第51話 新しい相棒 その3
今は身動きが出来ない以上、スーツの無敵機能を信じるしかない状況だ。
「何でもいい!得意な攻撃をしてくれ!」
「ならば……喰らえ!毒液攻撃!」
ヴァルクはゾーイの要請に奴が得意らしい毒攻撃をぶちかます。その爬虫類のような口から吐き出された毒液は身動きの取れない俺の頭上に降り注いだ。
「うわあああ!」
「ちっ、スーツ自体は溶かせないか。だがその反応、無傷ではないんだな?」
スーツの無敵機能は正常に作動している。しているはずなんだけど、ゾーイの音波の影響か、毒への耐性が弱くなっているのか、ヴァルクの放った毒液を浴びた瞬間焼けるような痛みが俺を襲う。スーツ自体は全く傷ひとつ付いてないのに……毒液がスーツを浸透したと言う事なのだろうか?
けど、ここで弱みを見せたらそこを突かれて更にピンチになるのは間違いない。それを避ける為、悟られないように俺は強がりを言う。
「ふ、それはどうかな?」
「強がりか……それとも?」
今回は激戦が予想されたので最初から顔もマスクで覆っていたおかげで外からは表情を読み取れない。敵を翻弄するのにもこれはちょうど良かった。
ただ、いくら表情を読まれなくても身体の自由が効かない以上、ピンチの状態が変わる訳ではなく……今取れる作戦としては無駄話でも何でもして時間を引き伸ばし、ゾーイの体力切れを狙う方法を取るしかなかった。
そんな状況の中、満を持してまたしてもローグが高らかに上から目線で宣言する。
「2人共、足止め御苦労様、トドメは私に任せてくれたまえ」
「くっ……」
やばい、この身動きの取れない中で奴の氷魔法をまともに食らったら……動けない俺は格好の的だ。俺は何とか身体を動かそうと全神経を集中させる。
俺の集中がゾーイの呪縛を解くか、ローグの魔法が先に俺を攻撃するか……結論は勿論決まりきっていた。
「千の氷結矢!」
ローグはそう叫ぶと空中の水分を無数の鋭利な氷の刃物に変え俺に次々に突き刺した。スーツの能力でそれらが俺の身体を貫く事はなかったものの、物理的衝撃は吸収出来ずに俺の体に痛みを残していく。針で刺す痛みが体中を容赦なく襲った。
「ぐはああっ!」
さっきとは逆に今度は今度はローグはニヤリといやらしく口を歪ませる。それは弱者をいたぶるサディストの顔だった。
「かはははは!いいザマですね!」
「参ったな……流石に連携が取れている……悪党も成長するのか……」
俺は敵にいたぶられながらつぶやく。最初から全く油断せずに本気で俺を殺そうとする熱意を特にゾーイから感じる。前の戦いでひとりだけ生き残ったその無念さが奴にここまでの執念を抱かせたのだろう。
俺は前の戦いでゾーイを取り逃した事を後悔していた。
「反撃させなければ十分に勝ち目はある!ファイナルフェイズだ!」
ゾーイは音波を出しながらそう叫ぶ。ったく、音波とは言っても形的には大声を出している状態だぞ。それでなんで息が切れないんだよあいつは。
普通の人間ならとっくに息が切れて音の放出は止むはずだ。そのチャンスを伺っているのに全然隙がない。流石その能力に特化した怪人だけはあるな……。
ただ、いくら毒や氷魔法を食らってダメージを受けても俺のスーツには強力な回復機能がある。少し攻撃が止むだけでスーツの機能で俺は回復していた。
回復も間に合わないような強力な技でも喰らわない限り、まだ俺の方が有利だ。敵側にそんな技を持つ者がいなければ、勝ち目は十分にある。
そんな時、何か閃いたのか次々に毒液を吐き出して俺を毒まみれにしていたヴァルクにローグは声をかける。
