新たな仲間

打ち明けたシュウトと新たな出会い

第27話 打ち明けたシュウトと新たな出会い その1

 次の日、約束通り昼休みの図書室に現れたシュウトは待っていた由香に全て話した。こう言う場合、変に誤魔化すよりありのまま全部話した方が、逆に嘘っぽくなって信じられないだろうという戦略だ。そうなって欲しいと願いつつ、彼は全て包み隠さずに正直に彼女に話したのだった。


「……と、言う訳だよ。信じなくていいけど」


「とんでもない事になってたんだね」


 洗いざらい喋って反応を伺っていると、この話を黙って聞いていた由香はシュウトの話を何ひとつ疑わずに全部素直に受け入れていた。この反応には絶対信じないだろうと高をくくっていた彼の方が逆に戸惑ってしまう。


「え?信じるの?」


「信じる信じる。私もこの目で見たもの」


 由香は見たものは信じる派だった。細かい背後関係とかは分からなくても、目にしたものが信じられるなら関係した事柄も信じられる、それが彼女の性格のようだ。シュウトはそこで以前の事件の事を思い出していた。


「あ、そっか、確かおじさんも被害者なんだっけ」


「あの事をおじさんは全然覚えてなかったよ」


 そう、例のチンピラ異世界生物の事件の宿主に由香のおじさんの体が利用されていた。あの後の事を彼は知らなかったけど、彼女の話によればどうやら彼女のおじさんは体を乗っ取られていた間の記憶が全然ないと言う事だった。この話を聞いてユーイチが口を挟んで来る。


(強制同化した相手はその間の記憶を消してしまうからな)


「あ、そうなんだ」


 ユーイチはその心の声に思わず反応してしまった。この場に由香がいるのも忘れて。その為、このやり取りに彼女からのツッコミが返って来た。


「え?何?」


 もう全て話した後だったので、シュウトは普通に由香にユーイチの話した内容を説明する。


「ユーイチの話によると強制同化してしまうとその間は人間側は記憶をなくしてしまうんだって」


「今も陣内くんの中にいるんだ?」


「そうだよ」


 由香は彼の中にいるユーイチに早速興味を持っていた。人の体の中に異生物が宿っているって話を聞いたらそりゃ誰でも興味を持っちゃうよね。

 この彼女の言葉にシュウトも普通に反応していた。


 由香はさっき聞いた彼の言葉を思い出して早速無茶な要求をして来る。


「出られるんだよね?」


「こんな所で見せられる訳ないだろ?」


 彼女はユーイチの本当の姿を見たいらしい。この馬鹿げた要求をシュウトは当然のように却下した。何故ならここは学校だからだ。何も知らない第三者が来るかも知れないこんな危険な場所で彼を見せる訳にはいかない。この彼に言葉に由香は不服そうな顔をして反論する。


「だって今図書室私達しかいないし」


「いつ他の生徒が入ってくるか分かんないだろ」


「そっか……でも変だよ」


 姑の言葉に彼女は一応納得するものの、今度は別の何かが彼女の心に引っかかったようだ。その言葉にシュウトが反応する。


「何が?」


「政府も把握してるならさ、なぜそのゲートを何とか閉じようとしないんだろ?」


 由香の疑問は根本的なものだった。確かに考えてみればそんな危険なゲートはすぐ潰しておいた方がいいに決まっている。この彼女の疑問にすぐに答えられる答えを持っていなかった彼は適当な言葉でそれを誤魔化した。


「そりゃ……多分技術的に難しいんじゃないかな?分かんないけど」


 このシュウトの考えに由香は真っ向から反論する。この話をする時の彼女はその眼鏡の奥の瞳に少し怪しげな輝きを見せていた。


「いや……多分政府は異世界生物を何らかの形で利用しようとしてるんだよ。それで向こうの政府とも利害が一致したんだ」


「はは……まさか」


 彼女のその陰謀論的、中二病的思考からくる推測をシュウトは苦笑いしながらやんわりと否定した。危険が増大し続ける中で政府がこの状況を利用しようだなんて事はありえないと思ったからだ。ただ、由香の話に興味を持った者もいた。


(いや、可能性だけなら有り得る話だ……もしゲート封印の記録が残っているならそれは出来るはず……。こちらの世界で失われていても我らの世界なら)


 そう、ユーイチはこの話が一理あると踏んでいたのだ。彼の意見を聞いてシュウトは頭を悩ませてしまう。


「うーん……」


「私、もっと調べてみるよ!」


 彼が悩んでいると由香は椅子から突然立ち上がりそう宣言した。その突然の行動にシュウトが何も出来ないでいると彼女はそのまま図書室を出て行った。


「あっ!」


(いいのか?シュウト)


 図書室を出て行った彼女を目で追っていたシュウトはユーイチから声をかけられてハッとした。もしかして彼女はゲートを調べる気なのかも知れない!


「良くないよ、もし彼女がゲートに行ったとして下手したら彼女も乗っ取られるかも知れない……。ああっ!詳しく話すんじゃなかった!」


 ただ、今は学校の時間だし由香がすぐに現地に飛ぶとは思えなかった。なので今は彼女に詳しく話したのを後悔するばかりだった。そんな彼に対してユーイチは最悪な事が起こらないように彼にアドバイスをする。


(下校時には彼女から目を離さない事だな)


「彼女の事だからそんな分かりやすい行動は多分しないと思う。例えば一端家に帰ってから向かうとか早朝に向かうとか、何か妨害されないような事を考える気がする……」


 ユーイチの言葉に対してシュウトは自分なりの考えを口にした。それは彼女の性格から分析した推測だった。この言葉を受けて彼は感心する。


(ほう、結構詳しいんだな)


「ばっ、違、そんな気がするだけだって!」


(何故そこで焦る?)


 ユーイチに勘違いされたと誤解したシュウトは変に焦ってしまう。彼の言葉の意図がうまく掴めなかったユーイチはどこかずれた返事をしていた。

 そんなユーイチに対してシュウトは顔を真赤にさせながら今後の自分達の行動について作戦を練った。


「とにかく、俺達は怪しまれないように普通に行動していよう。目的地は決まってるんだから出来るだけそこで張ってればいいはずだよ」


(そうだな、それしかないな)


 由香の行動を止めるにはゲート前で待ち伏せするしかない。2人の意見はそこで合致した。考えがまとまった所でシュウトが教室に戻ると、ちょうど午後の授業が始まるところだった。遅刻せずに済んだと彼はほっと胸をなでおろす。


 そうして授業が始まって少しした頃、遅れてきた先生が教壇に立った所でとんでもない事が発覚する。由香の隣の席の女子が先生にある報告をしたのだ。


「先生!由香さんがまだ教室に戻って来てません!」


 この女子生徒の報告を聞いてシュウトは目を丸くする。それは彼にとっても予想外の出来事だった。


「えっ?」


(しまった!やられた!)


 ユーイチもこの異常事態の意味をすぐに理解していた。彼の声を聞いてシュウトも自分の考えと擦り合わせていた。


「ユーイチ、もしかして……」


(急いだ方が良さそうだ!)


 最悪の考えが頭に浮かんだシュウトは早速行動を開始する。暴走する由香を止めるにはどんな手を使ってでも急ぐしかなかった。そこで彼が取った行動はお約束のアレだった。

 まずさっと手を上げて先生に気付いてもらう。それから苦しそうな顔をしながら訴えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る