暗黒の宝玉
「おい、ブレッド。早く起きろォ、イブが朝ご飯作ってくれたぞォ」
俺は二回のベッドから跳ね起きた。神都ヴォーストの宿屋はなかなか大したもので床のカーペットはふわふわ、壁紙は淡いオレンジ色をしていて目が非常に休まる特殊効果付きだ。
しっとりと冷たい木材の感覚が、らせん階段を一歩降りるたびに伝わってくる。俺は一つあくびをしながら残りの5段を一気に飛び降りた。
「走れェ」
相変わらずナイフを振り回すフィル。
「もう、そのナイフやめてよねフィルさん」
イブはいやそうな顔でナイフをはじいた。そして、
「無駄無駄、フィルに何言ってもその癖はなおらないよ」
あっさりフィルの顔をゆがめたパルムは僕に笑顔を向けた。
うん、相変わらず平和だ。
・・・
「それでよォ、今日は砦を攻略するんだろォ」
そう、今日はヴォーストの近くに築かれた別称「黒城」を制覇しに行く。2つ目の宝玉はほぼ間違いなくそこにあるはずだ。
「一体どんなボスがいんだァ」
「それは、ゴーレムよ」
そういえばなんかそんなようなこと言っていたような気がするな。
そして俺たちは部屋を後にした。
・・・
眼前にいる2メートルはこえているであろう背丈のゴーレムは暗闇を照らし出す炎に焼かれていく。
「てりゃ!」
ソプラノな発声とゴーレムの堅い体を両断する音が耳に飛び込んできた。そして、イブは俺のほうをちらりと見ると倒れるようにして道を作る。
そこに俺は突っ込んでいき固い石の体に剣を突き刺した。
膨大な文字を全身に焼き付けたゴーレムはからだじゅうから光を発すると無残に砕け散り黒煙へと変化した。
ここは、黒城の7階、奇妙な異彩を放った大扉の前だ。今、やっと最後だと思われるゴーレムをたおしたところなわけだが・・・
「おいおい、ここまでのゴーレムかなり巨大だったよなァ。まさかとは思うが、この中にいるボスゴーレムってとてつもなくでけぇんじゃねぇかァ」
そう、これである。ゴーレムといえば確かに大きいものを予想するがまさかこれほどまでに大きいとは俺も思っていなかった。実際、ゴブリンのボスだってあれだけ巨大だったのだから、元が大きいゴーレムはどれだけのサイズなのか見当もつかない。
「実際に挑んだ奴はイブの時間帯にもいないんだろ」
するとイブは小さな声で「ま・まぁね」とつぶやいた。なるほど、こいつは本来まだまだ殺されることがなかったのか。いや、待てよ。
そもそも俺がいた時代までハバネロが倒されていないということは実際宝玉集めに成功したものはいないということだろうか?だとしたらもう「詰んだ」の一言でしか現状を表すことはできなくなるだろう。
「それでも、今は行くしかないでしょ。いざという時はブレッドが必殺技を使えばいいんだよ」
「そうだなァ。いざという時はブレッドにまかせよう」
えっ、任せられても困るんだが・・それに
「お前らいきなり人任せかよ!ちゃんと協力してくれじゃなきゃ・・・」
俺、マジで死ぬ。俺は小刻みにからだを震わせた。
「安心してよね。まさかそんなことするわけないでしょ。君が一人じゃ何もできないことくらいもう、みんなわかってるわよ」
それを随分決まった表情で言っているイブ。しかし、その言葉って遠回りに俺のことを使えないとか言ってるんじゃないよね。ネ。
うん、大丈夫だ。俺の知っている彼女はそんなこと言うやつじゃない。信じろ、俺!
「俺、信じるんだ!」
冷たい視線が3つ飛んでくることに気が付いた。とりあえず咳ばらいを入れておく。
あと、数分後には全員死んでしまうかもしれない。そんなことはわかっている。だからこそした、ばかばかしい会話は自分のこころを押しつぶし潰してしまいそうなほど巨大な緊張を吹き飛ばしてくれた。
生きていて一番充実した瞬間。仲間が一つになる瞬間というものが命を懸けた時だ、ということは多少残念なことなのかもしれない。
「行くぞ」
俺は頭の中に浮かんだ無数の不安を無視し扉を押した。
扉を開けた途端吹き込んでくる突風に数歩後ずさった。
・・・・
次の瞬間耳に飛び込んできたのは「ゴォゴォ」といったまるで石がこすれるような音。そして、その姿が初めて視界に入ってきた。
軽く20メートルはあろう石の体。 真っ赤に輝く両目に極太の両手にはそれぞれ大きな盾を装着している。
「おいおい、なんなんだよあいつはァ」
フィルが今までに初めて驚愕の表情を浮かべている。しかし、悲しいことに俺たちに勝てる相手にはとても思うことはできなかった。
「きたわよ!」
刹那、俺たちの遥か頭上に大きな拳が振り上げられていた。震える足を何とか抑え、俺は右手で剣を抜いた。
そして発動させる魂法剣技。
「おりゃ!」
俺の剣とフィルの盾は突風をあたりに振りまきながらなんとかゴーレムの一撃を抑え込んだ。
飛び散る火花に震える手首。
悲鳴を上げる筋肉が全身をしびれさせていく。
「下がれェ」
一撃を抑えたフィルの震えた声。
俺は拳を抑えていた剣を一瞬下におろし背後に大きく飛んだ。
気が付けば背後には無数の炎の塊が浮遊しているではないか。
「いっけ!」
パルムの掛け声とともに解き放たれたそれらはゴーレムの振り下ろされた右手に手にぶつかっていき猛烈な音を上げ腕を砕いた。
「やった」
フィルはそれを予想していたかのように弓を構えるとゴーレムの顔面めがけて打ち込んだ。
すさまじい爆風とともに飛んでいったそれはゴーレムの真っ赤な目玉に見事にぶち刺さる。
「うごォぁ」
わけのわからない音声を発しながら苦しむゴーレムは残った右手を天井近くまで振り上げると全身を震えだたせる轟音を出してフィルめがけて振り下ろした。
反射的に背後に飛び移るフィル。そして再び無数の炎がゴーレムの手を砕き散った。
「ウォォォ」
ゴーレムの雄たけびが高い天井に響く。
俺たちは声に圧倒され何もできずにいた。
すると、次の瞬間バラバラに砕けて地面に落ちていた無数の石が元の腕、そして眼球へと戻っていっているではないか。
「ねぇ、嘘でしょ、いったいどうなってるのよ」
動揺するイブ。しかし、俺に至っては言葉も出ない状況にいた。
「なぁ、何とかなんねぇのかァ、ブレッドよォ」
必死に訴えてくるフィルの声がする。
「そうだよ、ブレッド、なにかいいアイデアないの?」
いやいや、そんなこと俺に聞かないでくれ。というかこういうのイブのほうが得意そうじゃないか。
俺が言い訳を並べてるとき、眼前ではパルムが打った無数の魂法がゴーレムの体を弾き飛ばした。
しかし、みるみるうちに破片が結合していき元の姿へと戻っていく。
一体どうなっているんだ?