「君の毒の力を私の力で氷のナイフに変えよう。そうすれば更に攻撃は強力になります」
「分かった。そらっ!」
ローグの要請を受けてヴァルクは奴の目の前で毒の塊を吐き出す。するとすぐにそれは凶悪な無数の毒の氷の矢に変わった。
「行きますよ……名付けて毒氷結矢!」
「くっ!」
凍らせた毒の矢は俺のスーツを貫通させてしまうかも知れない。この時ばかりは大ダメージを覚悟した。ゾーイの音波はまだ途絶えない。絶体絶命だ。
すぐにローグの念が空中に浮かぶ無数の毒の氷の矢を俺に向けて解き放った。この時、俺はもう覚悟を決めていた。動けないならもう受けるしかない。
全く反撃も出来ずにここで終わるのか……くっ、無念。
「……全く、いつもこうなの?先輩」
「ソラ?」
気が付くといつの間にか俺の側に見慣れない水色のスーツを着たソラが立っていた。マスクで顔を覆っている俺と違ってソラは自信の現れか顔をマスクで隠してはいない。彼は自分の周りに見えないゾーンを作りローグの攻撃を弾いたばかりか、音波を遮断し、俺の身体の呪縛も解いていた。
「俺が来たんだからもう楽勝でしょ」
「また出たぁ!」
ソラの登場にゾーイは落胆して悲劇的な大声を上げる。前回の共闘でもソラによって力の均衡が崩れゾーイ達は負けたのだから、その心理的影響はトラウマレベルのものだろう。自慢の音波が遮断された時点でゾーイは攻撃を止めていた。もしかしたら力を使い果たしたのかも知れない。
どちらにせよ、その姿からかなり疲れ果てている様子が伺われた。
ソラは今の状況を確認するために周りをじっくりと見渡している。彼の姿を初めて目にしたローグが不思議そうな顔をしながら口を開いた。
「ん?誰だ君は?」
「ああ、知らない人もいるね?僕はソラ……ヒーロー2号かな。ちゃんとしたヒーローネームが欲しいけど、まあいいや」
余裕があるのか度胸があるのか、敵の前で全くの平常心のまま自己紹介するソラに俺は彼の器のデカさを思い知った。流石敵の施設で育った人間は場馴れしている……。
ここでソラの姿を見て一度は心が折れたゾーイが気合で復活した。
「お、お前も許さないぞ!」
「許さなかったら?」
ソラはそんな奴の態度を見てにやりと笑うと余裕たっぷりに挑発する。キレたゾーイは恐ろしい気迫でさっきとは違う攻撃系の技を放った。
「ゾーイソニックアロー!」
奴の口から放たれた強力な音波の矢がゾーイを襲う!
「だからぁ……」
そんな状況にあってソラは全く意に介してないような態度を取っていた。
「その手の攻撃は効かないんだよっと」
ゾーイの音波攻撃はソラのゾーンに跳ね返されて届かない。今度はソラの攻撃の番とばかりにゾーイに向けて彼は手をかざす。次の瞬間、強烈な衝撃波がゾーイを貫き、奴はいとも簡単に吹っ飛んでいった。
「グボバワラァ!」
「はい、いっちょ上がり」
ソラの無敵っぷりに見とれていた俺はその間身動きひとつ取れなかった。元々能力が使えるからか、彼はすぐにスーツの力をモノにしている。最初は全く力を使えなかった俺とは大違いだ。
「すごい……」
「先輩、ボケッとしてないで、働いてくださいよ!」
「あ、ああ、すまん」
ソラに促された俺が動いた次の瞬間、ヴァルクはこの異常事態に敏感に反応する。
「2人目のスーツ男とか聞いてないぞ!」
「あ、逃げた……」
獣は危機察知能力に優れると言うが、この獣人もその類だったのか状況が不利になったと察した奴は全力でこの場から離脱していった。
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