第116話 同時多発スリを捕まえろ! その5

「さて、みっちり探してどんどん捕まえちゃうよ~」


(頑張って、応援してる)


 心の中の由香に応援されて彼女は意気揚々と道を歩いていく。ユウキは歩きながら効率の良い探索をしようと心の中に話しかけた。


「で、どの辺りによく出没してるんだっけ?」


(この時間帯なら東の商店街の方かな)


「分かった、行ってみるよ」


 この作戦で一番有利なのは、作戦を立案した本人を有する由香ユウキ組だろう。何故なら、常に一番スリの発生確率の高い場所の確認が取れるのだから。

 彼女は早速由香の言葉の通りに、東の商店街に向かって歩いていった。



 駅前商店街を離れたユーイチは、その商店街から繋がる別の商店街にやってきてパトロールを続けていた。時間も経って人の数は増えてきていたものの、行き交う人々は普通の人ばかりで、特に怪しげな雰囲気も全く感じられない。

 この時点でまだ探し始めて1時間くらいしか経っていなかったものの、ユーイチは手応えが全然感じられない事に少し焦りを感じ始めていた。


「うーん、見当たらないな……」


(もしかしてバラバラで探し始めたのってマズかったんじゃ……)


 パルマが全員バラバラで動いている事を想定してのこの作戦、索敵範囲は広範囲に渡る。これは全員が効率よく動いたなら一気に構成員を一網打尽に出来る方法ではあったものの、下手をすればひとりも捕まえられないリスクも孕んでいた。

 この事に実際に作戦を実行するまで気付けなかった事を、シュウトは心の中で後悔していたのだ。


「今更それを言っても始まらないさ」


 彼の苦悩をユーイチはやんわりと慰める。目視での確認には限界があると感じたシュウトは心の中から話しかけた。


(ねぇ、何か超感覚みたいなので探せないかな)


「近くにいたら雰囲気で感じ取れるけど、そう言う超感覚みたいなものは特にないんだ」


(そうなんだ……もっと最初に話を詰めていたら良かったね)


「こうなった以上はしっかり感じ取れるように注意を払うよ」


 ユーイチはシュウトがこれ以上自分の選択を責めないようにと精一杯自分の仕事に集中する。そうしてスリの気配がないと判断したところで、また別の場所へと移動した。



 3人のスリ探索の中で一番の繁華街エリアの担当となったしまったミヤコは、大勢の人の波に流される形で全く見覚えのない場所に足を踏み入れてしまっていた。


「ふえ~ん、ここどこですかぁ」


(お、俺の体で泣かないで下さいよ~。頼みますよ~)


「そんな事言ったってどこか分からないんだもん」


 普通に歩くだけでも迷いかねない彼女はスリを警戒するあまり、気が付くと横道に入り込んで更に奥へ奥へと迷い込んでしまったのだ。土地勘のないミヤコに対して、心の中の勇一は流石に地元民だったのですぐに的確な現在地の説明をする。


(ここは昔ながらの下町の商店街ですよ。向かう先が違ってます。俺が道順を説明するんで、もう一度元の場所に向かってください)


「分かった。行ってみる」


(トホホ……こりゃ大変だ)


 その後、勇一の的確な道案内でミヤコは何とか無事に元の場所に戻ってスリ探索を再開させる。ただ、少し油断するとすぐに道を外れるものだから、その都度心の中の彼が忠告を飛ばすハメになるのだった。



 目的の東の商店街に辿り着いたユウキは背伸びをして深呼吸をすると、早速仕事を始める。


「さあて、いっちょ探しますか」


 この商店街は人の流れこそそこまで多くなかったものの、行き交う人々はどこか無警戒な人が多く、スリがいたら絶対こう言う場所を選ぶよなと言う、そう言う雰囲気を醸し出していた。

 裏を返せばそれだけ治安のいい場所であると言う事で、現時点ではスリをやらかしそうな人の気配は全く見当たらなかった。


(どう?融合体の気配は感じる?)


「うん、今のところ何の異常もなさそう」


 心配そうな由香の質問にユウキは素直に答える。商店街の雰囲気から考えて、心の中の彼女はこのエリアでの仕事の難しさを予想する。


(そか、これは長丁場になるね)


「でも頑張るよ!私達が一番だって知らしめなくちゃね!」


(だね!ファイト!)


 由香はユウキを勇気付け、彼女もその声援に答えようとスリ探索に精を出した。段々と行き交う人が増えていく中で、ユウキは商店街の隅々まで目を光らせていく。

 ただ、何度も何度も商店街を往復するものの、それでも怪しげな人物は誰ひとりとして見当たらないのだった。



 こうして3人がそれぞれの場所で苦戦を強いられている中、シュウトユーイチ組はついに怪しげな雰囲気を発する人物を発見する。


「む……」


(見つかった?)


「いや、違うようだ」


 その人物は遠目では融合体と見間違えるほどのオーラを纏っていたものの、ある程度近付いたところで普通の人間だと言う事が判明した。鍛えた人間のオーラと融合体のオーラはどこか似通っているため、勘違いする事は珍しくはないらしい。

 それでもよく見ると違いは分かるようで、至近距離まで近付いてその違いに気付かなかったと言う事は今までに一度もなかった。


 シュウトはユーイチですら勘違いする事がある事実から、ある疑問を思い浮かべていた。


(そもそも、この資料を作った人達がどうやってスリの事に気付けたのかって話だよね)


「窃盗の被害とその時点の防犯カメラの映像から判断したんだろう。カメラに犯行の様子が映らなかったとかで」


 質問に対する答えは明白だった。さすがは経験豊かな大人の意見。ありえない事件が起こったら犯人はありえない存在と言う事のようだ。ユーイチの意見に納得したシュウトはその話からある仮説を導き出した。


(連中、常に超スピードで移動してるかも知れないって事?)


「だとしたら風の動きとかで察知出来るのかもな」


(それ、大きなヒントかも!)


 スリ発見の大きなヒントになりうる気付きを経て、ユーイチは更に感覚を研ぎ澄ませた探索を開始する。素早く動く事によって生まれる空気の変化、足音、素早く動く人影、五感を研ぎ澄ませて辺りをパトロールして、融合体スリを見逃すまいと意気込んだ。



 場所は変わって、一番の繁華街を担当しているミヤコサイド。最初の場所にはスリはいなさそうだったので、別の通りの探索を彼女は続けていた。


「うわあ~。ここも人がいっぱいだね」


(確か由香ちゃんの話だと、この場所でもスリが多発しているようだから……)


 ミヤコが結構なポンコツだったので、心の中の勇一が必死にサポートをして彼女をフォローしていく。そうしてその通りを何度か往復していた時だった。

 キョロキョロと辺りを見回していたミヤコの融合体アイが、突然何かを発見する。


「いたよ!」


(嘘、マジ?)


「追いかけるね!」


 そう、やはりスリは人通りの多い場所に現れるようで、彼女は今から仕事をしようとするパルマの構成員をその時偶然発見したのだ。今回はそれぞれ単独行動だったのもあって、誰にも連絡せずにすぐにミヤコは捕獲に向けて動き出す。

 ただし、彼女は気付かれないように捕まえると言う行為が苦手だった。


「へへ、今日も儲けさせてもらうよ~」


「待てぇ~!」


「ゲエーッ!お前まさか!」


 何も考えずに真正面から走って向かってくる彼女を目にしたパルマの構成員は大変驚いたものの、すぐに危険を察知して逃げ出した。こう言う時の危機回避能力の高さはさすがは元ストリートチルドレンだ。

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