止まっていた時間 0

ハバネロ討伐隊で指定された真っ白いレザーコートがドームを旋回する風にゆられている。


そして、俺の視界には茶色い地面と同じく茶色い壁がでかでかと映っていた。


「おぉ、あんちぁんがインパクターさんか。こんな場所で一戦交えてもらえるなんて光栄だな」


天井が筒抜けのドームというよりコロシアムのような戦闘上のど真ん中に仁王立ちで腕くみする男がかすれた声を振り絞る。


「まぁな。先輩でも何でも気にせずにたおさせてもらいますよ」


俺は背中の剣を汗ばんだ右手で何度も握りなおしながら木剣の質感を楽しんでいた。というより、この動作がどうやら癖になってしまったらしい。

俺はコロシアムの真ん中までくると俺の身長よりも20センチは高いであろう男がのぶしづらを笑顔へと変え背後から吹いているのであろうかぜをすべて受け止めていることに気が付く。


[準備はよろしいでしょうか?]


気が付けば男の了承によりカウントダウンが始まった。


5.4.3.2.・・・


お互いにカウントダウンが0を迎えた瞬間に地面をけった。


気が付けば俺と男の剣が木剣のくせに火花を散らしてぶつかり合っている。

俺の視線20センチメートルのところで停止した互いの剣はみしみしと不快な音を上げている。


「ほぉ、あんちゃん。なかなか強いな」

「なめてもらっちゃ困るぜ。俺の力はこんなもんじゃない!」


俺は最後の一言に力をこめると一気に背後に飛びのいた。

軽々着地と同時に剣をいつもの構えへと持っていく。

そして、一瞬のすきも作らずに地面をけった。


「うりゃァ!」


そして打ち込む刹那の一撃。


剣で受けながらも多少後方に押し込まれた男は全身に受けたダメージを感じるかのように額に汗が浮かんでいる。

俺はそのすきを一切見逃すこともなく、がら空きになった胸元に剣を押しさした。

視線を移せば両手を上げて喜ぶフィルと嬉しそうに手を振るパルム。そして、俺のことをさわやかな笑顔で見つめるイブがいる。


俺は沸き起こる歓声に両手を大きく振るとゆっくりと淡い光に包まれて転送されていく男を見ていた。


[勝者、ブレッド!]


気合の入った声がさらに観客の気持ちを高めていく。

俺はもう一度手を振りなおすと入口とは反対方向にある出口をくぐった。


「ブレッド様」


少し歩いたところで暗闇から声をかけられる。

目を凝らしてみればバックで髪をしっかりと止めた女性、メイドが立っていた。


「何だ?」


俺はピタッと足を止めた。


「このあとブレッド様には一人で行ってもらいたい依頼があるのでハバネロ谷中央にある洞窟に行っていただきます」

「それは一体どういうことだ?」


純粋な疑問をぶつけられて心なしかメイドからため息が聞こえたような気がする。


「この依頼は団長からの依頼です」


ん?今、彼女は団長といったか。この団って団長がいたのか、などと今更ながら当たり前のことに気が付いた俺は一瞬団長とあってみたくなる気持ちを抑え背中に木剣を収めた。


「それじゃ、仕方ないな。イブたちに伝えてくるよ」


進み始めた俺の肩をメイドは軽くつかむ。


「お待ちください。団長の命令ではだれにも言うなとのことです」


なるほど、つまり、何かしら言えない事情でもあるのだろう。ならば仕方ないと自分なりに解釈して俺はコロシアムを後にした。

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