第70話 大カラスの事情 その5
懸命に必死に付いて行ったのに成果が何もなかっただなんて……そんなのってないよ。この結果に2人して落胆して肩を落としていると、気の抜けた私達をフォローしようとしているのか、カラスもまた申し訳なさそうに言葉をかける。
「試すような事をして本当に済まない。だがここまで来れたお前達ならきっとこの先の試練も乗り越えていけるだろう」
「じゃあさ、せめて次のお宝の在り処を教えてよ!」
「残念ながら、そう言うのは知らないんだ」
カラスの誠意を確かめようと私が狙った作戦はこうして見事に失敗する。
しかし補巻はなくすは、かと言って次のお宝の情報も知らないわって……このカラス、ただ大きいってだけで本当に使えない……。
「嘘でしょ?ここまで来てまさかの骨折り損のくたびれ儲け?」
「運命の流れは必ずお前達に味方する。お宝はやがて全てお前達の元に集まるはずだ」
私の追求を受けたカラスは何を思ったのか急に私達を持ち上げ始めた。何これ?ちょっと気持ち悪いぞ。
「何故そう断言出来る?」
「俺は先代から聞いた。お宝を集める者、集め始めればやがて全てが揃う定めにあると。だからこそ、それが正しい者か見極めなければならないと」
おおっと、何だか急にカラスが偉そうな事を言い始めたぞ。実際、このカラスって同族の中では相当偉いのかも知れないけど。
でも……そっか、私達はカラスに試される存在だったのか。うーん、何だか複雑な感じ……。
「もし私達が正しくなかったとしたら?」
「その時は集めたお宝を全て没収してまた別の場所に隠していた。今度は絶対に見つからないような場所に」
カラスはある意味盗みの天才だ。ゲットしたお宝は一応金庫にしまってはあるけれど、妖力を持ったカラスならそんな金庫でも無意味なのかも知れない。
この試練に合格したと言う事は、少なくともこのカラスからの妨害は今後もないって事だよね。今日の努力の成果は、まぁ、それで良しとするか。
「私達、認められて良かったね」
「当然だろ、俺が間違えるはずがない」
「……」
自信満々過ぎるキリトの俺様発言を前に私は二の句が告げられなかった。ま、彼はそう言う性格だから今更ね。さてと、これで一応一件落着っぽい雰囲気だけど、最後に大きな問題がひとつ残っていたわ。
「でもどうしよう?帰り道が分からないんだけど?」
「そこは安心してくれ。俺が責任を持ってお前達を学校まで返す」
この帰り道が分からない問題、どうやらカラスがフォローしてくれるらしい。まぁここに導いたのはこのカラスなんだし、ある意味当然ちゃ当然なんだけど。
「えっ?道案内をしてくれるの?」
「いや、つまりこう言う事だ」
カラスはそう言うといきなりその大きな羽を広げ羽ばたき始めた。この突然の行為に私たちは動揺する。迂闊に動けないとお互いに身を固めていると、そうして発生した風は妖力も含んでいるのか私達を簡単に吹き飛ばしてしまう。
「ちょ、何っ?」
「うおっ!」
吹き飛ばされた私達はそのままその先にいきなり発生した空中に出来た穴に放り込まれ――気が付くと部室に戻っていた。
「あれ?お帰り……なさい?」
「鈴ちゃん?え?部室?」
目の前の景色がいきなり部室に変わった私は困惑する。この光景を目の当たりにした鈴ちゃんもそれはまた同様だった。2人が呆然とする中でただひとり、キリトだけはこの状況に対して何かを察していた。
「空間転移か……」
「え?私達瞬間移動しちゃったって事?」
「あのカラス、只者じゃないな」
キリト説に従えば、あのカラスが発生した風と突然空中に浮かんだ穴を通して私達はこの部室に強制送還されたらしい。空間を歪める力を持つカラスとか考えてみればちょっと怖いかも……。
もしカラスが意地悪で私達の知らない世界の果てみたいな場所に飛ばそうと思ったら簡単にそれが出来るって事だもの。
思わず怖い想像をしてしまった私が震えていると、鈴ちゃんが目を輝かせながら私の顔を覗き込んで来た。
「それで、収穫はありましたか?」
「それがね~、鈴ちゃん聞いてよ酷いんだよー!」
私はその笑顔を見て溜め込んでいた感情が決壊する。気が付くとさっきまで起こっていた事を私は洗いざらい全て彼女に話してしまっていた。鈴ちゃんはその話を最後まで真剣に聞いてくれて、私達が受けた酷い扱いを自分の事のように同情してくれた。
私はそう感じてくれた事がすごく嬉しくて思わず彼女を強く抱きしめる。鈴ちゃんもしっかり抱き返してくれて、その時感じた暖かさと優しさにもう何もかも許せてしまえるのだった。
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