第73話 謎のだるま現る その3

 そこからは何となく会話は途切れ、長い沈黙の時間が続いた。天狗文書のある彼はずっと暇潰し出来ていいけど、そうじゃない私は何か会話でもしないと退屈で仕方がない。

 なので何か話しかけようと頭の中でネタを模索していると、助け舟を出すみたいにここで鈴ちゃんが話しかけてくれた。


「今日は誰もこないんでしょうか?」


「たまにそう言う日があっていいんじゃない?先週の木曜なんて1日に3件もこなしたんだよ。放課後の限られた時間で3件だよ!私よくやったよ!」


「自画自賛かよ」


 私が得意気に喋っていると、その言い方が気になったのかキリトが切れ味の鋭いツッコミを入れる。

 しかし私は反論するね!それが自画自賛ではない事を証明出来るね!


「だってあの時キリト、相談に口すら挟まなかったじゃない。全部私のお手柄だもんね」


「全部簡単な依頼で良かったですよね」


「そうそう、ほぼ愚痴に相槌打っただけで解決したよ」


 そう、その時は確かに忙しくはあったけど、全部簡単な依頼だった。実際、そうじゃなきゃこなせないよ。相談って答えは最初から決まっていて、受ける側はそこに導くだけでいいって言うけど、あの時はみんなそのパターンだった。いつもこんなのばかりだといいのに。


「つまり最初から俺の出る幕とかなかったんじゃねーか」


 このキリトのツッコミは聞かなかった事にしよう、うん。私のお手柄なのには変わりないもんね。


 それにしても今日は本当に相談者がやってこないな。下校時間まで一体何をしていたらいいんだろう。うーん、そうだなぁ……。

 と、ここで私はナイスなアイディアを閃いた。


「さてと、何もする事なくて暇だしお宝でも磨くかな。キリト、鍵!」


「出さないって」


「何でよ!ケチ!」


 お宝の管理は彼に一任していて鍵も彼が管理している。だからお宝を触ろうと思ったらいちいち許可が必要なんだよね。折角お宝を手入れしようと思ったのに、何故彼は私のこの優しい気遣いを無碍むげに拒否しようとするんだろう?2人で協力して集めたお宝は私のお宝でもあるはずなのに。


「迂闊に触って何かあったらいけないだろ。そう言う考えにもならないのか?」


「大事にするってば。私そんなに信用ない?」


「今までの言動を見る限りはな」


「何それヒドイー!」


 その言い方にムカついた私はキリトを感情の赴くままにポカポカと叩いた。ずっと叩かれて反省したのか彼も態度を改める。


「分かった、分かったよ。言い過ぎたよ!」


「うむ。分かれば宜しい」


 謝罪の言葉を聞いて叩くのを止めた私にキリトは小さな声で何かつぶやいた。


「……面倒くさ」


 勿論私はその言葉を聞き逃さない。すぐに温和な顔から般若の顔に変えてジロリと彼を睨みつける。


「あ?何か言った?」


「いいや、何も?」


 私達がそんな三文芝居を繰り広げている最中、何かに気付いた鈴ちゃんがじいっと部室内のある場所を凝視していた。


「あれ?」


「どうしたの?」


「こんな所にだるまなんてありましたっけ?」


「えっ?」


 そう、そこには選挙事務所で見かけるような、結構大きめのだるまがあった。机の上にまるで最初からそこにあったみたいな存在感で鎮座している。嘘――こんなに大きかったら流石の私も気付くはずなのに――いつの間に?一体誰がこんな物を?

 この異常事態を前にキリトもやって来てみんなで首を傾げる。


「本当にだるまだ……何で?」


 だるまは選挙事務所とかのアレと違ってしっかり両目を入れられている。もしかして相談妖怪がやってきてここに置いていったとか?それにしてはその持ち主の妖怪の姿がどこにも見えないのだけれど。

 この場にいる全員がこの謎を解く為に何処かにヒントがないか真剣に見つめる。そこで私はこのだるまに生じたある変化に気がついた。


「あれ?何か更に赤くなったような……?」


 だるまは元々赤いものだけれど、何だかその赤みが増したような気がしたのだ。まるでそれはじっと見つめられて恥ずかしがっているみたいな……って、まさかね。私の言葉に残りの2人もそれを確認しようと更にだるまに注目する。

 あんまり熱心に見つめてしまったからだろうか、置物のはずのこのだるまに何やら不可思議な変化が訪れる。


「あんまり見つめるな!恥ずかしいではないか!」


「だ、だるまが喋ったァァァァ!」


 そう、突然だるまが喋ったのだ。このだるまの言葉に私は腰を抜かさんばかりに驚いてしまった。喋るだるまって事はつまり……このだるま自体が妖怪って事だよね?物の妖怪って確か付喪神って言うんだったかな?

 この珍しいお客さんの登場に私達はしばらくどう対処していいか分からず、ただ困惑するばかりだった。 


「もしかして……お前も何か相談に来たのか?」


「うむ。その通りである。儂の話を聞くのだ、わっぱ共」


「わ、わっぱ……?」


 このだるま、かなり偉そうだよ。言葉遣いもどこか時代劇っぽい。付喪神って年月を経たものに魂が宿るものだから、作られてかなり経つものなのかも。

 見た目はつやつやしていて完成したばかりのようにも見えるけど、もしかしたら付喪神になった事でその姿を会得したのかな。


「何だかかなり時代がかってるな……で、どこから現れたんだよ、驚かせやがって」


 上から目線では負けていないキリトがこの付喪神に対してタメ口を聞く。当然のようにこの態度にだるまが怒らない訳がなかった。


「無礼な!まずは儂の話を聞くのが先であろうが!」


 怒っただるまは実力行使に出る。見た目は手も足もない置物ではあるけれど、何か超能力的な力を持っているらしい。ジロリと強く睨みつける事で突然彼は痛みを訴え始めた。


「う、うわああっ!あた、頭がっ!」


「ちょ、どうしたのキリト!」


「こいつだ、こいつが何かの力で……」


 痛がるキリトは頭を抑えながらだるまを指差した。相当激しい痛みを彼は感じているのだろう。まともに立てないばかりかついにはしゃがみ込み、そうしてすぐに床に倒れ込んだ。横で見ていてもその痛みが伝わるようで、最初こそいい気味だと思って見ていたものの、段々彼が気の毒に思えてくる。


「だるまさん!話を聞きますからどうかキリトさんを……」


「ふむ、雨降らしがそう言うならば……」


 鈴ちゃんの必死の説得でだるまの攻撃は止まったみたい。やっぱりこう言う時は同じ妖怪同士の方が話が通じやすいんだね。何にせよこれで一安心だよ。

 命拾いしたキリトは、まだ少し痛むのか頭を押さえながらよろよろと立ち上がる。


「鈴、有難う」


「いえ、それより大丈夫ですか?」


「まぁ何とかな。じゃあ、用件を聞かせてくれ」


 さっきの仕打ちでまだ学んでいないのか、彼の上から目線は変わっていなかった。

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