【第3部】コウカイ編:カーテンコール
BAD END04:生贄の孤児
目の前に横たわるのは、さっきまで隣に並び立っていた人物。
状況がつかめずに、自分でも無意識のうちに一歩踏み出すと、足下で、ちゃぴ、と水たまりの水が跳ねた。
踏み出した足に付着したのは、嘘みたいに鮮やかな赤。
この人の、血だまり。
いよいよ混乱して、その血だまりの中でしゃがみ込むと、慌てて顔の前に手をかざす。
よかった、息はある。
けれども、どうなのか。
足下に広がる血は、倒れた人物のみならず自分の服をも深紅に染め上げていて、言わずもがな当人の白い服は
対照的に、顔面は蒼白で血の気がない。
これが助かる怪我かどうか、なんてこと。情けないことに、これっぽっちも分かりはしなかった。
冷静にならなくちゃいけないのに。
見極められなくちゃいけないのに。
意識が遠のきそうになりながら、自分たちの見てくれと同じようにぐちゃぐちゃになった思考を持て余していると。
よかった、意識もある。
ぼんやりとした様子でこちらの姿を確認すると。
あいつは、こっちを案ずる言葉を吐き、そっと微笑んだ。
人のことより自分の心配をして欲しい。
だけど。そう言われるということは、もしかすると。
怪我人の相手より、よっぽど自分のほうが酷い有様なのかもしれなかった。
その眼差しに、その言葉に、どうしようもなく胸が締め付けられる。
怪我をしたのは、向こうのはずなのに。
とんでもなく、苦しい。
息が、上手くできない。
厄介な、ことに。
目の前の出来事にパニックになっている自分と。
どこか遠い場所から
やめて欲しい。
本当に、やめて頂きたい。
必死で封じ込めようとしてはみたけれども、無理だった。
こんな状況だというのに。
いや、こんな状況だから、こそ。
もう、誤魔化すのは、本当に無理だった。
確かに。最初に自分を無視しようとしたのは自分だ。
けれども。
だからって、いくらなんでも。
こんな時に、自覚させてくれなくたっていいじゃないか。
どうしようもなく。
どうしようもなく、君のことが、好きだった。
だけど、それなら。
なおさら、余計に。
考える前に、体が動く。
何も言わず、ただ私は君の手を強く握りしめた。
大丈夫。
大丈夫だから。
絶対に、助ける。
心の中でそう呟いてから手を離すと、静かに口を開いた。
すると君は、ひどく驚いたような顔をして。こちらに手を伸ばし、まるでそれを止めようとするかのような仕草をしてみせた。
何故だろう。
前にも、こんなことがあったような気がする。
けれども、止めない。止めるわけにはいかない。
もしかしたら、自分は早まったのかもしれない。
確かに傷は酷い。だけど意識ははっきりしていたし、すぐ病院に行けば治る可能性はあった。
けれども。
そこまで待って、万が一だめだったら、なんて。
結果が出るまで、待たなければならないなんて。
自分には、無理だった。
自分の目の前で、誰かが死ぬなんてこと。
もう、二度とごめんだったんだ。
それに、今すぐこの苦しみから解き放って、またさっきのように君が笑ってくれるのだったら。
それこそ、取るに足らないことじゃあないか。
あんたが赤く染まっているのは、許さない。
だから、自分が。
青く、染めかえてやるよ。
どうか君が、また心から笑えるように。
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