第19話 化け狸が現れた 後編

「私達、お宝を集めないと大変な事になっちゃうのよ」


 この私の言葉を受けて、イチはその場でうんうんと頷いてつぶやくように話しはじめる。


「あの噂は本当だったんだべなぁ。天狗様の力を使う童子らが力に飲まれないようにお宝を探しとるっちゅー」


 私達の事が具体的に知られ過ぎている!このイチの口から出た言葉に私は戦慄してしまった。ここまで来たらその情報源について聞かずにはいられない。


「誰がそんな話を?」


「友達のコン太郎じゃよ。あいつは人間の噂に詳しいんじゃ」


 イチの話に出て来たコン太郎と言う名前を聞いて思うところがあった私は、思わず隣りにいるキリトに話しかける。


「名前からして、狐かな?」


「狐だな」


 キリトも私と同じ意見だったようで安心した。何だか昔話みたいな展開だなぁ。謎が解けた所で私は話を戻して天狗のお宝についての情報をイチに聞いてみる事にした。


「それでどうなの?」


「知っとるよ。見た事はないが」


 見た事はなくて情報だけ、そのイチの話を聞いて私はある考えが思い浮かんだ。そしてまたそれをキリトに耳打ちする。


「これもコン太郎情報なのかな?」


「かもな」


 噂を聞いてわざわざ人間に化けてまで頼みに来たと言う事は、きっとすごく事態は逼迫しているはず。私は目の前のこの困り顔の狸を、どうしても何もしないまま追い返す気にはなれなかった。

 まずは話を聞いて、自分達に出来そうな事なら助けてあげたい。その為の見返りが天狗のお宝情報なら、キリトだってきっと動いてくれるのではと私は思った。


 一向に話が進まない事に対して、イチは私達に向けて手を合わせて必死に懇願する。


「なぁ、助けておくれよ。知ってる事はみんな話すから。お願いじゃ」


「どうする?」


「俺に聞くなよ」


 どうもキリトは最初に酷い態度を取った手前、安いプライドが邪魔をしてイチの話を聞くと言う一言が中々言えないみたいだった。まるで自分に決定権がないと言う風な態度だったので、それならばと私が動く事にする。


「じゃあ、私が決めていいのね」


「お、おう……」


 そう言う流れで、うまい具合に了承を得る事が出来た私は早速この何か問題を抱えている狸の話を聞く事にした。私はイチの側に歩み寄ると、まずはしゃがみ込んで同じ目線で出来るだけ優しく彼に接した。


「じゃあイチ、話を聞かせて」


「助けてくれるだか!恩に着るぞ!」


 私の言葉を聞いてイチは表情が一気に明るくなった。よっぽど嬉しかったのか、私の腕をとってブンブンと激しく振リ始める。興奮するのはいいんだけど、話を聞くと言う段階でもう自分の願いが叶ったみたいな態度を取られてもこっちとしてはちょっと困ってしまう。なのですぐに彼に釘を差した。


「早とちりしないで、話を聞いてからよ。私達に出来そうな事なら協力する、それでいい?」


 こう言うのは最初にキチンと言った方がいい。後でトラブルにならないためにもね。


「ああ、分かっただ」


 イチは私の言葉を受けて何度も頷いて、しっかり条件を受け入れてくれたみたいだった。それから何度か深呼吸をして話の本題へと入っていった。


「それじゃあ、今から話すだよ……」


 狸のイチが話す言葉を私達は固唾を呑んで見守っていた。この時、一緒に部室にいたキリトも鈴ちゃんも目が真剣になっている。

 どうかこれから話すイチの相談内容が私達でも何となかるような、手に負えるような、そんな難しくない案件でありますように。

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