ムーンファンタジー

救援要請

第119話 救援要請 その1

 アスハによるレベルアップ作戦(?)も終わって、りんごメンバー達にまた平穏な日々が訪れました。とは言え、あんな体験をした直後です。みんなで集まると一体どんな感じでレベルアップしたのだろうと言う、自分達の能力についての話題で持ちきりでした。

 11月中旬の昼休み、何となくいつものようにお馴染みのメンバーが泰葉の席の周りに集まって雑談が始まります。


「私達、どこがどうパワーアップしたのかなぁ?」


「まるで実感わかないよね」


 泰葉とセリナがそう話していると、ここでゆみがちょっとふざけました。


「突然ビームが出せるようになったりとか!」


「怖い怖い」


 彼女の言葉に変な想像をしたのか泰葉は素で怖がります。ゆみはニヒヒと含み笑いをしながら話題の矛先を黙って話を聞いている帰国子女に向けました。


「アリスの場合、能力的に何でもありだから別にパワーアップの必要ないよね」


「あ、でも時間制限ありマスシ……」


「じゃあ、アリスのパワーアップは制限時間の延長だね、間違いない」


「た、多分そうデショウネ」


 この有無を言わせない彼女の言葉の圧にアリスは苦笑いで答えます。その後もゆみは他メンバーのレベルアップ事情のネタを一通り喋り尽くし、その内にネタもなくなって一旦沈黙しました。それから顎に手を当てて考え込みます。


「じゃあ私は何だろ?」


「ゆみはほら、浄霊とかが出来るようになるとかじゃない?」


 彼女自身のレベルアップについては、泰葉がアイディアを披露しました。今のゆみの能力は霊と会話が出来るだけなので、そこから発想を飛躍させたようです。その話にぽんと手を叩いた彼女はお礼とばかりに泰葉のレベルアップについてもその方式を採用しました。


「泰葉はじゃあ草花とかも話が出来るようになったりとか?」


「んなメルヘンな……」


 このゆみ説を聞いた泰葉は少し呆れ顔になり、話を受け入れようとしません。

 けれど、能力の特性から彼女は逆にツッコミを入れました。


「動物と話せるだけで既にメルヘンなんですがそれは」


「うう……」


 完全に言いくるめられた泰葉は思わず唇を噛みます。会話をしている内に段々雰囲気が悪くなってきているように感じたセリナは、ここでなんとか空気を元の状態にリセットしようと、話題の方向性を変えるために身振り手振りを交えて話しかけました。


「み、みんな今の能力の欠点が補完されるようなものだといいよね」


「セリナの場合、やっぱり今まで翻訳して聞けるだけだったし、話せるようになるとか?」


「そうそう!そうなったらいいなぁ……」


 彼女の話に泰葉が乗っかり、場は何とか穏やかな雰囲気に戻ります。ここでずっと様子をうかがっていたもう1人のメンバーが会話が途切れたタイミングを見計らって話を切り出しました。


「私の場合は何になるっスかね?」


「え?えーと……」


 この体力増強能力少女の素朴な質問にみんな首を傾げます。現時点でも相当レベルの高い能力を持つ彼女に対して、更にパワーアップしたイメージがみんなすぐには思い浮かばなかったのです。うーんうーんとみんなが考える中で一番最初にゆみが何かを閃きました。


「め、目からビーム?」


「か、かっけーっス!」


 その思い切り口からでまかせなアイディアを聞いたルルは両手の拳を握りしめて興奮します。真に受けられても困るなと感じたゆみは、すぐに予防線を張りました。


「あ、でも今までのもただの想像だからね、どうなるかは実際になってみないとだし」


「だよだよ!真に受けない方がいいよ!」


 彼女に続いてセリナもルルに向けて言葉を続けます。2人の忠告を受けた体育会系少女は何か思うところがあったのか顎に人差し指を当てて教室の天井を眺めました。それからおもむろに黒板を急に凝視し始めます。

 そうして、いきなり大声を張り上げてわざとらしく身を乗り出しました。


「目からビームっ!」


「わああっ!」


 これで本当にビームが出てしまうかと思った泰葉は思わず怖くなって顔を両腕で塞ぎます。

 けれど、いくら待ってもビームが発射されたような気配は漂ってきませんでした。数秒間の沈黙の後、その結果にルルは分かりやすく落胆します。


「……出ないっスね」


「びっくりさせないでよー!」


 結局、どれだけ気合を入れても彼女の目からビームは出なかったと言う事でこの話題は収束しました。驚かされて過剰な反応をしてしまった泰葉は照れ笑いをするルルをポカポカと軽く叩きます。このコントみたいなゆるいやり取りでりんご仲間は軽く笑い合いました。

 こうして和やかな雰囲気になったところで、セリナが場をまとめようとにっこり笑顔でみんなに向かって話しかけます。


「ま、今はあんまり気にしないでおこ」


「だね」


 彼女の言葉に泰葉が相槌を打ったところで、ここまでずうと黙っていた最後のメンバーがマイペースな口調で自分の望みを口にしました。


「どうせなら青りんごの人達みたいなすごい力に目覚めたいよねぇ~。私瞬間移動とかいいなぁ~」


 鈴香のその一言にいつも登校時間がギリギリの泰葉が秒で同意します。


「便利だよね、瞬間移動」


「ああ~、今の力いらないから今すぐに瞬間移動欲しい!」


 ゆみもすぐに青リンゴのリーダーの能力を羨ましがりました。瞬間移動の能力が欲しいと思う事に異論を挟むメンバーは誰もおらず、その場にいた全員が彼女の言葉に同意します。


「私も」

「私も」

「私も」

「私モ」


 最後に同意したメンバーに対して、それが意外だったのかみんなが思わず聞き返します。


「えっ?」


「えッ?」


 アリスもまた何故みんなが意外がるのか理解出来ず、その反応に戸惑ってしまいました。動揺する彼女を見た泰葉はみんなを代表してその理由を説明します。


「アリスなら出来るんじゃない?」


「で、出来るでショウカ?」


 アリスの能力は思いついた事が大体何でも出来てしまう能力です。今までにもその桁違いの能力で何でも可能としてきました。それを考えれば瞬間移動なんて余裕でしょう。

 けれど、当の本人は今まで瞬間移動しようと望んでこなかったので、それが出来るものとは思ってはいなかったのです。

 自分の能力の凄さを把握していないアリスに対し、他のりんご仲間も次々と彼女を励ましました。


「逆に何で出来ないと思ってたっスか?」


「アリスなら出来るよ!」


「そうだよ!自信を持って!」


「わ、分かりマシタ……」


 ルルやセリナ、ゆみの言葉を聞いて、アリスも改めて自分の能力を信じる事にしました。こうしてひとつの話題に区切りがついたところで、またしてもゆみが次の話題を提供します。


「じゃあさ、青リンゴの力で他に自分に使えたらな~って言うのある?」


 この言葉にその場にいるみんなは考え込みました。瞬間移動はみんなが即答するほどに欲しい能力でしたけど、他の青リンゴ能力は簡単に欲しいと宣言出来るレベルのものではなかったからです。

 どの能力も使うとしたらそれなりに覚悟のいるものばかりなので、ただの要望とは言え、迂闊な事は言えない雰囲気になったのでした。

 そんな中で腕を組んで熟考していたセリナが顔を上げてポツリとつぶやきます。


「洗脳……とか?」


「ああ~」


 この答えに泰葉が同意とも感嘆とも取れるような声を漏らしました。同じ答えを聞いたアリスは素直な心情を口にします。

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