現れた火の玉
第40話 現れた火の玉 前編
「ふぁ~あ……」
今日も今日とて妖怪達のお悩み相談。最近は噂が噂を読んで毎日平均4体の妖怪の話し相手になっている。4体って表現が正しいのかどうはよく分からないけど。まるで病院のように鈴ちゃんがまず受け付けて私達が話を聞く感じ。いつの間にかルーチンワークになってるよ。
あ~あ、これでお金が取れたならもうちょっとやる気も出るんだろうけど。って言うか商売っ気を出しても仕方ないね。妖怪はお金持ってないしね。
お金を持ってない妖怪達からもらうべき謝礼は本当なら天狗のお宝情報なんだけど、そんな貴重な情報を持っている妖怪とすぐに出会えるはずもなく――私達は悩める妖怪達の相談どころとしていいように使われているのが現状だった。
とは言え、たまに美味しいお菓子をくれたりとかメリットが全然ない訳でもないんだけどね。
そんな感じで今日も下校時間ギリギリまで妖怪の相手をしてしまった。妖怪相談を始めてもう2週間。何だかんだ言ってこの状況に慣れて来た感じがする。ま、言っても話し相手になるだけだもんね。楽っちゃ楽。
気難しい妖怪も今のところ来ないし。どうか今後も厄介な妖怪は来ませんように。
そんな訳で今日4体目の妖怪の話を聞いて帰ってもらったところで鈴ちゃんが私達に話しかける。
「もう時間ですから今日はここで終わりにしましょうか。お疲れ様です」
「鈴ちゃんもお疲れ~」
鈴ちゃんに部室の留守番を頼んで私達は部室を出る事にする。夏も近いのでまだまだ空は明るい。私は途中までキリトと一緒に帰りながら今日の部活について彼と他愛もない話をしながら帰っていた。
「いやぁ、今日も相談を受けに受けたねぇ~」
「しかし唐傘の恋愛相談とか、よく話を合わせられるな」
「そこはほら、ノリと勢いだよ」
キリトは今日の相談内容について私に話しかける。そう、今日最後の相談は妖怪の恋愛相談だった。しかも唐傘。あの有名な傘のおばけだよ。
絵本とかではお馴染みの妖怪だけど、まさかこの目で見る事になるとは思わなかったよ。唐傘って傘の付喪神だから結構な数がいるみたいなんだよね。
それでその中の一本の古い唐傘が最近のビニール傘の唐傘……?って言っていいのかな?とにかくその傘の妖怪に一目惚れしたって話。ま、恋愛相談なら人も妖怪もそんなに変わらないからね。人間の恋愛相談と同じ感じでアドバイスしたって訳。
「唐傘に同情するわ」
「んまっ!失礼な」
キリトは呆れていたけど、私の話を唐傘もウンウンと関心したようににうなずいていたから役には立てたと思う。恋愛相談をするとか、人も妖怪も悩みってあんまり変わらないものなのかもね。
妖怪相談やり始めてから彼らの事を以前より理解出来て来たような気がするよ。
で、話している内に別れ道に差し掛かったのでここでキリトとはお別れ。今日は珍しく彼の方から声をかけて来た。
「んじゃ、またな」
「またー」
キリトと別れてしばらくして、脳裏にふとある不安が思い浮かんだ私は思わず独り言のようにそれを口に出していた。
「しっかし、あんまり妖怪の相談ばかり受けてたらその内学校で噂になりそ……」
そんな噂が立ちませんようにと心の中で願いながら私は家路を急ぐのだった。
次の日、休み時間に脱力していると噂好きのしほが私の前までやって来て、頼んでもいないのにわざわざ今学校で流れている噂について話し始めた。
「ねぇ知ってる?西校舎三階の空き教室の噂……」
「ひょえっ?な、何?」
この噂を聞いた私は飛び上がるほど驚いてしまった。何故なら西校舎三階の空き教室って、それ多分私達の部室だよ。古文書研究同好会、まだ全然知られていないんだ。って言うか教室自体の事は噂になるのにその教室を私達が部室に使っているって言うのは知られていないって――不思議。
しほは私が驚いているのにお構いなしに興奮気味に大袈裟なジェスチャーをしながら話を続ける。
「何でもそこで謎の不思議現象が目撃察されているらしいよ」
「そ、そうなんだ……それは怖いね」
私はうまく話を合わせつつ、話がそれ以上エスカレートしないように様子を伺っていた。もしここで一緒にその教室に行ってみようなんて展開になったらちょっと困ってしまうと思ったからだ。
彼女はこの噂についてこっちが聞くまでもなく自分から進んで話してくれた。
「私も2組の友美から聞いた話なんで信憑性は薄いと思うけど、ほら、あの子結構アレだから……」
「へ、へぇ~」
「とにかく、あの教室には近付かない方がいいよ!」
彼女は真剣な顔をして私に忠告する。正直、話の流れがこう言う展開になって私はほっと胸を撫で下ろしていた。広まっている噂、みんな部室に近付かない方向の流れになってくれているといいな。
そう言う訳で私は苦笑いを浮かべながらしほの話に同調する。
「う、うん、そうするよ……」
「あ、それでね?話は変わるんだけど……」
女子の話の自由っぷりは同性の私も認める程で、怖い噂の後はまた全然違う話題で盛り上がっていた。彼女とはいつも軽い付き合い程度で話を合わすんだけど、さっきの噂がぶり返されないように今日の私は必死でしほの話の食いついていた。
幸いな事にそれ以降部室の話は出る事もなく、話したい事を話すだけ話して気が済んだ彼女は私から離れていった。
きっと彼女は別の人にも同じ話をするんだろう。追いかけていってどう言う話をするのか調べたくもなったけど、それは余計なお世話だろうし、きっと私に話したような結論になるだろうから私はその事についてはもう考えるのを止め、通常通り机に突っ伏して寝る事にした。
放課後、部室に入った私はすでに机について天狗文書を広げていたキリトに話しかける。
「もう噂が広まっていたよ」
「女子は本当噂好きだな」
彼は私の報告にあまり関心がないようだった。うーん、危機感がないなぁ。この噂、まだ女子の間にしか広まっていないんだろうか?
ちょっとそこが気になった私は話のついでにキリトに聞いてみる事にした。
「男子側はどうなの?大丈夫っぽい?」
「俺、あんま友達いないから」
「あ……そか」
この彼の返答に私は納得する。これちょっと聞いちゃいけない質問だったかなと反省すらした。この私の反応を天狗文書から顔を上げてこちらを見ていたキリトは不満げな顔をして口を開く。
「そこで納得するなよ」
「あの……姿が見られない内は大丈夫だと思います」
私達の会話を聞いていた鈴ちゃんがフォローするように話に割り込んで来た。そうだよね、だって妖怪の目撃例は噂からは辿れなかったし。それどころかその噂の教室で私達が部活をしている事も誰も知らないっぽかったし。うん、大丈夫大丈夫。
鈴ちゃんのその優しい気遣いに感動した私は彼女に声をかける。
「うん、分かってる。大丈夫だよ」
「妖怪はこの部屋で視覚化されるけど外に出れば見えない存在だし、恐ろしい噂は逆に人を遠ざけていい効果かも知れない」
鈴ちゃんとのやり取りを聞いてポツリとキリトがそう言った。確かに噂は今のところこの部室から人を遠ざける効果の方が大きそうだ。
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