文化祭
第103話 文化祭 その1
楽しい温泉旅行も終わり、秋もふけると文化祭の時期がやってきます。その前にイベントとしてはハロウィンなんかもあったりするのですが、泰葉の周りではあんまりハロウィンはメジャーなイベントではなく、特に大きな話題にもなっていませんでした。
多く学生にとっては、やはり自分達で企画して盛り上がれる文化祭の方に興味を持つ人が多かったのです。
「もうすぐ文化祭かぁ」
泰葉は秋が深まる窓の景色を見ながらそうつぶやきました。文化祭は11月に入ってすぐの休日に行われます。そう、それは文化の日。学校によってはもっと早い時期に開催する学校もあったりするのですが、泰葉の通う学校は今でも律儀に文化の日に文化祭を行っています。
「クラスの出し物どうしよっかぁ」
この泰葉の誰を指定しているでもないつぶやきにセリナが言葉を返します。
「みんなで一緒に楽しめるものがいいよね」
「猫カフェ~」
楽しめると言う言葉に反応した鈴香が、眠そうな顔をしながらダラ~と自分の希望を口にしました。すぐに専属のツッコミ役のゆみがこのボケに反応します。
「いや、出来ないから」
「ぶ~」
意見を却下された彼女がぶーたれていると、ルルがまるで他人事のようにつぶやきます。
「この時期は文化部の人達が忙しそうっスよね」
「ルルも一応文化部でしょ?」
まるで自分は当事者じゃないみたいなこの反応に、泰葉は疑問を呈しました。その質問を受けた元気少女はニパッと笑うと理由を説明します。
「書道部は作品展示だからもう準備は終わってるっス。後はパフォーマンスもあるっスけど、当日にすぐに準備出来るっスから」
そんないつものやり取りを微笑ましく眺めている存在がありました。そう、それは今回が日本の文化祭初体験になるアリスです。
実は彼女、幼い頃から日本の漫画やアニメを見て育っているので、日本の文化祭に興味津々好奇心大爆発なのでした。
「文化祭、楽しみデス」
ニッコニコで上機嫌の彼女の顔を見た泰葉は、その様子があまりにも楽しそうだったので思わずその顔を見つめます。
「アリスは日本の文化祭初めてなんだっけ?」
「ハイ」
「文化祭はみんなで作ってみんなで楽しむお祭りだから、精一杯楽しまなくちゃだね!」
「ハイ!」
文化祭を楽しみにしているのはアリスばかりではありません。クラス全体が、いえ、学校全体が来るべき文化祭に向けて浮足立っていました。
文化祭の開催日は文化の日と決まっていますが、まずはそれまでにしっかり準備をして当日を迎えなくてはいけません。大規模なイベントを計画している文化部やらクラスではもうとっくに準備を始めていました。
そう言う意味で言えば、10月の中旬になるまで出し物すら決まっていない泰葉のクラスは出遅れたと言っていいくらいです。
そんな状況にあるからこそ、クラスメイトはクラスの出し物の事で頭が一杯になっているのでした。
「うちのクラスは何をするんだろうなー」
「アップルパイの屋台はどうでショウカ?」
泰葉が何となく口に出した疑問にアリスが答えます。このアイディアにセリナが反応しました。
「おーいいじゃん、泰葉大活躍だ」
「それ、私に全部丸投げしてない?」
「いやいや、屋台の設備とか、材料の仕込みとか、手伝える事はたくさんあるよ?」
訝しむ泰葉に対して、セリナは得意げに自説を展開します。周りがみんなサポートするからパイを作る事に専念すればいいと言うその意見に、泰葉も反論の言葉を飲み込むしかありませんでした。
空気を読んでいたゆみはタイミングを見計らって、ここで話に割って入ります。
「ま、でもリンゴは普通のリンゴがいいかもね」
「だねぇ~」
その意見に鈴香も同意します。泰葉も流石に不特定多数の人にあのリンゴを食べさせる危険性については考えるところがあったので、その意見にうなずきました。ゆみはさらに言葉を続けます。
「で、儲かったらそれで豪勢な打ち上げを!」
「そっち目当てか」
彼女の魂胆が分かって泰葉は呆れます。ゆみは両手を後頭部で組んで笑いました。
「てへへ」
ここまでの会話をフンフンと興味深く聞いていたアリスは、目を輝かせながら思いついたアイディアを提案します。
「あ、でも、それだったらクラスの出し物は喫茶店がいいんじゃないでショウカ?」
「喫茶店って定番だよね~」
彼女のアイディアにセリナが両腕を伸ばしながら返しました。続けてゆみがその流れに沿って話を進めます。
「もうひとつの定番がお化け屋敷」
「何で漫画とかだとこの2つがお約束なんだろうね」
「描写しやすいんじゃないの?分かんないけど」
こうしてセリナとゆみのお約束談義が2人の間で盛り上がりました。話のついでとばかりに、文化祭でやりがちなイベントをみんなで次々と出し合います。
「後、演劇したりとか」
「合唱したりとか」
「ライブしたりとか」
泰葉やセリナ、ゆみがネタを出し合う中、最後に出たゆみのライブと言う言葉にルルが敏感に反応しました。
「あ、ライブと言えば今年も生徒会ライブするらしいっスよ?」
「生徒会がライブ?」
その初めて聞く情報に泰葉が聞き返します。その様子から大体の事情を察したルルは、少し得意げに自分の知っている情報を披露しました。
「ああ、みんなは知らないっスか。この高校の文化祭は最後に生徒会が体育館でライブをするのが伝統になってるんスよ」
「そうなんだ。よく知ってるね」
「姉もこの高校だったんで、在校していた時に文化祭に遊びに来てたんスよ」
「へええ……」
彼女からの情報提供に泰葉は感心するばかりです。勿論反応しなかった他のりんご仲間も、彼女同様に感心しながらこのルルの言葉を聞いていました。
ただ、音楽関係にうるさそうなセリなだけがその生徒会のライブに対して疑問を覚えます。
「でも、言っちゃなんだけど素人の演奏でしょ?」
「それが毎年ドッカンドッカン盛り上がるんスよねぇ、不思議っス」
彼女からのツッコミにルルは今まで体験した事実を真っ直ぐに口にします。いつも素直な元気少女の言葉を聞いて、それを疑うものは誰ひとりいませんでした。
何故素人の演奏なのにそこまで盛り上がるのか、その答えとしてアリスは目を輝かせながらひとつの仮説を唱えます。
「きっと文化祭マジックなんでショウネ」
「私達も負けてらないっス!」
彼女の言葉にルルもむふんと鼻息荒く奮起します。そんな熱血状態の彼女を見てセリナはため息を吐き出しました。
「いや、そこまで気合い入れなくても……文化部ならともかく、クラスの出し物なんて気負わないくらいのものでいいでしょ」
「やるなら優勝っス!」
「いや、そう言うの文化祭にはないから」
その後もりんご仲間同士で文化祭の話は盛り上がりました。まだクラスの出し物が決まっていないのもあって、話は多岐に渡ります。自分達がそれを出来るかどうかはまず置いておいて、アレがしたいだとかコレがしたいだとか。そのためにはこう言う準備が必要だとか……プチホームルーム状態です。
みんなこの高校生になって初めてのこの文化祭に、色んな想像を膨らませて楽しむのでした。
次の日のホームルーム、クラスで話し合う議題が担任の先生の口から語られます。
「え~、ではもうすぐ文化祭な訳だが~、何かしたい事とかあるかぁ~」
「はぁ~い」
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