考えろ俺。
整理しろ。
そうだ、ゴーレムはなぜ元の体そのままに戻っていくんだ?なにか理由があるのか?。
というか理由なしにそんな事態が発生するわけがない。ならば一体どうやって・・・。
まてよ、元どおりに戻っていくということはその記憶をため込んでいるところがあるということだろか?。
そうだ、そうに違いない!。
ならば一体その記憶をため込むものとは何だ?いや、そんなものは何でもいい。答えは簡単。
「数打てばきっと当たるだろう」
「えっ?、ブレッドなに?」
上空でゴーレムの顔を粉へと変えたイブが俺に助けをもとめている。
そうだよ、いつも俺はこいつらに助けられてきた。だからこそ、恩返しをしなきゃいけなんじゃないか。
「奴には体のどこかに何かが埋め込まれているはずだそうじゃなきゃあんな回復力ありえない」
「おいおい、どこかに何かってェ、わからない情報多すぎだろォ」
するどいフィルの突っ込みを無視してさらに俺は地面をけった。
「つまり、その何かを破壊すればいいわけだよね」
パルムの言葉と同時バルムから出されたビームが俺の体に巻き付いた。
そして、魂法剣技を浮かべる。
浮かべた波はいつもよりもはるかに濃い緑をしていてはるかに細かな振動を響かせている。そう、俺の唯一使える必殺技。
名前がないのが残念だよな~。
そんなことはどうでもいいと俺は頭を振った。気が付けば隣で並走するイブがいる。
「俺が奴の体を粉砕するから飛んできた肉片を粉に変えてくれ」
正直意味不明にも聞こえるが戦いなれた相手だとやはり違う。
「了解!」
一言いうイブ。
俺はさらに加速しゴーレムの足元で空中に飛び上がった。
瞬間的に接近してくるゴーレムの拳。
俺はそこに剣を叩きつけた。見事に吹き飛んだ奴の右手。
それを右側でイブが両手を素早く振り一瞬で粉へと変化させる。
俺は次に見えてきた肩に剣を振り落とした。
対角線上で煙を吹いたゴーレム。そんなことお構いなしにフィルの弓とパルムの無数のつららがゴーレムの上半身を軽く吹き飛ばした。空中へとキリ放たれた上半身。
俺はそこに足をつき地面としてさらに加速した。
そして上半身のいたるところに剣を打ち込み真空を利用して粉砕していく。バラバラと落下していく肉片をイブが瞬間的に粉へと変化させる。
しかし、再び粉が結合し始め、空中で集合していった。
もうそんなことしても意味がないというのに・・・。
俺は思わず笑みをこぼす。もう上半身に興味はないあるのは下半身だけだ。
・・・なんか卑猥だな・・・。
より激しい輝きを放ち始めた剣を上段の位置に一気に構えた。
自分の落下と同時、その剣をゴーレムの股の上に叩き落とす。地面と垂直の閃光を残してゴーレムの下半身はまたから真っ二つに分裂する。
そして、俺のどこかにスイッチが入った。地面をえぐって加速した俺は極限までの全力を込めて剣をふるう。
冗談から下段、そして切り上げ、と石の体を砕いていく俺は手に残る感触の一切を無視してたった一つ、最後までチリにならなかった灰色の塊目指して全身の力を込めたつき技を披露した。
少なくとも10メートルは離れているように見えたがそんな距離関係ない!引きしぼって打ち込んだ剣はそこまでの空気を一気に切り裂き「シュパッ!」といい音を立てて塊を粉砕した。
地面に着地と同時、俺は無様に膝をつきゆっくりと倒れていった。冷たい黒色の大理石が俺の頬をひんやりと冷やしていく。
「さすがァ、今回もいいとこどりだなァブレッドォ」
俺の視界がいで何やら笑い声を飛ばすフィル。
「ブレッド、大丈夫?」
心優しい心配をかけるイブ。
さらに俺の視界の前にパルムが暗黒いろの宝玉を置いていた。
「やったなブレッド。これで、僕たちの旅も残すはあと1つのイベントになったね」
「もともとそんなに多くはないだろ」
「そんなことないんじゃないの」
イブは声をはる。
「だって、私たちに会うっていうだけでも、もと「引きこもり」の君にはすごい量の旅になると思うけど」
俺はフィルに担がれながら顔面に苦笑をにじませた。
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