第129話 ハロウィン その7
彼女の嘘はすぐに分かる。基本的に知ったかぶりだからだ。その代わり、嘘がバレたらすぐに認めるからそこまで悪い印象は抱かない。本当、いい性格してるよ。
そんなマールはまだ意見が欲しいのか、僕の顔を鼻息荒くずっと見つめている。仕方がないので、考えられる可能性をもうひとつだけ提示した。
「でもダミーとは限らないかもだよ」
「何よどっちなのもう!」
正反対な意見をぶつけられてマールは混乱したようだ。ただ、どちらも可能性としては有り得るから僕は口にした訳で、本来怒られる筋合いはない。魔法上級者の使う部屋ならば、特殊魔法で痕跡をすべて消してしまう事も出来るかも知れないし。だからどちらの可能性もありなんだよね。
それなのに表面上の言葉しか理解しようとしない主に、僕はちょっとばかり腹を立てる。
「そこは自分の頭で判断してよ!」
「分かったよ、そうする!とんちゃんのいけず!」
結局最後までへそを曲げたまま、マールは眠りについた。本当、世話が焼けるよね。
次の日、マールは僕と相談した話をそのままなおに伝える。彼女は真剣に話すマールの言葉をうんうんと素直にうなずいていた。
「なるほど、確かにダミーかも知れませんね」
「私、ダメ元で先輩に聞いてみる」
儀式の間については、何か知っているらしい先輩にマールは突撃しようと試みる。この際、ほんの小さな手がかりでも当たってみるべきだろう。
こうして、今後の行動が決まったところで時間は一気に放課後へと飛ぶ。
今日も転移魔法の習得に向けて、ミーム先輩が意気揚々とやってきた。先輩が到着したところで、マールは早速儀式の間についての質問をぶつける。最初こそ突然過ぎて要領を得ていなかった先輩だけど、話を詳しく聞いていく内にほうほうと感心したようにうなずいた。
「しかしよく魔女に認められたな。あ、なおが試したのか。なら納得だ」
「ぶぶー。違いますうー!私ですうー」
先輩の推測が間違っていたので、マールはすぐにその言葉を得意げに訂正する。その事実を聞いた先輩は、目を丸くして口をあんぐりと開けた。
「ウッソだろおい」
「何で信じないんですか!」
「だってお前、魔女から認められるには天才的な才能を持っているか、始まりの魔女の血筋じゃないといけないんだぞ」
先輩の口から語られたその条件を聞いたマールは、それが当然だと言わんばかりにコクリと首を縦に振る。
「私、その血筋だよ」
「マジでか」
「魔女から認められた事が証拠になるじゃん」
そう、こう見えてマールは血筋的には結構由緒正しい家柄の出だったりする。ただし、地元ならいざ知らず、留学先でその事を知っている生徒は誰1人としていなかった。この魔女の1件で、ミーム先輩が初めてそれを知った学園の生徒となる。
ただ、そのままその言葉を信じるのが悔しかった先輩は、素直に事実を受け入れられない理由を半ば投げやり気味に言い放った。
「ぐぬぬ……。でも直系が何で検定Eなんだよ!有り得ねぇぞ」
「だって、事実だし……」
自分の実力を理由に出されて、マールは段々言葉の勢いが弱くなる。そんな彼女を見た先輩はある理由をそこで思いついた。
「もしかして、まだ力を継承してないとか?」
「継承はしてるけど……」
マールはおばあちゃんから力の継承をしている。ただそれをまだ活かしてはいない。自分の進む道が決まるまで温存してるからだ。だからこそ、今の実力は今の素の彼女個人の実力でしかない。
と、話がここまで進んだところで、その会話に疑問を抱いたなおが会話に割って入る。
「あの、継承ってなんですか?」
「えっとね、この島では代々魔法使いが死ぬ時に力を誰かに譲り渡していくしきたりがあるんだ」
「そう……なんですね……。うう……っ」
マールが継承の話をしたところで、突然なおが苦しみ始めた。この場にいた2人は、何故彼女がそんな状態になってしまったのか分からずに困惑する。
「な、なおちゃん?」
「やべぇな、保健室に連れて行こう」
困惑した2人は顔を見合わせ、両側から肩を貸す形でなおを保健室まで運ぶ。この時、彼女の顔は青ざめていて意識も朦朧としているようだった。治癒魔法を試みても良かったものの、どうにも様子がおかしかったために専門家に任せようと言う判断を取ったのだ。
保健室に着いてまずはゆっくりとなおをベッドに寝かすと、先生が彼女の額に手を当てながらその様子を観察する。しばらくその状態が続いたものの、数分後に先生は振り返り、心配そうに見守っていた2人に向かって明るい声で彼女の症状を伝える。
「うん、大した事ないわね。しばらく寝ていれば回復するよ」
「有難うございます」
先生の見立てを聞いたマールはほっと胸をなでおろし、ペコリと頭を下げた。先生は椅子に座ると、改めて2人に向かって声をかける。
「前からよくあったの?こう言う事」
「いえ、多分、今日が初めてです」
「そか。ま、大丈夫だから安心してね」
保険の先生の言葉を信用して、マールと先輩は魔法用具小屋の裏手に戻る。既に西の空が紅い色に染まり始めていて、今更魔法習得に励む雰囲気ではなくなっていた。
2人は小屋の壁に背中を預けてなおが倒れる前の話の続きを始める。そう、力の継承の話だ。マールがまだ力の使い道を決められないと言うと、先輩は紅い空を見上げながらポツリとつぶやいた。
「そっか、まだ力の使い道に悩んでるのか」
「この力を開放したら検定レベルは上がるのかな」
「そりゃお前、B以上は確定だぞ、直系だからな」
先輩はマールの質問に真面目な顔で答える。継承で得た力を自分のものにすれば、ぐんと魔力レベルは上がるらしい。そりゃ、由緒ある血統の力を受け継ぐんだからすごい力を得るのも当然だよね。
この話を聞いたマールは、自分の手を見つめてぐっと力を込める。自分の力を確かめるような仕草をしている彼女を見た先輩は、そっと視線をそらして呆れ顔で言葉を続けた。
「検定Eの癖に転移魔法をマスターしかけた理由も分かったわ。そう言う事か」
マールにはそう言う潜在能力があるからと言う、この言葉を聞いたマールは秒で気を悪くする。
「しかけじゃないですうー!マスターしてみせますう~!」
「おーし言ったな!じゃあやってみせやがれいっ」
売り言葉に買い言葉になって、今日はもうしないはずの魔法の修行がこの場で再開された。
「ふんぬおおおお!」
それから約20分後、無事に意識を回復したなおが用具小屋にやって来た。それを合図に今日の修行は終了する。2人はすぐに帰り支度を整えて学校を後にした。
そこから寮に付くまでの道中、まず最初になおがペコリと申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんなさい、急に倒れてしまって」
「いーよいーよ。それより聞いて、後少しだったんだ!」
彼女からの謝罪を軽く処理すると、マールはさっきの修行での手応えを興奮気味に口にする。その楽しそうな顔を見たなおはつられてニッコリと笑顔になった。
「良かったですね」
「この調子なら明日にもマスター出来そうだよ」
その後もマールの一方的な話は続き、なおはしばらくの間聞き役に徹していた。この会話が途切れたところで、今度はなおがマールに質問する。
「それで、儀式の間の謎は解けました?」
「あ」
彼女に指摘されてマールは言葉を失った。自分の事ばかりに気が向いてしまっていて、すっかり忘れてしまっていたのだ。
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