第50話 新しい相棒 その2
俺は口では所長に合わせながら、あまりその言葉に頼らないようにしようと胸に刻みながら現場へと向かうのだった。
俺が事務所を出たのを確認して、所長はため息を吐き出して独り言のようにつぶやく。
「……それじゃ、あの子に連絡しなくちゃ。最終起動実験、まだ成功してないし……本当はもっと丁寧に調整したかったなぁ」
そんな訳で待ち合わせ場所に到着すると、いつものように警部が歓迎してくれた。俺に気付いた警部が手を振っている。
「警部!」
「おお、来てくれたか。目標はあの建物の中にいる」
警部が指差した場所はどこか冷たさを感じる無機質な白い建物だった。まだ出来て間がないのか全く汚れていない感じが潔癖さをイメージさせている。
「あの建物は?」
「あそこは世界の未来を見据えた研究施設だ。出来るだけ無傷で問題を解決してもらいたい。無茶なのは承知だ。止む終えない場合は仕方がないが……」
「了解です、行ってきます」
今回の依頼も難易度はかなり高いようだ。大体、戦闘になれば何かが壊れるのは当然のリスクであり、正義のヒーローだからって何も壊さずに事件を解決なんて出来はしない。
とは言え、相手次第ではあるんだけど……ただ、今回も3体共闘事案だからなぁ。どんな結果になっても被害額を請求なんて事にはならないで欲しいところだ。
俺がそう考えながら現場に向かっていると背後から警部の声が聞こえて来た。
「多分罠が張ってあるはずだ。気をつけろ!」
施設の入り口の前まで来て、不自然な程に静かなこの状況に俺は思わず建物を見上げる。
「さてと、鬼が出るか蛇が出るか、かな?」
改めて気合を入れ直すと俺は一歩を踏み出した。研究施設とは言え、流石に入口は普通の建物とそんなに変わらない。人払いはされていてとても静かでガランとしている。
警戒しながらキョロキョロと辺りを観察していると、吹き抜けの2階から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「フフフ、来たな、ヒーローめ!飛んで火に入る夏の虫だ!」
「聞き覚えがあると思ったらゾーイじゃないか!復讐か?」
そこにいたのは以前の3体共闘戦で唯一取り逃がしたガシューの怪人、ゾーイだった。確か、超音波攻撃が得意な奴だ。一度戦った相手なら対策も立てやすいと俺は口角を上げる。するとヤツの隣からこれまた懐かしいシルエットが姿を表した。
「ゾーイだけじゃありませんよ?」
「お前は……ローグ……。MGSも共闘をするのか……一体どうなってるんだ?」
そう、そこに現れたのは街の一区画一面を氷漬けにする魔力の持ち主のMGS所属の魔法使い、ローグだった。前に会った時と同じく地味目のローブを身にまとっている。そして相変わらずローブを深く被り過ぎて鼻から上の顔は見せてはいない。
前回との戦いの様子からプライドの高そうなMGSは共闘はしないものと思っていたが、どうやらそれは俺の思い込みだったらしい。
「敵の敵は味方って事です」
「いやはや、世間は狭いね」
余裕たっぷりに喋るローグに対して俺は軽口を言った。この共闘メンバーにローグがいると言うのは流石に予想外で、いきなり俺はピンチの局面に立っていた。何しろ前回戦った時はあの氷攻撃に決定的な一撃を与えられなかったのだから。
俺が余裕の表情の裏側で冷や汗を流していると、最後の3人目が自己紹介宜しく勢い良く姿を表し、大声で宣言する。
「そして最後は俺だーっ!」
「うおっ!これは元気な新人さんだ。君らがスカウトしたのかい?」
そこに現れたのは全身緑の獣人だった。モチーフは爬虫類だろうか?獣人と言う事はこいつの所属はゲルス。またしても全員所属がバラバラの共闘だ。
大きい目玉をキョロキョロと動かすこの獣人、ハッキリ言ってあまりお近付きにはなりたくないタイプだな。
しかし全くデータのない相手はどう対処していいのか見当がつかない。今回の戦闘で一番注意しなければならないのはこいつだろう。
「俺はゲルスのヴァルク!覚えておけ、お前を倒す男の名だ!」
「やだね。俺はこんな所で死ぬ男じゃない」
「ふん、軽口を」
まず最初の口での戦いは俺の勝ちのようだ。やり取りから推測するにこのヴァルクはあまり頭の出来は良くないと思われる。パワータイプか、それとも特殊な能力があるのか――どちらにせよローグ達と組んでいる以上、油断は出来ないだろう。
すぐに戦闘の構えを取って警戒していると、2階からその様子を見ていたローグが俺を挑発する。
「さて、どうするヒーローさん、確か前は私ひとりに手も足も出ませんでしたよね?」
「いい事を教えてやろう。こう言う時に言うヒーローにセリフは決まっている。やってみなくちゃ分からない、だ!」
「氷結!」
俺がかっこいい一言を叫んだと同時にローグは自慢の魔法を発動させた。次の瞬間、俺は分厚い氷の柱に閉じ込められる。
この手の攻撃自体は二度目だったものの、前回も脱出に苦労したかなりキツイ攻撃だ。いきなり大技を使ってくるなんてヒーロー物の戦闘パターンから言って禁じ手じゃあなかろうか……。
「お前、流石だな」
カチンコチンに固まった俺の姿を見ながらゾーイがローグに声をかける。それを聞いた黒いフードを被った地味な魔法使いは得意気に口を滑らした。
「君達の出番はなかったようだよ。悪かったね」
「マックスファイア!」
スーツから発生した熱気が炎の柱となりローグの作り出した氷の柱を一瞬にして蒸発させる。その熱によって研究施設は一瞬濃い霧が漂ったような状態になった。この状況に一番驚いたのは俺を氷で閉じ込めたと思い込んでいたローグ自身だった。
「何っ!」
「驚いたか?俺だって日々進化してるんだ」
俺はドヤ顔でそう宣言する。この技は前回閉じ込められた時の経験を教訓に密かに特訓していたものだ。いつか再戦する時の為に技を磨いていて今回初披露となった訳だけど、技の完成がこの日に間に合って良かった。
自慢の魔法が破られた時のローグの驚いた顔ったらなかったな。ああ、その表情が見たかったんだよ。ま、鼻から下しか見えなかったけど。
「やはり共闘で正解だったな!」
この事態にほくそ笑んだのは前回俺が取り逃したゾーイだった。この話の流れからこの共闘を呼びかけたのは奴だろうと俺は推測する。戦闘態勢を取ったゾーイは間髪入れずに俺に向けて最大の技を放つ。
「うおおおおーっ!ケインとメメラの
「う、うぐぐ……」
ゾーイお得意の音波攻撃だ。流石の無敵のスーツもこの手の見えない攻撃には弱い。致命傷を与える攻撃ではないけれど、完全に身体の自由を奪われてしまった。
恐ろしい技ではあるものの、俺の動きを止めるには相当なエネルギーを消費しているはず……多分長くは持たないだろう。
それは敵同士でも理解出来ているようで早速獣人のヴァルクがゾーイの張り切り具合に釘を差していた。
「おい、いきなり熱くなるなよ!ペース配分をだな……」
「こいつ相手に手抜きはなしだ!頼む、協力してくれ!」
「しゃーねーな……何をすればいい?」
ゾーイの熱意に打たれたヴァルクは戦意を俺に向ける。何だかやばい雰囲気だな……。
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