鬼の角を探せ!
第142話 鬼の角を探せ! その1
土蜘蛛退治を終えて、私達はまた暇になった。もしかしたら私が退治仕事を拒否したからそれで日程の調整が入っているのかも知れない。分かんないけど。
ま、そんな訳で翌日からは何の予定もない退屈な日々がまた始まった。現実世界だとテレビとかゲームとかネットとか、そう言う色んな暇つぶしアイテムがあるからやろうと思えばずーっとひきこもれるけど、そう言うのがないこの妖怪世界じゃ、暇はどうにかして潰していかないといけない最大の敵だ。
こんな時、キリトはいつもどうしているのかと言うと、城の書庫で本ばっか読んでいる。まぁ、彼らしいっちゃらしいんだけど。
今までは1人で城を出て城下町で遊んでたんだけど、それにも飽きてきたんで私は読書に夢中になっていたキリトの腕を引っ張って無理やり城の外に連れ出した。
実は今日こうして2人で外に出たのにはもうひとつ大きな理由があるんだよね。私は浮かれた顔でその理由を口にする。
「ねぇ、今日はお芝居観に行ってみようか」
「は?」
「だって今日もお休みだしさ。色々体験したいじゃん」
そう、その理由は観劇。城下町の雰囲気は時代劇で見る江戸の風景に近くて、ああ言うセットの中で普通の妖怪達が暮らしている感じ。文化的にも近くてお芝居なんかもやってる。映画とか演劇とか、ああ言う場所はやっぱり複数で楽しんだ方がいいもんね。見終わった後に感想とか話し合えるし。と、言う訳なんだな。
折角私が誘っていると言うのに、そう言うのに興味がないのか彼はつまらなさそうな表情を変えないまま不満を訴える。
「でも急に用事が入るかも知んねーじゃん」
「でも、今までそう言う事あった?」
「う……」
私のツッコミを聞いてキリトは言葉をつまらせた。うし!勝った!折角なのでもう少し追撃をしておこう。私は得意げに彼の悔しそうな顔を見つめる。
「それに何かあったら呼ばれるって。どうせ私達がしている事って緊急性ないんだし」
「じゃあ1人で行けばいいじゃん」
「1人で行ってもつまんないんだよっ!」
こいつ、もしかして映画とか1人で観に行くタイプかな?お芝居を1人で見るなんて私には考えられないんだけど。ここでちょっと興奮して声を荒げてしまったのもあって、キリトは顔をそらしながら声のトーンを落とした。
「じゃあ他に誰か……」
「キリトはここに来て誰かと仲良くなった?」
「や、それは……」
またしても私のツッコミに彼は言葉をつまらせる。私だってね、もっと仲のいい友達がいたらその子を誘うよ。なんで無愛想な相手を誘うか、そこを分かって欲しいんだけど。この右も左も分からない異世界で他に知り合いがいないからだって事を!
煮え切らない態度の彼の様子を観察すると、動揺しているのかどこか挙動不審気味になっている。今まで一緒に行動してきて、キリトの行動パターンは結構把握しているんだよね。それは押しに弱いって事。特にこう言う本人の意志が確定していない場合は結構ちょろい。
なので私は強引に腕を掴むと、そのまま芝居小屋に向かって歩き出した。
「だから行こっ」
「ちょ、俺の都合……」
彼は口先では文句を言っているものの、全く抵抗感はない。言い訳が欲しいだけみたいだ。仕方ない、悪者になってやるから付き合えっ。
そんな感じで相棒を無理やり引っ張っていると、つい最近顔見知りになったひとつ目小僧が声をかけてきた。
「あーっ!ちひろー!」
「よう少年!元気かぁ!」
私は空いてる手を上げて元気良く挨拶を返す。ひとつ目少年は満面の笑みを浮かべ、私にお礼を言った。
「うん、この間は奢ってくれてありがと」
「みんなには内緒だぜっ!」
彼はそう言ってにんまり笑うと、また町の雑踏の中に消えていく。私も手を振って見送っていると、一連の流れをじいっと見つめていたキリトが不思議そうな表情を浮かべながら話しかけてきた。
「なぁ……」
「ん?」
「もしかして結構この町の妖怪達と交流してる?」
どうやら彼は私が町の住人達とフランクに会話をしている事に興味を抱いたみたい。ま、この町に知り合いが1人もいない彼からしたら不思議な光景なのかも知れないな。
別に隠す事もなにもないので、私は素直にこの疑問に答える事にする。
「向こうから声をかけられた時とかにちょこちょことだよ。妖怪も子供は好奇心旺盛だよねっ」
「お、おう……」
私の回答にキリトは何となく釈然としないような表情で返してきた。何が納得行かないんだろう。私だって今までに様々な妖怪と交流してきたから、それでどんな妖怪と会っても動じなくなったんだよ。今だったらこの妖怪の町で暮らす事も出来るね。余裕でね。
そうして町の様子を見物しながら私達は芝居小屋に向かって歩いていく。目的地は商店街の中にあるから当然誘惑も大きい訳で。色んなお店の食べ物とか服とか、遊び道具とか目移りしながら進んでいった。
隣の相棒はと言うと、初めての城下町に緊張しているのかほとんど視線を動かさない。その様子がおかしくて私は彼にバレないように前を向いてクスクスと笑う。
そうしている内に目的の芝居小屋の前に辿り着いた。私はそこでくるりとちょっと大袈裟に振り返ると、後ろをカルガモの子供のように従順についてきていたキリトに向かって両手を広げてアピールした。
「じゃーん、ここだよっ」
「妖怪のお芝居……。ここ、入った事あんの?」
「いやだから入りたいから誘ったんだって。こう言うのはやっぱ誰かと観ないとね」
私が観劇したいから誘ったと言う事を強調すると、彼は真顔で予想通りのカミングアウトをする。
「俺、映画とか1人で観るぞ」
「それ、友達がいないからでしょ」
「くっ……」
キリトが寂しい事を言うから私はつい図星を突いてしまった。この口撃によって精神を深く傷付けた彼は視線をそらして拳に力を入れている。あちゃぁ。やりすぎた。ここはひとつ、誰かと一緒に同じものを体験する素晴らしさを説かないとだね。
私はすぐにこの悪くなった空気を何とかしようと、両手を派手に動かしながら説得に入った。
「こう言うのってみんなで見た方が楽しいんだって。本当だよ」
「そ、そう?」
「まぁとにかく入ろう!」
私はまだ半信半疑なキリトの腕を強引に掴むと、そのまま芝居小屋に突入する。受付ではモギリの唐傘が陽気に対応してくれた。
「お、人間さんだね!楽しんでくんな!」
「はい、楽しみます!」
「ど、ども……」
緊張しているのか、相棒の声が小さい。ま、すぐにこの雰囲気に慣れろってのも無理があるよね。
今から上演するお芝居は人気の演目らしく、小屋の中は多くの妖怪達で賑わっていた。見た事のない妖怪も多いな。人型じゃないのもそれなりにいる。人間観察ならぬ、妖怪観察も楽しいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます