雨の日
第62話 雨の日 前編
その日は朝から雨が降っていた。降り続く雨音を聞きながら布団をかぶったマールはつぶやく。
「雨だね~」
「学校、休むなんて言わないでよね」
僕は背伸びしながら先手を打った。大体、雨の度に休んでいたら進級も出来ないよ。幼い頃は逆に雨が好きな時だってあったのに、いつの間に彼女は雨嫌いになったんだろう。こう言う日に起こすのは本当に骨が折れるんだ。あんまり手荒な事はしたくないんだけどな……。
「学校から今日はお休み~って連絡があったらいいのに」
「そんな都合のいい話はないでしょ……」
「ああ~もっとじゃんじゃん大雨になったらいいのにな~」
「だから学校は休みにならないってば」
駄目だ、やっぱり言葉だけで今朝のマールを起こすのは無理っぽい。僕はヒョイッと布団の上に飛び乗って猫マッサージを始める。この刺激、逆効果にならないといいんだけど……。
その内彼女は布団を頭までかぶって寝たふりを続行する。いざとなったらやっぱり猫パンチしかないか……。
「マール、起きなさーい!ごはんですよ~」
「ほら、呼んでるよ」
この母親からの呼び出しを利用して僕は一気にマールの布団を引き剥がした。不意に掛け布団を取られた彼女は渋々起き上がって出かける準備を始める。
のろのろと着替えて、のろのろと髪型をセットして……準備が整って食卓に座った彼女を見た母親はいつもと違う彼女を不思議そうに眺める。
「どうしたの?テンション低いけど」
「いや、雨だし」
「雨も大事よ~。降らなかったら水は飲めないわお風呂にも入れないわ……」
「分かってるよ」
ダルそうなマールとは対象的に明るく話す母親のノリに馴染めないのか、マールは黙々と朝食を口に運ぶ。この時の僕は彼女の態度を単純に雨が嫌いだからそう言う行動を取ってしまうのだろうと、短絡的に考えてしまっていた。
そう、彼女が普段の雨の日より嫌がっている事に気付けなかったんだ。
「マール、学校行くよ~」
食事の途中で玄関の向こうから友達の声が聞こえてくる。その声を聞いた母親は急かすようにマールに声をかけた。
「ほら、ゆんちゃんが呼びに来たよ」
「ふぁ~い」
気のない返事を返しながらマールは淡々と朝食を食べ終え、淡々と玄関へと向かう。僕は見送りながらこれで自分の朝の仕事は全うしたと胸を撫で下ろしていた。
彼女が玄関を開けると顔馴染みの2人が揃って姿を表す。
「2人共真面目に学校行くんだね~」
呆れたように話すマールにゆんがからかうように声をかける。
「マール、休みたかった?」
「そんな気分だった」
苦笑いを浮かべる彼女にファルアがツッコミを入れた。
「どうせ雨を感じるのは登下校の間だけなんだからそのくらい我慢しなよ」
「へいへ~い」
そうしてマール達3人は仲良く雨の中を学校に向かって歩いていく。僕はそれを姿が見えなくなるまで見送った。
この頃の雨は小雨より少し勢いが強い程度でいつも降る雨と変わらないくらい。なので、僕はマールが帰ってくる頃には雨がやんで傘を忘れるんじゃないかとかそんな事を想像をしていた。
教室に着いたマールはすぐに机に突っ伏してぐったりする。授業中はそれでも何とか体を起こしていられたものの、休み時間になった途端にまた同じポーズを取っていた。そんな彼女の様子を見ていたなおが心配そうにマールに声をかける。
「どうしたんですか?気分が悪いなら……」
「ああ、雨でテンションが低いだけだよ」
心配する彼女にゆんが声をかける。その言葉を聞いたなおは納得がいかないのか、感じた違和感を素直に口に出した。
「え、でも、この間の雨の日はここまでじゃなかったと思うんですけど」
「マールは気分屋だからねえ」
その言葉に今度はファルアが口を挟む。幼馴染の2人にはマールの事はすっかりお見通しらしい。ずっと黙ってこのやり取りを聞いていたマールはちらりと顔をあげると面倒くさそうに一言ポツリ。
「何だか今日は元気が出ないんだよ~」
「大丈夫ですか?」
「無理、だるい」
「やっぱり保健室に……」
なおはマールを本気で心配している。その様子を気の毒に思ったゆんが親切に声をかけた。
「なおちゃんもそこまで気にかけなくていいよ。こう言う事はよくあるんだから」
「そうそう、付き合い長いとね。分かってくるんだよ、うん」
ゆんに続いてファルアも言葉を続ける。2人に説得されたなおはその言葉を受け入れる事にし、何か別の話題を探そうとスマホを取り出した。それからしばらく画面を操作して話題の見つかった彼女は何げなくそれを口にする。
「あ、この雨、午後には止むらしいです」
「本当?」
その言葉に元気よく起き上がったマールはなおに向かって身を乗り出した。この態度の変わりようにあっけにとられながら、彼女は言葉を続ける。
「予報だからまた変わるかもですけど……」
「よっしゃ!元気出て来た!」
雨が止むと言う言葉を聞いただけでマールはすっかりいつものテンションを取り戻した。それを見たゆんが笑いながらなおに声をかける。
「ほらね、単純でしょ」
「確かに」
ゆんの言葉になおも笑顔で答える。そのやり取りを何か馬鹿にされているように感じたマールは頬を膨らませて抗議する。
「何よ、もー!」
4人が楽しいいつも通りの会話を楽しんでいるそんな時だった。急に空が暗くなったかと思うと、突然強烈な閃光が窓から差し込んで来た。
「キャッ!」
それから数秒後、とんでもない爆音が教室を揺らす。そう、学校の近くに雷が落ちたのだ。その雷が落ちた瞬間から突然天候は荒れ始める。雨脚は強くなり、強い風も吹き始めた。その荒れようは風雨と言うより暴風雨、まさに嵐だった。
天気予報とは全く真逆のこの展開に4人は軽く混乱する。
「すごい雷、今日どうしたんだろ?」
「こんなに荒れるって聞いてたっけ?」
「予報と全然違うよ!魔法予報がまた外れ始めた?」
「あわわわわ……」
彼女達が慌てたところで嵐は収まらない。それどころか風雨は更に激しさを増していく。この天候の急激な変化に、生徒達はみんな窓際に集まって外の様子を心配そうに眺め始めた。さっきの雷の余韻がまだ残っている中、天空からの強烈な光が生徒達の視界を奪う。
「また雷!」
「それもあるけど、ちょっと雨の勢いもおかしくない?」
みんなが感じている事をファルアが代弁する。これはどう考えても昼に止むレベルの雨の勢いじゃない。そうしてまたワンテンポ遅れて轟音が教室を、校舎を揺らす。
「キャッ!」
「またっ!」
「もう雷はいいよーっ!」
この異常事態の中で違和感を感じたマールは振り返って教室を見渡しながら口を開く。
「あれ?」
「え?何?」
彼女の言葉にゆんが反応する。聞く相手が出来たのでマールは自分が感じた違和感を彼女に話した。
「この騒ぎになって気付かなかったけど、しずるがいない……。朝からいなかったんだっけ?」
「あれ?どうだったかな?」
ゆんも自分の記憶をたぐろうとしたものの、具体的なものを引っ張り出す事は出来ないようだった。その時、この会話を聞いていたなおが答える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます