パルム 9

俺は決して鍛錬を積んで強くなったわけではない。俺が強くなった理由は全くの謎ではあるが、ただ一つ言えることは俺は強い。しかし、いったいなぜこんな状態に入りこんだんだ?まず、これは夢なのか?いや、おそらくそれはありえない。なぜなら今、俺は強烈なまでの激痛を感じているからだ。しかし、それじゃあ一体なぜ・・・


「あ!」


思考がうめいた。これは間違いなく幻惑魂法だ。それは俺が信じ込んだことによって発生している。ならば信じなければいいだけの話だ。落ち着け俺!・・・・・・・・。だんだんと右手の感覚がしっかりしてくる。そして手にあたったのは俺の愛剣「ホープセーバー」。

柄が当たる感触が気持ちを落ち着かせていく。俺は右手に精一杯の力を籠め振り下ろす。すると目の前の光景が嘘だったかのように視界が開け、オレンジ色に照らし出す太陽が俺の影を短く作る。そして、長い前髪から瞳を出した。クリアに見えた視界には闇を体にまとわりつけた幽霊が俺に向けて何か巨大な魂法をぶつけようとしている。俺は思わず笑みを漏らすと地面をけった。おそらく高密度の波を発しているであろう魂法剣技はプラズマの塊であるあいつら幽霊をぶち殺すには最適であるはずだ。俺は一切の躊躇を見せることもなく奴の体を突き刺した。


「うぐぁ」


奇妙な言葉を吐いた「幽霊」は人ならざるその眼で俺をにらむ。


「お前に一体何ができるというんだ!死を恐れる人間に!」


一瞬鳥肌が立つのを感じる。しかし、俺はそれらを一気に振り払った。


「そうだ、確かに俺は死を怖がる。でもなァ、

それが弱いだなんてだれが決めたんだ。少なくともお前らみたく人の悲しみをやすやすとすてちまう奴らよりはずっと強い。なぜなら、お前らはただ単に現実から逃げて「死」という未知から自分を近づけようとした。そのためにお前は殺人集団を作り上げたんだ。そんなもんから生み出される学習よりも死を恐れるからこその学習のほうがよっぽど自分のためになるからだ!」


「な、なにを言うか」


俺はその反応を一切待たずに魂法剣技を継続させ、貫いたままの剣を引き抜く。そして連撃を開始した。右下から右上に、右上から左下にと振られていく俺の剣は加速するにつれだんだんと金属音を高くしていき超高音をあたりに響かせていく。一撃一撃雷鳴のごとく速度でリボンを断ち切る俺の剣は最後の連撃までくると強い光を何度も明滅させて「幽霊」の胸元を深く貫いた。


「ふあsdf;あwじぇfぱ!」


あまりに奇妙すぎる咆哮と同時、徐々に光を失っていく「幽霊」の体はどんどんバラバラになっていく。最後には小さな光の粒を無数に残し、空気中に溶けていった。

灼熱の太陽に傷口を焼かれながら俺は木に寄りかかるパルムを担ぐ。

そして、そのままゆっくりと歩いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る