第114話 同時多発スリを捕まえろ! その3

 渡された資料によると、今回犯罪行為をやらかしているのはパルマの連中らしい。ヤツらはストリートチルドレンだった頃の特技を生かして今度は各地でスリを働いているとの事。異世界生物融合体特有の超スピードで仕事をやらかすので人間の警察では手に負えないらしい。


「ね?あなた達にしか出来ない仕事でしょ?」


「確かに」


 にっこり笑ってプレゼンするちひろにシュウトはうなずく。ワンテンポ遅れて資料を熟読したいて由香も顔を上げた。


「うん、いいですね。やります」


「うん、そう言ってもらえて良かった、助かる。じゃ、後はよろしくね」


 2人の了承を得たところで、ちひろは注文していたコーヒーをグイッと一気に飲み干して席を立った。そうしてまた早歩きで喫茶店を出て元の職場に戻っていく。

 彼女が店を出たところで落ち着いたシュウトは、自分の分のコーヒーとひとくちチビリと飲み込んで喉を潤すと話を始めた。


「最近ちひろさんマシンガントークしなくなったなぁ」


「やっぱ疲れてんじゃない?」


「大変だね」


 こうしてここでの用事も終わったと言う事で、2人も注文したコーヒーを全て飲み干すと喫茶店を後にする。その帰り道、早速今回の依頼の仕事についてシュウトは由香に話しかけた。


「で、このスリなんだけど……近藤さんに任せて大丈夫かな?」


「今までどれだけこう言うのやってきたと思ってんの?余裕だってば」


「じゃあ、任せた」


「任された!」


 今回の依頼は現行犯逮捕でカタのつくある意味簡単な内容だ。それもあって何となく余裕を持って2人は対処していた。シュウトは由香に何もかも丸投げしたし、彼女の方もそれをまるっと受け入れている。

 こうして話が簡単にまとまったところで、2人はお互いの家に戻ったのだった。


 帰宅したシュウトはいつものようにタイムスケジュールのルーチンワークをこなし、入浴後、ベッドの上にゴロンと横になる。そうして心の中のユーイチとの対話が始まった。


「しかし超スピードでのスリとかよく考えたよなあ」


(これは人間の警察組織では手に負えないな)


「そうだよ。こう言うのが融合体犯罪組織の間で流行らなければいいけど……」


(今後はじっくり目を光らせないといけないな)


 ユーイチが今後の異世界生物絡みの犯罪について、パトロールでもしようかと言いかねない雰囲気になる。流石にそこまではする気力のないシュウトは、何とかその流れを押し止めようと彼の説得を試みた。


「そう言うのは政府の別組織がやってんだろうけどね」


(ラブリのいる部署か……。あの諜報力なら信頼出来るかもな)


「ま、難しい事はそれが出来る人に任せて、今日は寝よっか。おやすみ~」


(ああ、おやすみ)


 また話がぶり返さないようにと、シュウトはすぐに電気を消して布団をかぶった。暗闇の中でお互いに無言になると今日も疲れが溜まっていたのか、いつの間にかシュウトは眠ってしまったのだった。


 そうして次の日の昼休みの図書室で、報告待ちだった勇一にシュウトから今回の依頼に関しての資料を渡される。速攻でそれを読みふけった彼は、資料の文字を追いかけながら勢いよく声を上げた。


「今度はスリかよ!あいつら何でもやるんだな」


「特にこのパルマって言うのは向こうのストリートチルドレンみたいなヤツらだから」


「へぇぇ。ならスリとか得意そうだ。で、作戦は?」


 話が作戦に移って説明は由香にバトンタッチ。彼女は早速自分の考えた作戦を説明しようと話を始めた。


「資料の最後のページを見てくれる?それが今までの被害状況なんだけど」


「あー分かった。また得意の推理で次の犯行場所の予測をしたってやつだろ?」


「そう言う事。3人でパトロールしてたらすぐに見つけられるっしょ」


 勘のいい勇一は由香の話を先読みして、物分りの良さをアピールした。と言う訳で、作戦としては次にパルマがスリをやらかしそうな場所での待ち伏せが提示される。

 この作戦を前に勇一は根本的な情報を頭に入れようと、改めてパルマと言う組織についての質問をする。


「パルマって集団で動いてるんだろ?残り何人だっけ?」


「7人かな。資料にも書いてあるだろ」


「え?そだっけ?」


 シュウトがその質問に答えると勇一は少し困惑していた。どうやら資料の見落としがあったらしい。シュウトはすぐに資料をパラパラとめくると該当箇所を見つけ出し、首をひねる彼にそれを見せた。


「ほら、ここ」


「お、本当だ」


 こうしてパルマの人数に納得したところで、今度は今回の作戦についての根本的な質問を勇一は口にする。


「で、全員が同時にスリしてたらどうする?優先順位とか」


「そこは自分から近いところからでいいでしょ」


「りょーかい」


 由香のアバウトかつ適当なその力強い一言に勇一は思わず納得する。相手がスリなんて言う小物だから特に疑問も挟まなかったのだろう。ただし、それで彼の質問が終わった訳ではなかった。

 勇一は自分にとって一番大事な事を由香に訴える。


「場所はそれでいいとして、時間とかはどうするよ?また授業をサボるんか?」


「いや、資料を見たら分かると思うけど、犯行は休日に多く発生してる。今回も授業はサボらなくてもいいでしょ」


「おっしゃ!やる気出てきた!」


 彼女からの回答を聞いて不安要素が全てなくなった彼は俄然やる気を出していた。その流れで由香も両手をぐっと握って気合を入れる。


「みんなで頑張ろうねっ!」


 こうして全員のモチベーションが上がったところで、彼女は改めて今回の作戦について具体的な話を始める。まずは拡大コピーした地図を広げて、そこからパルマの構成員がスリをやらかす場合の予想犯行範囲円を人数に合わせて3つ大きくぐるっと書いていく。


「今回は相手が全員で動いていると仮定しての広範囲探索になるんだけど……これだと全員単独行動になるかな。みんな行けそう?」


「俺は見分けれられるけど……」


 彼女の問いかけシュウトが答える。異世界生物融合体を見分ける事が出来てこその単独行動だからそこがネックだと彼が言いかけたところで、勇一が別視点から自分の意見を口にした。


「相手は超高速で動くんだろ?だったら最初からシンクロして探す方が良くね?」


「あ、じゃあそうしよっか。みんな自分の中の異世界生物とちゃんと話し合ってね」


 確かに最初から超スピードで動かれていたら、見分けられる能力を持っていても全く意味を成さないだろう。最初からシンクロして入れ替わっていれば融合体の見分けもつくし、その速さにも対応出来る。彼のアイディアに由香もすぐに賛同した。

 話がその流れに傾いたところで、シュウトがポツリとこぼす。


「捜索の段階からシンクロって初めてかなぁ」


「もしかして今後もその方が良かったりする?」


 彼の言葉を聞いた勇一が素朴な疑問を口にした。この言葉にシュウトは顎に手を当てながらしばらく考え、それから自説を披露する。


「いやぁ、やっぱり出来ればギリギリまでシンクロはしない方がいいでしょ。超運動能力って目立つし」


「ま、少なくとも今回の作戦は彼らに任せるしかないけどね」


 基本はギリギリまでシンクロしない方がいいとして、今回の作戦についてはさっきの勇一案が由香によって採用された。これについてはシュウトからも異論は出なかった。

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