魔法文化祭
第133話 魔法文化祭 その1
ハロウィンが終わって数日後、完全復活したマールはまた学園生活を再開させる。遅れた分を取り戻すのは大変そうだったけど、一週間くらいかけて何とか頑張って授業についていけるようになっていた。そこまでは気が張っていたのか、授業に追いつけるようになったところで彼女は休み時間にぼうっとする事が多くなっているようだった。
その日の2時間目の休み時間も、マールは口を大きく開けてあくびをする。
「ふあぁ~あ……」
「寝不足ですか?」
そんな彼女の前になおがやってきた。心配そうに見つめられて、マールはあくびの理由を説明する。
「いや、私、ハロウィンを楽しめなかったじゃない?だから気が抜けちゃって」
「今からそんなんじゃ先が思いやられるよ」
そこに突然話しかけてきたのはクラスメイトのミチカだ。その言葉に全く見当がつかなかったマールは振り返る。
「はえ?」
「ハロウィンが終わったら魔法文化祭!みんな準備に忙しいんだから」
「え?ただの文化祭でしょ?」
魔法文化祭と言うのは文字通り魔法を使った文化祭の事だ。フォースリンク諸島では毎年11月の中旬頃に行われている。マールがピンと来なかったのは当然で、彼女の地元のクリング島ではこの文化祭、そこまで大規模なイベントじゃないんだ。
人々が集まって魔法を使ったパフォーマンスをするんだけど、割と地味な感じ。頑張る人は頑張るけど、興味ない人はそこまで積極的じゃない。学校でも同じ雰囲気で、マールはこの学校もそうなのだろうと思いこんでしまっていた。
そんなやる気のない態度を見たミチカは少し気を悪くする。
「それって田舎の離島の話じゃない?」
「ちょ、どう言う意味?」
この一言に、今度はマールの方が不機嫌になる。2人が目から火花をバチバチと飛ばす中、この状況に困ったなおが両方の顔を交互に見てぎこちなく手を動かした。
「や、あの、喧嘩は……」
無言のにらみ合いが続いていたところで、この状況に気付いたエールがツカツカとマール達の前までやってきて一喝する。
「こらミチカ!挑発しない」
「いや、そう言う訳じゃ……」
親友の強い一言にミチカも思わず肩をすくめた。エーラは更に説教を続ける。
「マールを見なさい、怒らせちゃ一緒でしょ。ゴメンね。この子、ちょっと常識が足りなくて」
「あ、いや……」
その言葉に変に誤解が混じっていると、マールは微妙な表情を見せた。そんな彼女の心境などお構いなしに、エーラはミチカの背中を強く叩く。
「ほら、謝る」
「ちょっと言い過ぎたよ……ごめん」
「えっと……いいよ、もう」
無理やり謝られるその姿を見たマールはこの問題がどうでも良くなった。形はどうであれ、こうして場の空気がリセットされたところで、改めてなおが話しかける。
「あの、マールちゃんも文化祭の準備、手伝いましょう」
「あ、うん。で、何を?」
「マールちゃんが休んでいる間に、クラスの出し物が魔法オブジェの制作に決まったんです」
マール達のクラスは、彼女が行方不明になっている間に何をやるのか決まってしまっていた。そうして、その決まったオブジェの制作をとっくに始めていたんだ。
クラスメイトの役割分担も済んでいて、まだ何も決まっていないのはマールだけ。休み時間や放課後に魔法文化祭の準備をしているのは彼女も気付いてはいたので、なおに勧められてやる気を出していた。
「うん、分かった。私何をすればいい?」
「何をしましょう?」
マールの役割について、すぐに答えの用意出来なかったなおはミチカに助けを求める。話を振られた彼女は、顎に手を当てて考え始めた。
「そうだなぁ。マール、絵は得意?」
「うーん、絵はちょっと……」
絵心に自信のなかったマールはすぐに難色を示す。選択肢がひとつ潰れて、ミチカはすぐに次の候補を口にした。
「じゃあ、歌は?」
「うーん、歌もちょっと……」
歌をどうするのかと言うと、完成したオブジェに歌を歌わせる計画があるらしい。ただ、この案もマールは嫌がってしまう。ふたつの候補を否定されたミチカは、他にすぐに思い浮かぶものがなかったので少しキレ気味に質問する。
「じゃあ何が出来るの?」
「えー?何かなぁ?」
マールは特に自信のある作業が思い浮かばない。こうして話が暗礁に乗り上げかけたところで、この問題を解決させようとエーラが助け舟を出した。
「はい、マール、これが今人手が必要な仕事。出来そうなのある?」
彼女が持ってきたのはこのクラスの魔法文化祭の仕事分担が書かれたプリントだった。そこにところどころチェックが入っている。多分このチェックを入れたのはエールだろう。
彼女がチェックした人手不足の仕事の項目を眺めたマールは、しばらく考え込んだ。
「うーん。どれも難しそうだね。なおちゃんは何を?」
「わ、私は……デザインを任されてます」
「へぇ、すごいじゃん」
なおの仕事を聞いたマールは感心する。任されたと言う事は、推薦か何かがあったのだろう。オブジェのデザインの担当と言うとそれなりの責任を求められる。
つまり、彼女の美的センスがクラスで認められていると言う事だ。友人が認められてると言うこの現実が、マールにとっては自分の事のように嬉しかった。
話がなおの話題に移ったところで、この会話を黙って聞いていたミチカが変な勘ぐりをする。
「サボりたい気持ちも分かるけど、全員参加だからね」
「な、別にそんなんじゃ……そう言うミチカは何やってんのよ?」
「私は演出」
彼女の担当する仕事の内容がピンと来なかったマールは、素直な疑問をぶつけた。
「演出って何やんの?」
「全体的な企画から作品の配置、飾り付け、その他諸々かな」
ミチカは少し得意げに演出の仕事の説明をする。意外とする事は多そうだ。そうしてこの会話にエーラが参加する。
「どんなにいい作品が出来ても、それを魅力的に見せるのは演出の腕次第なんです」
「エーラも演出?」
「はい。1人じゃとても足りませんから。やる事が多くて」
「じゃあ私も演出やろっかな?」
話を聞く限り演出の仕事が大変そうに思えたマールは、自分もこの仕事をしようかと持ちかけた。すると、ミチカがすぐに不機嫌な顔をする。
「演出はもう十分人手足りてるんだって。エーラの渡した紙の中から選ぶしかないんだよ」
「うーん。何がいいかなぁ」
演出の仕事を拒否されて、改めてマールはプリントを眺める。確かに演出の仕事にチェックは入っていなかった。チェックが入っているのは素材作り、ポスター制作、歌、チラシ作り、宣伝、後はオブジェ制作の手伝い。基本的にほとんどが人手不足状態だった。
プリントを凝視するマールにエーラが声をかける。
「無理にとは言わないけど、出来れば放課後までに決めてね」
大体の話を伝え終えたミチカとエールは、他にも用事があるのかマール達から離れていった。2人だけになったところでマールが話しかける。
「魔法文化祭、本格的だねぇ」
「確か、学校の文化祭とは別に、街の文化祭もあるそうです」
「へぇ、面白そう」
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