求められるヒーロー
第14話 求められるヒーロー その1
俺がまた警察に呼ばれて仕事に出掛けている間、所長のアリカが誰かと電話している。どうやらスーツ開発の関係者と話をしているようだ。
所長は俺には一向にスーツの事に関して詳しい事を話してくれていない。本当、いつかちゃんと説明して欲しいものだ。
「どう?新人君」
「どうも何も……まぁ、他に候補者が見つからないから」
「アリカにしては情けない言葉ねぇ。いつもの自信はどうしたの?」
電話の主は普段の、いや、探偵社を立ち上げる前の彼女の事もよく知っているようだ。
しかし何だ?俺が適格者だったのが不満なのか?所長の言葉からはそんな意図が読み取れる。まぁ、確かに俺はそんなマッチョマンじゃないし、能力的にも平均程度なのだろう。だからって今まで何とか仕事はこなしてきたんだし、少しは認めて欲しいところだ。
「相手は人間だもの、実験のようには行かないよ」
「まぁそりゃそうか。で?うまい事行ってる感じ?」
この電話の相手の言葉から察するに、所長の行動は何かの計画を実行していると言う感じがする。まさか、俺は彼女の実験の道具に使われている?
所長がこの電話をしている時、俺はその場にいなかった訳だが、もし近くにいたら多少は気を悪くしていたかも知れない。
「今のところはね……やっと動き出したし」
「これからが大変だけど、準備は整ってるの?」
「うん、遅れ気味だけど間に合わせるから」
「アリカのそう言うところ好きよ、じゃ、またね」
俺がいない間の秘密の会話はこうして終わった。この会話から見て、所長は何かを俺に隠している。隠している何かが俺にとって有益な話だったら何よりなんだが、その事が語られるとしてもそれはまだ少し先の話になるんだろう。俺としてはどうにもならない話題だ。
それより今は目の前の問題を解決しなければ。
その頃の俺はと言えば、またいつもの警部に呼び出されて、またいつもの自爆犯に対しての対処を求められていた。この間遭遇したザルファとか言う自爆テロ組織の一員が暴れていると言うのだ。前の件で懲りていないのか、いい加減にして欲しいものだ。
今回自爆犯が自爆に選んだのは観光名所のタワーの展望台だった。男が現れた事で現場はパニックになるものの、すぐにお客さんの避難は完了し、そこには自爆テロ犯ひとりと彼を警戒する警官だけになっている。
満を持してそこに俺が到着すると、腹に爆弾を巻いた中年男がひとり粋がっていた。背は割と低く、髪の毛は薄い。腹は出っ張っている。
見た目を端的に言えば、そう、中小企業の中間管理職と言った風貌だ。
何でこう言う人材が自爆テロの思想に染まっているんだ――リストラで社会を恨むようにでもなったのだろうか。
「やはり現れたか!ヒーロー男め!」
自爆テロ犯は俺を見るなり開口一番そう言った。おお、俺の知名度も結構上がって来たな。ただ、こう言う輩ばかりに知名度が上がっても別に余り嬉しいとは思わないんだが――どうせなら美女に、いや、ヒーローだから子供達の間で有名になりたいものだ。今のところ、一般の人からの知名度はあってないようなものだからなぁ……。スーツのデザインなんて結構イケてると自分では思うよ。流行りのヒーローやアニメにも決して負けてないと思うんだけど。ま、この話はまた今度でいいか。
俺は目の前の自爆テロのおっさんに自首を勧める。俺を知っている以上、自爆程度では何の意味もなさない事だって知っているはずだ。
「えっと、自爆テロの人達でしたっけ?俺のスーツの力は知っているでしょ?無駄な事はやめませんか?」
「無駄かどうかは今この瞬間に分かる事だ!」
自爆テロ犯は俺の説得を聞く気が全くなさそうだった。学習って言葉を知らないのかねこう言う人達は。仕方がないので俺は淡々と目の前の中年おっさんに迷いなく近付いて行く。言って分からないなら実力行使しかない。
「全く……」
俺がため息を付きながらそのおっさんに近付いた時だった。最初からそうなる事が分かっていたみたいに、おっさんも顔は笑っている。
もしかして――そう思った時はもう遅かった。
「くくっ、ザルファに栄光あれ!」
おっさんはそう言うといきなり爆弾の起爆スイッチを押して――何とかその気配を察してすぐに覆いかぶさったから良かったものの、自爆は止めれなかった。この手の輩に説得は無理だって言うのは常識だけどもう少し話術を磨くかなぁ。
「はぁ……」
黒焦げになったおっさんから離れて亡骸を待機していた警察官に引き渡す。さて、これで一件落着かな。
しかしこう言うテロ組織はメンバーをどう思っているんだ。使い捨ての道具くらいにしか思っていないんじゃないか。そんな事を考えると、どうにも世の中の理不尽さと言うか、色んな事を空しく感じたりもする。
俺だって一歩間違えればこっち側の人間になっていたのではないかと――。
そんな時だった。いきなり現場に謎の煙が充満し始めたのは。
「うぐっ!」
俺はすぐに口を手で抑えて様子をうかがう。これはつまり、敵はまだこの場所に潜んでいると言う事になる。単独犯じゃなかったのか!
煙はすぐに晴れたものの、俺以外の人間はみんなその場に倒れていた。これは――催眠ガスか何かだろうか。
「うーん、これは困った……」
スーツの防塵機能が作動したので、この程度では俺には全くダメージはない。仕掛けた人物はそこまで想定してのこの行動なのだろうか?
煙が晴れた展望台を見渡しながら俺はこの迷惑ないたずらを仕掛けた不届き者の姿を探した。
と、その時、この場に似つかわしくない程の威勢のいい声がどこからともなく聞こえて来た。俺はすぐに声のした方向に顔を向ける。
「フハハハ!どうしたヒーロー!怯えて声も出ないか!」
そこには着包みヒーローショーに出て来そうな、いや、ヒーローモノ特撮に出て来そうな怪人の姿があった。
あれ?この姿とよく似たヤツをつい最近見たような?俺は何か記憶に引っかかりを感じながら、一応この言葉が通じそうな謎のコスプレおじさんに話を聞く事にした。
「あの……どちら様?」
「俺の名前はパウル!貴様が倒したゴルグは俺の仲間だ」
ゴルグ?……俺が倒した?……あ、あいつか!少し前に俺を倒そうと頑張った怪人の名前が確かそんな感じだった。
俺は警戒しながらじっくりとこの怪物の姿を見る。ゴルグは全身が水色の怪人だったが、目の前のこいつは紫色をしている。
さっきの煙と言い、もしかして毒を使う攻撃が得意なんだろうか……いや、体の色からの想像でしかないんだけど。
俺は変に刺激させないように、飽くまでも紳士的に、この非常識な存在に対し会話を試みた。
「ああ……、あいつの仲間……。確かガシュー、だっけ?今度は人間と組んだのか?」
「組織にはそれぞれ得意分野がある……。ザルファはセキュリティ突破の技能が優れている。持ちつ持たれつってヤツだ。」
パウルと名乗るその怪人はドヤ顔でそう言った。その顔にはまるで罪悪感なんてない。組んだ相手を見殺しにした癖に。
その人を人とも思わない感覚に相容れないものを感じた俺は、感情のままに吐き捨てるようにヤツに言った。
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