第83話 魔界ライバル その2
「わーったわーった。だからくっつくな」
鈴香はゆみにくっついて妖怪猫カフェまねきとなりました。そんな2人のじゃれ合いを見て泰葉とセリナは笑います。こうして昼休みの会話は結局結論が出ないまま有耶無耶に終わったのでした。
放課後、泰葉はちょうどタイミングの合ったセリナと一緒に帰ります。色々と雑談をしながら帰っていたのですが、何かの拍子に会話は途切れ、沈黙の時間が流れました。次にうまく話し出せるタイミングを見失って、暮れなずむ夕日に染まる中、泰葉はため息を吐き出します。
「はぁ~」
「ねぇ、本当は何か相談したい事があったんじゃないの?」
「う……」
セリナにそう指摘され、泰葉は言葉に詰まります。その様子を見た彼女はじいっと泰葉の顔を覗き込みました。
「何か胸に溜まっていたなら話してよ。私達の仲じゃない」
「う、うん。そうだね」
セリナのこの気遣いに泰葉は苦笑いで返します。その雰囲気から何かを察したセリナは泰葉の悩みを推測します。
「もしかして……」
「え?」
真剣な顔のセリナにじっと見つめられた泰葉は心の中を見透かされたような気がしてドキッとします。自分の心臓の鼓動の高鳴りを感じながら、彼女はセリナの次の言葉をつばを飲み込みながら待ちました。緊張する泰葉の顔を見たセリナは自分の想像が当たっていると確信したのか、真面目な顔を崩してニヤリと顔を歪ませます。
「好きな人が出来たとか?」
「ないない。違う方向の話だよ」
「やっぱり何か悩みあるんじゃない。さあさあ、このおねーさんに話してみなさい」
自分の推論が外れた事で一瞬がっかりしたセリナでしたが、すぐに頭を切り替えて泰葉の悩みに切り込みます。対する泰葉はと言うと、さっきのセリナの言葉が引っかかって、すぐにその部分に突っ込みを入れました。
「おねーさんって。一ヶ月早いだけじゃないの」
「早く産まれた事には変わりないからね!」
そう、泰葉の誕生日は5月15日、セリナは4月12日。一ヶ月だけセリナの方が早く産まれています。普段はその事をネタにしない彼女なのですが今回はそう言う気分だったのか、敢えて早く生まれた事をネタに話を進めていました。
泰葉はそのネタをあまり快くは思わなかったものの、セリナがそれだけ自分を心配していると言う部分だけは感じ取れたので、その意思を汲んで今悩んでいる事をポツリとこぼします。
「……じゃあ言うよ。今日の昼休みのあの話」
「その子に何かされたの?」
「いや、その日にしか会ってないから。その時も話しかけられただけだったし……」
突然現れて名前の確認だけされてすうっと姿を消した謎の少女……。その当事者になればどれだけ心に残ってしまうのか想像に難くありません。泰葉の気持ちを想像したセリナは自分の感想を伝えます。
「ちょっと怖いよね」
「うん」
深刻な表情をする泰葉を何とか元気付けようと、セリナはここで一計を案じます。彼女は精一杯明るい顔を作って泰葉に話しかけました。
「じゃあ次の週末、ウチに遊びに来る?気晴らしにさ。面白いゲームもあるよ。後、漫画とかブルーレイとか……」
「有難う。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
こうして休日の予定は決まり、泰葉はニッコリと笑顔になります。その後はまた当たり障りのない会話が始まり、2人はお互いの分かれ道に差し掛かるまで楽しい時間を過ごしました。
セリナと分かれてひとりで歩く帰り道、泰葉は次の休みの事を考えてニヤニヤしながら家路を急ぎます。
そんな時でした。油断していた泰葉の前にあの少女がまた現れたのは――。
「ふふ、また会ったわね」
それは彼女が住宅街の角を曲がった時でした。いきなり泰葉の目の前に以前一度会っただけのあの謎少女が現れたのです。この突然の邂逅に泰葉は思わず大声を上げてしまいました。
「うわあああっ!」
「ふふ、いい驚きっぷり……焦らした甲斐があったわあ……」
この間はただ名前を確認しただけですぐに去ったこの少女、今度は何の目的で現れたのでしょう。突然の登場にドン引きしている泰葉に対して、悪戯っぽく笑う彼女は余裕の態度です。
今度は前回と違って、割とよく見るようなおしゃれな秋っぽい服装で周りの景色に浮いていません。もう隠す必要もないからか、顔もはっきり見せています。その顔は何故だか泰葉にそっくりでした。背格好も同じくらいでまるで鏡写しのようです。
違う部分と言えば、髪と瞳と肌の色くらい。髪は金髪で目の色は美しい青い色、肌に至っては透き通るほどの白さ。それはまるでヨーロッパの白人のようです。
自分とそっくりな容姿の少女が目の前に現ると言うこの状況に不思議な感覚を覚えた泰葉は、しばらくこの少女に見とれてしまいました。
「あなたは……」
「ふふふ……」
謎少女は泰葉の質問に対して意味ありげに笑うばかりです。このままでは話が進まないと彼女はカマをかけました。
「もしかしてストーカー?」
「ち、違うわよっ!」
流石にストーカーは気に触ったのか、少女は興奮しながらそれを否定します。この反応で話が出来そうと踏んだ泰葉は改めて質問しました。
「わ、私に何か用なの?」
「勿論」
「えぇと……」
話を続けるには相手の名前を知る事も大事です。どうやって名前を聞こうかと彼女が言い淀んでいると、まるで洋画のように少女の方から話しかけてきました。
「アスハよ。私はあなたと対の存在」
「対?」
「興味があるなら着いてきて」
「ええっと……」
一方的に話し終えたアスハと名乗るその少女はスタスタと歩き始めます。泰葉はこの状況に理解が追いつかず、遠ざかる彼女を目で追っていました。
泰葉が着いてこないのが分かると、アスハは歩みを止めてくるっと振り返ります。
「こないの?まぁ別にいいけど」
「ま、待って!」
何だかここはついて行かないといけない流れだと感じた泰葉は自分の直感を信じて、アスハの後をついていていきました。最初は見慣れた街の風景を歩いていたものの、どこをどう進んだのか、段々と周りが知らない景色に変わっていきます。
この状況に違和感を感じ始めた泰葉がこのままついて行っていいのか悩み始めた頃、アスハが泰葉に向かって尋ねました。
「どこにも連絡しなくていいの?」
「え?」
「全く知らない相手の挑発に乗って今から全く知らない場所に行こうって言うのに……」
「そ、それは」
突然話を振られた泰葉は戸惑います。
けれど言われてみれば確かにその通りで、それを連れて行こうとしているアスハ側から言われた事に泰葉は若干違和感を感じていました。その後も彼女は得意気に話を進めます。
「私の事は気にしてくていいわ。誰かのアドバイスが欲しければ急ぐ事ね」
「何で、そんな……」
「遠慮しない方がいいわよ。でないと後悔する」
「わ、分かったよ……」
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