第118話 同時多発スリを捕まえろ! その7

 こちらで倒れていた異世界生物融合体もまた強力な電撃攻撃を受けて完全に意識を失っている。生身でこの攻撃を受けたなら間違いなく即死モノだけど、そこは流石融合体だけあって、気を失う程度のダメージで済んでいた。シュウトはこの状況にユウキの攻撃の威力の凄まじさを実感する。


(電撃でふっとばしてこの威力ってすごい……)


「こっちも回収だ」


 ユーイチはこっちの融合体も今の内にと一撃を加える。分離した異世界生物も気を失ったままだ。人間体の方は警察に任せようと、すぐにこの事をちひろに連絡した。電話をとった彼女はすぐにその意図を汲んで適切に動いてくれる事を約束する。


 回収した異世界生物を専用キャリーに入れて、ユーイチはスリ探しを再開させる。任されたエリアで自分も成果を上げようと躍起になって探索を続けるものの、結局その日の内に追加の成果を得られるような出来事は発生しなかった。パルマ側に情報が伝わって、これ以上損害が広がるのを防ぐために今日はスリ行為をやめてしまったのかも知れない。



 その日の探索の時間も過ぎて、3人はまた朝集まった駅に集合する。ユーイチがユウキ達に合流すると、そこで彼女達から今回の成果について報告を受けた。


「ごめん、見つけはしたしたんだけど……」


「わ、私もです」


 必死に言い訳をする2人からの報告を受けた彼は、ため息をひとつ吐き出して2人の前にキャリーを差し出した。


「それ、コイツラだろ?」


 キャリーの中でしんどそうに横たわる2匹の異世界生物を見たユウキは驚きの声を上げる。


「え?嘘?」


「こいつら、何故か空から飛んできたんだよ」


 顔を見合わす2人にユーイチは事の顛末を詳しく説明する。ふんふんと最後まで興味深くうなずいて聞いていたユウキは腕を組んで考えを巡らせた。


「確かに方角的にはおかしくないかもだけど……」


「考察はまた今度にして、今日はここまでにしよう」


 こうして3人は同時にシンクロを解いた。本来の人格に戻ったところですぐに勇一が話しかける。


「俺、別に行かなくていいんだろ?」


「じゃあ、ここで別れるか」


「お疲れ」


「うん、また明日」


 こうしてまたいつものメンバーでちひろのもとに今日の成果を報告しに向かう。政府のビルに向かいながら、どちらともなく自然に今日の仕事についての話を話し始めた。ユーイチの生真面目な捜索エピソードとかユウキの割と大雑把な仕事への取り組みとか、2人が心の中で見聞きした事を面白おかしく語り合う。


「今日はたまたま運が良かっただけだったのかも」


「運が良くて良かったじゃん」


「それもそっか、あはは」


 シュウトが今回の自分たちの成果について少し自虐的に話すと、由香がそれを含めてまるごと受け入れてくれる。その考え方が嬉しくて2人は笑い合った。

 会話を楽しんでいると目的地まではあっと言う間で、無事にビルまで辿り着いた2人はそのままちひろのいる部署に向かう。


 キャリーの中で横たわる異世界生物を目にしたちひろは目をキラキラと輝かせた。


「やったじゃない!一気に2匹ゲット!」


 喜びに有頂天になる彼女に対して、シュウトは真面目な表情になって今回の件について気になった事をしっかりと報告する。


「やっぱりパルマも道具を使ってきました」


「あんな弱小組織にも浸透してたんだ、これは深刻だね。大丈夫だった?」


「はい、問題ないです」


 無事だと言う言葉を聞いて安心した彼女はニッコリと笑う。それから対応策について何か言葉の欲しい2人が黙ってちひろの顔を見ていると、その空気を察した彼女が安心させるように軽い笑みを浮かべながら彼らが欲しがっている情報を口にする。


「その件についてはこっちも研究してるから。いずれちゃんとサポートするからね」


「分かりました。期待してますね」


 こうして新たな展望にも胸を膨らませつつ、2人は政府のビルを後にした。帰り道での会話のテーマはシュウトからの今回の作戦の反省会から始まる。


「いやぁ、やっぱ単独行動よりみんなで力を合わせた方がいいね、今回は実感したよ」


「敵の動き次第ではあるけど、今回はちょっと無謀だったかも。思いついた時はいい作戦だと思ったんだけどなあ」


 単独行動作戦については由香もまた同じ事を考えていたようでこの反省会はあっけなく短い時間で終わりを告げた。今度からはまた複数で協力して事に当たると言う事で、話題はさっき聞いたちひろの話関連へと移る。

 この話、まずは由香から切り出した。


「政府が研究しているサポートってどう言うんだろうね」


「さあ、銃とか?」


「なら射撃の訓練をしないとだ」


 射撃の訓練と言う言葉を聞いたシュウトは面白がってその話に乗っかった。


「近藤さん、意外と素質がありそう」


「そう見える?」


 素質ありと聞いて彼女の目が輝き始める。すぐに指を鉄砲の形にして楽しそうに撃ち真似を始めた由香にシュウトはそう思った根拠を口にした。


「だってのび太も射撃の天才だし」


「ちょ、それ眼鏡だけで判断してない?」


 からかわれている事に気付いた彼女が頬を膨らませて抗議する。シュウトは何とか笑ってごまかして由香のご機嫌をとった。帰り道の雑談はその後も続き、お互いに笑顔でそれぞれの家に帰ったのだった。


 ひと仕事が終わった後、彼らの頭に中にあるのはもう月末のクリスマス会の事ばかり。この頃はまだ平和な時間が流れていて、これからもずっとそんな日々が続くものと、そうみんな思っていた。

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