第87話 魔界ライバル その6

 それでアスハの話にも余裕の態度で接する事が出来るようになりました。


「へぇぇ」


「使ってみようか?」


「いや、いいよ。じゃあ私のおばあちゃんが魔女だって言うのも本当なんだ」


 泰葉のおばあちゃんが魔界出身と言う事は魔法が使えて当然と言う事になります。泰葉がそれを改めて実感していると、その言葉に違和感を感じたルイコが彼女に尋ねます。


「ライラは魔法を見せてくれないのかい?」


「魔法っぽいようなものはたまに見せてくれてはいたけど、それが魔法だとは名言してくれていなかったので……」


「きっと何か事情があるんだろうね」


 泰葉の話を聞いたルイコはそう言って遠い目をしました。泰葉のおばちゃんは人間界で様々な冒険をしていたと言う話を、泰葉は幼い頃から散々聞かされています。きっとその冒険の中で、人間界での身の振り方を学んだのでしょう。

 結果として、魔法を使ったとしてもそれをハッキリと魔法だと言う事を避けるようになったのではないかと泰葉は結論付けました。


 お菓子も食べて、お茶も飲んで、落ち着いた時間も流れて、まったりしていると、ちょうど頃合いだとルイコが椅子から立ち上がって声をかけます。


「それじゃ、来てくれるかい?」


「さ、行こ」


「う、うん……」


 2人に誘われるままに泰葉は部屋を出て歩き始めます。そうして辿り着いた場所は家の地下室でした。地下室の奥の扉を開けると、そこから更に道が続いています。その真っすぐ伸びる長い地下通路の見た目はレンガ造り。

 その構造と通路がいい具合に薄暗いと言うのもあって、雰囲気的にまるでゲームでよく見るダンジョンのようでした。キョロキョロと見渡しながらこの通路を歩いていた泰葉はここでぽつりとつぶやきます。


「何だかそれっぽい感じだね」


「雰囲気あるでしょ。壁にマナの流れがあるの、分かる?」


「マナって魔法の力的な?ハッキリとは分からないけど感覚的なものは感じる……気がする」


 言われてみれば、確かにこの地下の通路全体から放たれている淡い光は今までに感じた事のない不思議なものでした。気持ちのいい暖かさに加えて、更に触れそうな質量を感じます。この感覚は風に近いものでした。

 泰葉がこのマナの感覚をもっと感じ取ろうと夢中になっていると、その行為は突然終りを迎えます。どうやら目的地に着いたようで、ルイコが部屋のドアを開けながら改めて説明を始めます。


「ほら、この部屋だ。怖がらなくていい。何も危険な事は起こらないよ」


「さ、祭壇?」


 ドアを開いたその先にはとても宗教的な空間が広がっていました。神聖な装飾がされた部屋の中央部分には何やら祭壇ぽい台座があります。街の景色でよく目にしていた蛇の像がここでも印象的にいくつも立ち並んでいました。この光景を前に泰葉はゴクリとつばを飲み込みます。


「ここは盟約の間。色んな誓いを立てる部屋さ」


「私、何を誓わされるんですか?」


「何も取って食おうって言うんじゃないよ。さっきも言っただろう?認証して欲しいって」


 ルイコはそう言って微笑みます。状況から言ってどう考えても怪しい儀式しか待っていない雰囲気ではあるのですが、案内してくれた2人に邪気のようなもの、下心が全く感じられなかった為、泰葉は多少後ろ髪を引かれながらも、この宗教的な雰囲気の行事に参加してみようと言う雰囲気になってました。


「その認証って?」


「アスハと泰葉は対の存在だって認証してもらうのさ」


「だ、誰に?」


 さっきから繰り返される認証と言う言葉、この言葉の意味がハッキリ分かるまでは泰葉は怖くてこの先の行為に同意出来ません。しつこいくらいの質問の果てにルイコは認証の核心部分について答えます。


「この地の主に認めてもらうのさ。それが終わったらそこからは自由だよ。すぐに帰ってもいいし、そのまま街を観光してもいい」


「うう……大丈夫なのかな?」


「会ってすぐにこうなったから、信じられないのは分かるけど……」


 泰葉の不安をアスハも感じて同情します。心配そうに見つめられて、彼女はこれから自分に何をさせようとしてるのかを尋ねます。


「認証って言うのは具体的にはどうやって?」


「祭壇の前に立ってお互いに手を取り合って意識の交換をする。対の存在が認められれば感覚で分かるんだって」


 アスハの説明を聞きながら、不安を感じた泰葉は揚げ足を取るように問題点を指摘します。


「認証されない事もあったりする?」


「十分に確認したから万が一にもそれはないと思うけど、もしそうだったらそうだったでそれも運命だとして受け入れるよ」


 その話し方から見て、どうやら失敗してしまったところで何かペナルイティがある訳でもなさそうです。ここまで話を聞いて自分でも簡単に出来そうな感じのしてきた泰葉は段々とやる気になってきました。


「そっか。なんかちょっと安心した」


「じゃあやってみようか」


 やる気になったその流れをムダにしないようにと、泰葉はアスハに引っ張られて祭壇の前までやってきます。そこでいざ認証の儀式を始める雰囲気になったところで、泰葉は確認するようにもう一度尋ねます。


「えっと、本当にこれだけでいいの?呪文みたいなお決まりの言葉は?」


「そんなのはないよ、まずはリラックスして」


 儀式と言うと何だかかたっ苦しくて、実践する前に色んな準備が必要だったりしそうなイメージがありますが、この認証においてはそう言った面倒なものは何ひとつなくて、まるでいきなり本番が始まるみたいな手軽さでした。この儀式に必要なのは2人の心の同調だけのようです。

 なので最初に行うのはリラックスする作業でした。と、言う訳で、お互いに深呼吸して息を整えます。儀式の進行は同席していたルイコが務めました。


「はい、それじゃあお互いに手を握りあって、そうしたら2人共目を瞑って……それが出来たら精神交換の儀に移るよ」


 2人は彼女に言われるままに手を握り合います。手を握った瞬間、体に電撃が走るような感覚をお互いが感じます。


「じゃあ早速、お互いの精神に深く繋がる様子をイメージして……」


「うわ……」


 ルイコの導きのままに泰葉がイメージしていると、握っていたアスハの手から大量のエネルギーが流れ込んできます。と、同時に彼女の側からも自分のエネルギーがアスハに流れていくのを感覚で実感しました。お互いの力が混ざりあうその奇妙な初めて感じる刺激に泰葉は翻弄されていきます。


「うわあああああああーっ!」


 その奇妙な刺激がマックスに達した時、2人の体は発光し始め、次の瞬間、泰葉の意識は飛んでいきました。



「いやあ、すごい光だ……え?」


 次に泰葉の意識が戻った時、彼女は自分の部屋のベッドで倒れていました。まるでさっきまでの出来事が夢だったみたいに。

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