#9 Doom And Gloom PART5

 AA-12のけたたましい銃声がダンジョンの通路に響き渡る。発射された12ゲージの散弾が、迫り来る骸骨兵の下顎と背骨の一部をごっそりと吹き飛ばした。

 ガスは無力化を確信したが、骸骨兵がぐらりと仰け反ったあと、何事もなかったかのように、かたかたと骨を鳴らしながら足を止めずに迫り始めた。

「……おい、これマズいんじゃないか」

『マズいも何も最悪の状況だろうこれは』

 ヘックスが冷静に答えながらも、SCARを構えて発砲する。

 セミオートで放たれた7.62mm弾が、ガスの反対側から迫りくる骸骨兵に叩き込まれる。だが、あばら骨の隙間を抜けた弾丸が空しくダンジョンの壁に命中した。

 2人が焦り始める中、ライファは冷静に、迫りくる骸骨兵を見極めていた。やがて、その額に紋章が描かれているのを見つけたライファは、頭の片隅にある魔術関連の情報から、何とか突破口となる情報を見つけようとする。

 骨がぶつかる音を鳴らしながら骸骨兵が刻一刻と迫り来る。ヘックスはSCARのセレクターをフルオートへ変えると、引き金を軽く引き絞って短い連射を叩き込んだ。

 銃弾は骨の隙間を抜け、わずかに1発が、骸骨兵の下あごを貫通し、破壊した。それでも、骸骨兵は怯むことなく迫り続ける。

『参ったな、どう倒す?』

 ヘックスがライファへとたずねる。

 そして、一瞬の間の後にライファはついに解決策を思いついた。

「頭蓋骨を狙ってください!」

 ライファが叫ぶ。

「頭蓋骨の紋章で、骸骨兵を制御している筈です!それを壊さない限りは活動を続けます!」

 ガスはライファが言い終わる前に、AA-12を構えて散弾を骸骨兵の頭蓋骨へと叩き込んだ。紋章が描かれた額をぶち抜かれ、頭頂部を失った骸骨兵が、糸の切れたマリオネットのようにくたりと地面に倒れこむと、残りの骨が、まるで糊がはがれた本のようにバラバラになって床へと落ちた。

「いいぞ!利いた!」

『これで怖くなくなったな……私も散弾銃にしておけばよかったか』

 やれやれ、と頭を振りながらも、ヘックスは再びSCARを構えると引き金を引き絞り、頭頂部めがけて片っ端から骸骨兵へ弾丸を叩き込んでいく。

 散発的に銃声が響く中、ライファも負けじとグロック26を構え、戦闘に参加する。頭蓋骨の砕ける乾いた音と、銃声がしばしダンジョンの通路に木霊した。


 戦闘は一方的に終わった。

 15体ほどの骸骨兵は、すべて無力化されてただの骨になり、ダンジョンの通路を埋め尽くしていた。骸骨兵が動く音はもう聞こえず、静けさを取り戻した通路で、ガスはゆっくりと状況を整理する。

「……で、この骸骨と愉快な仲間たちは何なんだ?」

 ガスは足元に転がった骸骨を手に取りながら呟いた。

「ダンジョンの守護者、でしょうか……」

『守護者?これが?』

 ヘックスが足元の骸骨の山を見下ろしながら声をあげた。ライファは、もてる限りの知識を動員して答える。

「帝国時代、こういう類の防護が流行ったんです。たとえば、騎士団の人間を生贄にして、その死体を骸骨兵へ加工して、不死身の守衛を作るっていう……実際見るのは初めてですけど」

「なるほど、こいつらがダンジョンの警備員ってところか」

 ガスは手に取った骸骨をそのまま床に捨てると、左右を見回した。

「で、ここには骸骨のバケモノしかいないのか?」

「いえ、まだ他にも、骸骨兵以外のモノがいると思います」

 ライファの言葉に、ガスは緊張感を持った。

「例えば?」

「ミノタウロスも厄介ですね、寿命を考えれば餓死していてもおかしくないですが、餌場がダンジョンの中にあればいてもおかしくないです。ミノタウロスの生態はまだまだ謎が多いですから」

 ミノタウロス、と聞いてガスはその姿をすぐに思い浮かべる事が出来ない。だが、ヘックスは、思い当たる節があるのか、ふむふむと頷いた。

『ああ、頭が牛で身体が人間の筋肉モリモリマッチョマンだろう』

「でも怪力ですよ。飛び道具を持っていたらなお更きついです……」

 げえ、とガスはげんなりした気持ちになるが、気を取り直してダンジョンを進んでいく事にした。


 武器を構え、四方を警戒しながらガス達は進み続けた。石造りの壁と天井に床というダンジョンの内部は、あまりにも殺風景であった。部屋らしい部屋もなく、ただ延々と直線、曲線と通路だけが続いている。

 道なりに進んではいるが、一向に階段らしい階段が見当たらない。ガスどうしたものかと焦っていたが30分ほど進んだ所で、ようやく階段らしき場所に辿り着いた。

「……暗いな」

 ガスは思ったとおりの言葉を口にした。

 階段ではあるが、照明代わりの松明もなく、フラッシュライトですら階段の終わりを照らす事が出来ない。

『先に行きなよ』

 ヘックスが平然とガスの背中を押そうとする。

「えっ?いや、その、何でだ?」

『先が見えないのが不安なのは解る。だがポイントマンが先導してくれない事には私も前に進みたくはない』

「……仕方がないな」

 ガスは諦めて、階段に足を踏み込もうとする。

「気をつけて下さい、こういうダンジョンだと……」

 ライファが注意をしようとした瞬間だった。

 片足が階段を踏んだ瞬間、まるでピアノの鍵盤のように、ごりっと段が沈下する。それに呼応するように、ガスの頭上から風がふっと吹いた。

 ガスは反射的にその足を引っ込める。次の瞬間、錆びた鉄の板―――ギロチンのようなもの――が階段の天井から落ち、一段目に落下した。

 がちん、という音を立てて、さっきまであった足元に鋭い刃先が突き立っていたのを見て、ガスは思い切り尻尾を逆立てて絶句した。

「……トラップのようなものが」

 ライファが続きを喋り終える。

『おー、すまんすまん』

 ヘックスは他人事のような反応だ。

「……な、何て場所だ……」

 ガスは改めて、自分がとんでもない場所に来た事を察した。

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