日が沈んだ世界 21
「パパ」
十歳にもならない少女は右手に持った大きなお皿を巨大な王冠をかぶった父に手渡した。
父は笑顔でうなずく。
ここはジエイという町の王城、その王室。
目の前には身長よりもずっと大きな金の椅子と、そこに笑顔で座る父が見えた。
「あら、よくできたわね。私にも食べさせてくれない?」
鈴を転がしたように美しい母の声
。
少女は大きくうなずいた。そして、しゃがんだ母の口に精一杯背伸びをして入れてやる。
口元を抑えて上品に食べる母はもう片方の手で少女の頭を撫でた。
「ありがとうね。あなたがこの国の支えになる日も近いわね」
頭の王冠がステンドグラスから覗く光に反射する。地面まで垂れた緑色の髪を母は揺らしながら立ち上がった。父は金色の髪を開いた窓から出し、何やら町一面を・・・いや、それよりもはるか遠くを見渡している。父が何を見ているのか少女にはわからずついつい、いつも訪ねてしまう。
「何をやってるの?」
と・・・。すると父は決まってこういうのだった。
「イブの未来をだよ。お前がいつか道を進める未来を見ているんだよ」
まるですべてを見透かすようなその口調は少女に一切の疑問を抱かせなかった。どういう意味なのだろうか、それすら考える余地がなかった。それでも少女は思った。いつまでも、パパとママについていこうと・・・・。
それから何年かの時がすぎ、少女は15回目の誕生日を経験した。少女は料理では神童と呼ばれ、勉学では鬼才と呼ばれ、双剣では世界一と呼ばれるほど、立派な成長を遂げた。すべてはこの国を守ってきた母と父のために・・・。
「父上、今日は一体どこにお出かけになるのですか?」
少女の疑問形に対して父はいつものように笑顔を作る。
「今日は隣町のジルト村まで行ってくるよ」
どうしていくのか。そんなこと、尋ねるまでもなかった。ついこの間、人類対モンスターたちの大規模戦争が発生したのだ。すでに数十万の死者を出したその戦争は終わる様子など一切なく、この町、ジエイが協力することになったのだ。
「気をつけてくださいませ、何とか・・・何とか戻ってきてくださいね約束ですよ」
少女にはそれ以上のことを言う権利はなかった。だから、止めることも一緒に行くこともできなかった。できたのは笑顔で見送ることだけ。少女は母と父がそれぞれ馬車に乗り込むのを確認して王城へと足を進めた。二人が自分の元まで帰ってきてくれることを願って・・・。
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