魔界ライバル
第82話 魔界ライバル その1
「あなた、響泰葉さんね?」
泰葉はあの日突然現れた謎の少女の事を時折思い出します。自分では忘れたつもりにはなっていたのですが、普段は思い出さなくなっていても、不意に心の中に出会った時の印象が浮かび上がってしまうのです。
「……アレは一体誰だったんだろう?」
この事はりんご仲間のみんなには黙っておくつもりだったのですが、結局、この独り言を言っている時に聞かれてしまい、昼休みに彼女は洗いざらいその時にあった事を話しました。
「本当に見覚えがないの?」
「ない、全然」
セリナの問いかけに泰葉は首を横に振りました。じっと話を聞いていたゆみがここで口を挟みます。
「でもそれはきっと、近々また会う事になるのだと思う」
「あ、おばあちゃんと同じ事言ってる」
そう、以前泰葉がおばあちゃんに相談した時も全く同じ事を言われたのです。ゆみは腰に手を当ててため息を吐き出しました。
「多分大抵の人が同じ結論に辿り着くんじゃない?で、泰葉はどう思ってるの?」
「まぁ、私もそんな予感はしてる……でも……」
「でも?」
言い淀んだその言い方を聞いたゆみは身を乗り出します。泰葉は両手を伸ばして机に突っ伏すと、しんどそうに自分の感情をそのまま吐き出しました。
「不気味じゃない?出来れば会いたくないなぁ」
「確かにね」
ゆみもセリナもこの意見に関しては泰葉と同意見でした。それから話はぷっつりと途絶えてしまい、この話題はこれ以上広げられないと3人はこの話題をここで終わりにします。
「うーん。平和な1日ー」
「平和が一番だねぇ」
季節が秋から冬に変わる晩秋のひととき、この日は見事な秋晴れで、まるで平和を絵に描いたような日々が続いています。窓の外を見れば色付いた落葉樹の葉っぱが見事に染まり、後は一斉に落葉するのを待つばかりです。パラパラと一部の葉っぱは既に落ち始めていました。
そんな窓の外を見ていた泰葉はこの時期の定番の感想を漏らします。
「平和とは言え、段々寒くなってきたねぇ」
「ルルを見てみなよ。季節感ズレるから」
ゆみにそう言われて泰葉が身を乗り出して窓の外をじいっと眺めると、周りの長袖の生徒の中でひとり半袖姿ではしゃぐ少女の姿が目に入ります。そう、その少女こそがルルでした。彼女は運動場で遊ぶ体育会系の友達とはしゃぎまわっています。
「本当、彼女、元気だよねー」
「子供は風の子ってママが言ってマシタ」
ここでアリスも泰葉達の輪の中に参戦します。彼女の喩え話を聞いたセリナは何気なく返事を返します。
「あーそれは、もっとやんちゃな頃の喩えかな。10歳くらいの。私達はもう高校生だし」
「そ、そう言うものなのデスカ……」
自分の中の認識が間違っている事を知って、アリスは肩を落とします。その様子を見た泰葉は焦ってすぐに彼女をフォローしました。
「ま、まぁ、元気に越した事はないけどね」
「そうそう、元気が一番」
アリスにショックを与えた張本人のセリナも責任を感じて焦ってフォローに回ります。2人のフォローを受けて寂しそうな顔をするアリスにも笑顔が戻りました。
しばらくは窓の外ではしゃぐルルを全員が何も言わずに眺めていたのですが、やがてその状況に飽きてきた泰葉が話を切り出します。
「で、どうしよっか」
「ん?」
この言葉にすぐに反応したのはセリナです。反応があったと言う事で泰葉は話を続けます。
「今度の休みの予定」
「うーん、どうしよっか」
どうやら彼女は次の休みの事を次の話題にしたようです。特に予定の決まっていないセリナはここで泰葉にどう答えるか考え始めます。
けれど、次に口を開いたのは意外な事にアリスでした。彼女は困った顔をしながら申し訳なさそうに話し始めます。
「あの、私、ちょっと予定がアッテ……」
「いいよいいよ、気にしないで」
彼女の話を泰葉はニッコリ笑顔で快く受け入れます。何となく話を切り出しただけで、まだ何も決まってはいないのです。彼女は予定のない人だけ集まってそこで一緒に遊べたらいいな、と、そう言う軽い気持ちで話を始めただけなのでした。
ここで泰葉は予定のありそうな人をピックアップしていきます。
「ルルは部活だろうしね」
「ゆみも鈴香と猫カフェでしょ」
この話の流れに便乗したセリナがすぐに言葉を続けます。勝手に予定を決められて気を悪くしたゆみはここで語気を強めて反論します。
「いや、決まってないし!」
「じゃあ、何かする?」
予定は決まってないと豪語する、その発言を聞いた泰葉は改めてゆみに尋ねました。問い詰められた格好になった彼女は一瞬言葉をつまらせます。何となく雰囲気が悪くなってしまい、少しの間沈黙が続きます。
そこで改めて泰葉が仕切り直しとばかりに話し出しました。
「……まあでもたまにはさー」
この言葉にみんなが彼女に注目します。りんご仲間の視線を一身に浴びながら泰葉は話を続けます。
「当日まで何も決めずに、その日何か思いついたらその行動をするって言うのもいいかもね」
「行き当たりばったりか」
「単に自分がだらけたいだけじゃないの?」
泰葉の言い出した話にセリナとゆみがそれぞれツッコミを入れました。この2人の言葉を受けた泰葉は、開き直ったように笑顔でカラッと話します。
「それでもいいんじゃない?」
「まぁねぇ、確かに」
彼女のその案にセリナも賛同します。特に異論のないゆみもすぐに言葉を続けました。
「たまにはそう言うのもいいかも」
「でしょ?どうせ今は何も思い浮かばないんだし」
2人の賛同を得た泰葉は、調子に乗って少し得意気に口を滑らします。その言葉が引っ掛かったのか、ゆみがここで泰葉の顔をじっと見つめました。
「いやいや、やりたい事ならあるよ、例えばほら、スケートとかしたい」
「スケートねぇ。気が向いたらね」
泰葉はこのゆみの意見を軽く流しました。何故そうしたかと言うと彼女はまだスケート未経験だったからです。泰葉は元々インドア派と言う事もあって、スポーツを新しく体験する事にあまり乗り気ではありません。
そんな彼女の態度にゆみがつまらない顔をしていると、今度は自分の番とばかりにセリナが泰葉に話しかけます。
「私はゲームとかしたいかな」
「おお、ゲーム!いいね」
同じインドア派と言う事もあってこの意見に泰葉は食いつきます。インドア派2人の会話が盛り上がりそうな雰囲気を見せる中で、それが面白くないゆみはちくりと2人に釘を刺します。
「いや、休みなんだから外に出ようよ」
「ほら話が合わない」
「あはは……」
セリナがゆみの言葉に呆れたように返して泰葉は苦笑いします。そんな会話を縫ってここで突然の伏兵、鈴香がぬうっと現れました。
「ゆみちゃあ~ん。猫カフェ行こうよお~」
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