第120話 救援要請 さの2

「でもちょっと怖いデス」


「何か卑怯って感じもするっスよね。まだ洗脳よりは未来予知の方が……」


 このルルの言葉に対して、すぐにセリナが言葉を返します。


「でも事前に何でも分かってしまうのってつまらなくない?」


「そこっスよねぇ……」


 こうして洗脳と未来予知の能力が同時に潰されます。その能力が発動してしまったならともかく、選べるなら選ばないなと言う事で全員の意見は合致しました。と言う訳で、残りの青リンゴ能力について話は進みます。次に話を切り出したのは泰葉でした。


「目からビーム的なので言えば、発火能力ってのも良くない?」


「いやでもそれ能力がバレたらやばくない?」


 彼女の言葉にゆみが速攻で突っ込みます。攻撃的な能力は周りにバレたら危険視されるのは物語とかの王道の展開と言ってもいいでしょう。この話の流れでセリナも悪ノリして深刻な顔で話に乗っかりました。


「政府とか謎の悪の組織に連れて行かれて一生実験動物で終わったり……」


「ちょ、怖い怖い」


 あんまり迫真の演技だったので泰葉はすっかり萎縮してしまいます。話が怖い方向に流れたのもあって、今度はその能力の持ち主についての事に話題が移りました。ずっと色々考えていたセリナがその疑問を口にします。


「わさび、どうやって能力隠してるんだろ?」


「滅多に使わないって言ってたっスよ」


「ま、当然そうだろうね」


 現実的な答えが返ってきて全員がそこで深く納得しました。こうして発火能力も誰も欲しがらないと言う結果になり、最後に残った能力についても検討が始まります。ここ話を振ったのは泰葉でした。


「じゃあさ、サイコメトリーは?」


 彼女がこの能力を口にした周りの反応は何とも微妙な雰囲気です。誰もが積極的に欲しがりも、逆に嫌がりもしません。全員がどう言う反応をしていいのか考えあぐねているところで、まずはゆみがその重い口を開きます。


「いや、別に……」


「物に触る度に何かを感じていたら疲れそう……」


「だよね」


 彼女の反応にセリナも同調します。サイコメトリーは物に触れるたびに発動してしまう厄介な能力です。話を切り出した泰葉でさえ、大変そうだなと感じる能力でした。その想いがつい彼女の口からも出てきます。


「いちご、苦労してそうだよね」


「彼女、親が警察官でたまに仕事手伝ってるって言ってたし……」


 泰葉の言葉を聞いたセリナがいちごについての補足情報を口にしました。泰葉はそこでまた想像力を働かせ、げんなりします。


「事件に使われた物の記憶を読むとか、色々キツそう……」


「いちご、すごいよね」


 サイコメトリーに関しては能力保持者のいちごがすごいと言う事で満場一致の見解となりました。こうして青リンゴ能力を全て検証したところで、改めて結論が導き出されます。それを泰葉がドヤ顔で声高々に宣言しました。


「やっぱ一番便利なのは瞬間移動だ」


「目覚めて~!私の瞬間移動能力!」


 話が振り出しに戻ったと言う事でもう一度ゆみが絶叫します。その心からの叫びに他のりんご仲間も次々に共感の声が上がりました。


「私も~」

「私も~」

「私も~」

「私モ~」


 どさくさに紛れて、またしてもアリスがその共感の声の中に混ざっていたので、念を押すように泰葉が彼女の肩を両手で軽く叩きます。


「だからアリスは出来るって!多分!」


「そうでしょうカァ~?」


 少し疑心暗鬼気味なこのアリスのリアクションにみんなが笑いました。その後はまた別の話題で盛り上がり、昼休みは穏やかに過ぎていきます。



 時間は何事もなく過ぎて放課後、泰葉はセリナと一緒に下校します。最初こそてくてくと徒歩で通学路を歩きながら他愛もない話をしていたのですが、やがて話題がまた昼休みの続きのようなものに変わっていきました。まず話を切り出したのはセリナです。


「でもさ、レベルアップって結局昼休みにみんなが想像したようなものなのかな?」


「さぁ、どうだろうね」


 全く確証のないこの話に泰葉は生返事を返す事しか出来ません。


「そりゃ翻訳と会話が出来たら嬉しいけど」


「セリナはそうなってこそでしょ。逆に今までが不完全だったんだよ」


 彼女の要望を聞いた泰葉は自分の考えを口にします。その意見からセリナはある考え方に辿り着きました。思いついた彼女は瞳をキラキラと輝かせながら同行する友達の顔を見つめます。


「て事はさ、レベルアップって言うより、やっと能力が完全になるって言う事なのかも」


「あ、そうかも!きっとそうだよ!」


 セリナのこの素敵な思いつきに泰葉も自然と笑顔になっていました。ただし、この結論もまた推測の域を出る事はありません。何故なら誰もまだレベルアップをしていないからです。確証のない話は飽くまでも想像の範疇を超える事はありません。

 そこで泰葉は可能性の話だと言う事を強調します。


「でも実際は全然違う感じになったりして」


「どうなるか分からないってやっぱり不安だよね」


「だね~」


 それからも会話は弾み、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていきました。やがて別れ道に差し掛かったところで、2人は手を振ってお互いに声をかけ合います。


「じゃ、またね」


「うん、またね~」


 こうして1人になった泰葉はそのまま自宅へと足を運びました。毎日通う帰り道、勿論知らない景色はありません。決まった道を決まった時間にただ通り過ぎるだけ。決まりきったルーチンワーク。彼女は自分のレベルアップについて頭の中で色々と思い浮かべながら家路を急ぎます。


(お願い、助けて……)


「え?」


 その声が聞こえてきたのはちょうど先月空き地になった場所の前を通りかかった時でした。少し前までそこには書店があったのです。折からの書店離れでお店は閉店、気がつけば建物は綺麗サッパリなくなって空き地となってしまいました。

 そんな寂しい場所から突然声が聞こえてきたのです。泰葉はすぐに声の主を探しました。


 しかし空き地のどこかから聞こえてきているのは確実なのに、隠れるところのない場所なのに、声の主がどこにいるのか全く分かりません。泰葉が焦っていると、声がまたしても聞こえてきました。


(助けて……)


「どこ?」


 自力で探すのをあきらめた彼女はその声の主に直接問いかけます。

 けれど、声は泰葉のリクエストには答えずに謎かけのような言葉を残しました。


(私の声が聞こえるなら、明日もう一度ここに……)


「え?」


 この言葉を最後に声は消えてしまいました。男の子のような、女の子のような幼い声。いたずらのようでいて、真剣な感じもして。泰葉はそのメッセージをどうしても無視する事が出来ません。この不思議体験を頭の中に残したまま彼女は帰宅します。


 自分の部屋に戻った泰葉はすぐに事の顛末をベットの端にちょこんと可愛く座る年代物の西洋人形に話しました。この色んな意味での人生の先輩に助言を仰ぎたかったのです。最後まで話を聞いたナリスは流石に判断を下すにしては情報が少なすぎたのか、じいっと返事を待つ部屋主に向き合います。


(どう言う事?)


「うん、何だか分からない」


 聞き返された泰葉も、それ以上の事は分からないために困り果ててしまいます。望んだ情報が得られないと察した西洋人形は、話を聞いた範囲から自分の意見を述べました。

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