序章

プロデューサー

 広々とした廊下。その先に続くは教室と講堂。

 それらを覆う、傷一つない白い壁。

 清楚な空間を彩るかのように飾ってある彫刻や芸術品。

 綺麗に磨かれた木の床。

 完璧に管理された空調。

 これまで通ってきた学校とは思えないその高貴さに、天波つばさは眩暈がした。


 今日から、こんなところで授業を受けるのか…?

 特待生が優遇されているというのは周知の事実だし、私も知ってはいたけれど、それにしたってこれは異様なほどじゃないか…?

 いるべき世界を間違えている気がする、今すぐ回れ右して一般生と同じ教室に戻ろうか――そう思ってしまうくらいには、私にこの空気は似合わないものらしい。


 特待生に選ばれたことはもちろんうれしい。それはつまり、学院が私の能力を認めてくれたということであり、プロデューサーとしての将来を約束されたということなのだから。

 一年前、君色学院に入学したての私じゃ考えられないことだ。色んな人からいろんなことを教わってここまで来れた。元々裁縫や料理などは得意だったが、プロデュースに関しては完全に素人だった。たった一年でよくここまでこれたものだと我ながら驚いている。

 特にコミュニケーション能力は以前とは比べ物にならない。

 前は人と話すのが苦手で、家族と、あとは親しい友人数人としかまともに話そうとしなかったのだ。


 まあプロデュースといっても、やってることはマネージャーに近いんだけど。

 衣装づくり、衣装原案、イベント企画、スケジュール管理、依頼の整理、グッズ販売、グッズ原案…基本的に何でもやらされる。

 まあそのおかげで、プロデューサーとしてもマネージャーとしても十分通用する力はついているのだけれど。

 君色学院様様、だ。


 でもなあ……と、私は溜息を吐く。

 この空間の清廉さに疲れたわけじゃない。

 もちろんそれもないとはいいきれないが、主な原因は他にある。


 これからの仕事の量を思うと、自然とそうなってしまうのだ。

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