第104話 スカウト その2
マールに諭されたなおはがっくりと肩を落とした。新規部活の線が消えたところで2人はまた冊子の中から手頃な部活を探し始める。最後の方までページをめくったところで、マールはまた面白そうな部活を発見する。
「この魔法歴史部はどうかな?」
「それは魔法古代研究会とかとは違うんですか?」
なおの質問に彼女は記載されている部の活動内容の情報を読み上げた。
「古代研究会が扱うのはずっとずっと昔の事だけど、歴史部はちょっと前くらいで、今も現存している古民家とかを調べたり学んだりとかみたい」
「あ、そう言うのっていいかも知れませんね。それで各地を調べたりするのに島中を回れそうですし」
特に体育会系でもないし、島の各地も回れるしと、この部活なら2人の希望に沿ったものと言えそうだ。好条件だと言う事もあり、彼女も乗り気と言う事で、早速マールは興奮しながらこの部を最終候補に残そうと話を進める。
「おお、じゃあ結構いいんでない?」
「じゃあそこに決めま……」
「あ、ダメだ」
なおが魔法歴史部に入ろうと決断しかけたところで、部の詳細情報を読んでいたマールがその行為にストップをかけた。この突然の行動に彼女は驚く。
「ほえっ?」
「歴史部、去年で部員がいなくなって廃部になってる」
そう、この冊子は現役の部活だけを扱ったものじゃなかったんだ。おそらく廃部になったのが急だったのだろう。割と雑に活動廃止と言う情報が上書きされていた。折角都合のいい部活が見つかったと言うのに、またしてもそれが選べないと言う事実に2人は思いの外落胆する。
「中々うまくいきませんね」
「はあっ……本当だよ」
2人は息を合わせるようにため息を吐き出した。それから改めて部活案内の冊子を眺め始める。記載されている部活のあまりの多さにマールは辟易した。
「部活の数が100以上あるんだもんね。チェックするだけでも大変だよ」
「でもこれだけあるんだから、きっといい部活が見つかりますよ」
「うん、きっとそうだよね」
なおに慰められて部活探しの検討は続く。2人の譲れない条件に合う部活となると、それはそう簡単に決められるものでもなかった。部活の数は多くあっても、いや、多くあるからこそ、あっちがいい、いやこっちはどうかと決めきれないでいたんだ。
一通りの部活情報に目を通したマールは机に身を投げ出した。
「しかし……何部がいいかなぁ……」
「ぴったりコレって言うのは見つかりませんね」
「聞いた事のない部活とかだと、説明文だけじゃピンとこないしね」
そうなのだ。この学校にはマニアックすぎて部活の名前や冊子に載っている情報だけでは活動が思い浮かばない部も結構あって、そう言う部活に対してはこの場で判断が出来ないと言う問題が浮上してきていた。
色んな部活情報が頭の中で乱反射していたマールは、ついに思考回路がショートしてしまう。
「やっぱ部活はやめよっかぁ……」
「焦らずに何か考えましょう」
諦めかけた彼女に対して、なおは力強くこの話の継続を進言する。その熱い眼差しを受けて、マールは改めて彼女の意思を確認した。
「なおちゃんはやっぱり部活、したいんだね」
「だって、折角ですから」
「よし、分かった!じゃあ頑張っていい部活を探そう」
ここでマールが気合を入れ直したその時だった。部活検討中の2人の前にクラスメイトが現れる。髪はショートカットで背が低くて大人しそうな子だ。
確か名前はルルカとか言ったっけ……?彼女は少しもじもじしながら2人に向かって話しかけてきた。
「あ、あの……」
「ほえ?」
この突然の珍客の乱入にマールが目を丸くしながら反応する。何故なら、精霊騒動が終わってからはマール達に絡んでくる生徒はもうほとんどいなくなってしまっていたからだ。まずは話を聞こうと、2人は揃ってルルカの顔を眺めた。
「なおちゃんを呼びに来た人がいるんだけど」
「えっ誰だろ?」
「あそこの人……」
マールの質問に、彼女はおずおずと教室の出入り口のドア付近に顔を向ける。その視線の先には、見慣れない女子の先輩らしき生徒がこちらを向いて立っていた。真っ赤な髪が鮮やかで結構目立つ感じで、まっすぐにマール達を見つめている。てか、見つめていると言うより睨んでいると言った方が近い。
この特殊な状況に全く身に覚えのないマールは、事実を確認しようとなおに話しかけた。
「知ってる?」
「いえ、全然……」
「嫌なら断ろっか?」
「えっ?」
彼女の事を考えたマールは、この謎の先輩の誘いを拒否する決断を提案する。見ず知らずの相手をこんな形で呼び出すなんて、普通に考えてまともな事ではないパターンである場合が濃厚だろう。当然のように彼女もそれを危惧していた。
けれど、なおはその呼びかけに対し、自分達の安全よりも相手の事を優先して考えていた。
「でも……折角きてくれたみたいですし」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「はい」
こんな怪しい状況でなおひとりを単独行動にはさせられないと、マールも同行する事を決意する。2人で揃って待っている先輩のもとに向かうと、その先輩の顔は途端に不機嫌そうな表情に変わった。
「あのさ、なおって子に用があったんだけど」
「なおちゃんひとりでは行かせられないので」
マールはこの先輩に対して挑戦的な顔をして対抗する。近付いてみると先輩の背の高さはマールと同じくらいで、だからそんなに威圧感と言うものも感じられない。
先輩はしばらく悩む素振りを見せるものの、すぐに決断を済ませてマールの方に顔を向ける。
「うーん、仕方ないな。じゃ、おまけもついてきて」
「おまっ!」
先輩のこの言い草にマールは一瞬で気を悪くする。このやり取りで2人の間に険悪な空気が流れるものの、すぐにそれを察したなおが何かが起こる前にと慌てて口を開いた。
「マールちゃん、行ってみましょう!」
「なおちゃんがそう言うなら……」
こうして無駄な争いは回避され、3人は先輩の先導のもと歩き始めた。歩きながら先輩はついてきている留学生2人に向かって話しかける。
「あんた達、今入る部活で悩んでるんだってね」
「どうしてそれを?」
先輩の問いかけにマールが反応する。マール達が入る部活を検討している事はクラス内では知られていたものの、他クラス、しかも学年を超えてまで広がる情報ではない。だから彼女が驚くのも当然の反応だった。
マールの質問を受けた先輩は、にやりと不敵に笑うと意味ありげな返事を返す。
「あたしらには色んな所から情報が入ってくんの」
「それはすごいですね」
その言葉になおは素直に感心した。対してマールはと言うと、この先輩の言動に不信感を拭えずにいる。そう言う流れもあって、彼女は先輩に向かって少し挑戦的な態度で質問を飛ばした。
「で、どこに向かってるんですか?先輩」
この質問に先輩はすぐには何も喋らなかったものの、廊下を歩いて生徒もいない死角に回り込むと、突然くるりと振り返る。そうして後ろを歩いていた後輩2人に向き合う形となった。
「よし、ここでいいか」
「?」
この突然の先輩の行動に2人は何故そうしたのか理由が分からずに困惑する。どう反応していいのか分からず、挙動不審になっている2人を前に先輩はおもむろに両手を2人に向かって差し出した。
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