ったと思うと突然姿を消した。きっと自慢の素早さで高速移動とかしているのだろう。漫画とかで忍者がそう言う技を使っていたりするけど、まさかこの場面でそんな事が起こるとは思わなかった。俺はテンの気配を探りつつ、警戒を強める。
「ど、どこだっ!」
「私にはあなたが止まって見えますよ」
姿は見えないのに声だけは聞こえる。この状況に危機を覚えた俺はとにかくこの場所から離れようと走り出した。何処かで上手く体勢を建て直さなければ……このままだと何も出来ない内にいいサンドバックになってしまいかねない。
しかしこの俺に行動もまた、奴にはお見通しだったようだ。
「距離を取れば体勢が立て直せるとでも?」
かなり距離を取ったはずなのに突然目の前にテンが現れる。現れたと同時にその拳が俺の腹を抉る。防御も何もこの不意打ちに全く対応が出来なかった。
同じスーツを着た者の攻撃だからだろうか、普段なら通さないはずのその衝撃を俺はダイレクトに受け取っていた。
「がはっ!」
「確かにレーザーは物理的攻撃でない分、距離を取れば威力は弱まりますがね……」
そう言いながら奴は俺の背中に手を当てる。さっきの攻撃のダメージが抜けていない俺はまだすぐには動けない。
「こうしてゼロ距離に詰めれば何の問題もありません」
テンの手から放たれたレーザーが俺の身体を直接焼いた。スーツの無敵機能の設定がキャンセルされたかのような激痛が俺の身体を走っていく。
「ウグァァァァァ!」
「おっと、まだ死なないでくださいね。あなたはソラをおびき寄せる餌なんですから」
「うう……ソラ……」
俺はこの緑ラインのスーツ男に全く歯が立たなかった。強力なレーザー攻撃によって朦朧とする意識の中、素早さは確かに大事だと実感する。この時、攻撃なんて当たらなければどうと言う事はないと言う某アニメキャラの台詞が頭に浮かんで――為す術もなくその場に倒れ込んだ俺はそのまま意識を失った。
「何だって?!どうしてもっと早くに教えない!」
「だって、授業……」
所長から後で事情を聞いたソラが激怒している。彼は昼休みにこの事件を知らされていた。少しでも授業を優先させたいと願った彼女の思いをソラは汲み取る事が出来なかったようだ。
「授業なんかよりこっちの方が重要だろっ!あいつにセルレイスのメンバーが倒せる訳がない!」
「そんな事分かんないよ!」
「あいつはまだスーツの本当の能力を目覚めさせていない!そんなんで勝てる訳がない!」
「う……」
彼の言い分は最もだった。セルレイスのスーツ男に俺はまだ単体で勝った事がない。勝率を考えたら俺ひとりを現場に向かわせたのは悪手と言う他ない。
図星を突かれて言葉を出せなくなった所長にソラは容赦のない言葉を浴びせ続ける。
「きっと今頃あいつは体のいい人質になってる。せめて一緒に行っていれば……」
「分かったよ!分かったから急いで!最悪が実現してしまう前に!」
散々罵倒されて涙目になりながら、彼女はソラに俺の援護を訴える。その言葉を最後まで聞く前に彼は動き始めていた。
その頃の俺は四肢を固定されて吊るされていた。色んな物語でもお馴染みの見世物人質のアレだ。創作物ではよく目にしていたものの、まさか自分がその対象者になるとは思わなかった。普段のスーツの能力ならこんな束縛、すぐにでも破壊出来るはずなのに、それが一向に出来やしない。力そのものが封じられているのか全く力が出ないのだ。
この拘束具、スーツの技術を持つセルレイスの耐スーツ用特殊用具なのかも知れない。ひとりで粋がって行動して、まさかこんな展開になってしまうなんて――。
そんな無様な俺をニヤニヤと笑いながら眺める群青色のフード男。くそっ!なんて屈辱的なんだ。
「ふふ、いいザマだな!」
「くそっ!お前ひとりなら……」
「私になら勝てると?私もしっかり鍛錬している、力の差が埋まる事など……」
ルードラはここぞとばかりの自分の実力を身動きの取れない俺に向かってPRする。
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