第14話 厄介な仕事 後編
「あの秘書の人……美人だったなぁ」
(それより、渡された資料をよく読むんだ)
シュウトがあまりにも腑抜けになっていたため、心の中のユーイチが声をかける。その言葉を聞いて我に返ったシュウトは今一度改めてさっき渡された資料に目を通した。そこにはこの近所で実際に起こっている異世界生物絡みの事件の概要が詳細に書かれている。
「近所でこんな事件が多発しているなんて、考えただけでも怖いな」
(大体、ここまで把握されているって事はもう周りからもバレているって事だろう。該当人物は近くに行けばすぐ分かるはず)
「もしかして、あれかな?」
資料に書かれていた場所にシュウトが近付くと、その場所では既に警察官が大勢集まっている様子が伺えた。その警察官と対峙している相手がどうもそれっぽい感じだった。
まるで子供がおもちゃをぞんざいに扱うみたいに何人もの警察官が彼に弄ばれている。そのあまりの暴れっぷりに危険回避の為に野次馬は完全に排除されていた。
「うわ……警察じゃ手に負えないよあれ」
(変身、だな)
「シンクロ!」
一応念の為に正体がバレないように物陰に隠れるとシュウトは変身した。ユーイチと同期した彼は雰囲気が変わる。後の行動はユーイチにお任せだとシュウトは自分の心の中で物見遊山と決め込んだ。
ユーイチはすぐに事件の現場に駆け寄った。異世界生物による犯罪の被害をこれ以上大きくしないために。
「すいません、下がってください!」
「おお、君は……話は聞いているよ」
警察の現場の責任者がユーイチに声をかける。どうやら情報は既に伝わっているようだ。何て手回しがいいのだろう。
それはそうと、彼の存在が認知されているなら話は早い。ユーイチは早速責任者に声をかける。
「任せてくれますね」
「ああ、よろしく頼む」
そんな訳で早速大暴れの融合者の相手をする事になった。それまでそいつの相手をしていた警察官は潮が引くように距離を取っていった。
ユーイチは必殺の一撃を融合者に叩き込む。今回はそのたったの一撃でそいつは倒れた。
「うわ……前戦ったやつより雑魚だった……」
「流石だな……ご協力感謝する」
事件はあっさりと解決し、現場では被害者の青年と全ての元凶の異世界生物が伸びている。
「じゃ、コイツはこっちで処分しときますんで」
「ああ、任せるよ」
いつ見てもこの異世界生物はやっぱりネコにしか見えない。ユーイチはそのまま異世界生物をつまんで現場を後にした。
物陰に隠れるとユーイチはシンクロを解く。別に正体を隠す必要もないし、相手側にも知られているとは思うんだけど、何となく大勢の警察官の前で元に戻るのは彼にとってちょっと恥ずかしかった。
気絶している異世界生物を見ながら、コイツの処理をどうしたらいいのかシュウトは悩んでいた。
「あれ?そう言えばこいつ、ゲートに戻していいんだっけ?」
(資料最後まで読んでなかったのか?一応この世界で預かるみたいだぞ)
シュウトのつぶやきに心の中のユーイチがツッコミを入れる。かばんに入れていた資料を取り出してシュウトはもう一度それを舐めるように読み始めた。
渡されたまとめられたコピー用紙の最後の紙に捕獲した異世界生物についての記述を発見した彼は、頭に内容が入るまで何度も読み返した。
「えぇと……本当だ。捕獲した異世界生物はそのまま本部に持ち帰るようにって書いてある……本部ってどこだっけ?あの喫茶店は違うよね?」
本部についてはまた資料の別の部分に記載してあり、異世界生物捕獲についての件の箇所には書かれてはいない。資料を読みながらシュウトは何て不親切なんだと思った。これが所謂お役所仕事ってやつなのかも知れない。ペラペラと資料をめくり改めて本部の場所を確認する。
しかしその場所は住所しか書いてなくて、しかもそれは自分の行動範囲の外にあり、全く土地勘がない為、具体的な場所のイメージが掴めない。
そんな時の為のネット地図ではあったんだけど、この時はその存在をすっかりと忘れてしまっていた。
「住所だけじゃ分からないや……あの美人秘書の人に連絡して聞いてみよう」
困ったシュウトは今朝会った知的美人秘書のちひろに早速連絡を取った。連絡先は資料の最初の紙に書いてある。
初めて知らない人に電話する事になる為、シュウトは思いっきり緊張しながら電話番号を間違えないように入力した。
電話番号を間違えていないか何度も何度も確認して確信を得てからようやく彼は発信ボタンを押した。
「あの……もしもし……事件解決したんですけど……」
今朝会った時は緊張して中々上手く喋れなかったけれど、電話では何とか普通に喋る事が出来た。
電話の向こうのちひろはまず最初にシュウトの苦労を労ってくれた。
「お疲れ様、流石ね!それはこちらで預かるわ。あ、本部の場所ね……地図も一緒に描いてたはずだけど入れ忘れたかな?いいわ、今から説明するね」
彼女の丁寧な説明を聞いて大体の場所の雰囲気をイメージ出来たシュウトは要所要所で再度電話で確認を取りながら何とか本部に辿り着いた。
そこは一見何の変哲もない有り触れたオフィスビルだった。ドキドキしながらシュウトはその中へと入っていく。
どうやら彼が来る事はしっかり伝わっていたらしく警備の人がそのまま本部へと案内をしてくれた。本部自体はこのビル全体がそうではあったものの、ひちろが所属している部署はこのビルの4階に設定されていた。
「お!来たね!お疲れ様。ハイこれ、成功報酬。これからこのカードに振り込まれるから。大事にするのよん」
部屋に入ると妙にハイテンションな彼女が待ち構えていた。そのテンションにシュウトはちょっと引いた。
そうして貰ったカードをじっと見てみる。地味で無難なデザインで一瞬何のカードか分からないそのカードは普通にATMで使えるようだった。
「これ、秘密のカードだけど全国で使えるから安心してね」
シュウトは成功報酬があるなんて聞いていなかった。タダ働きじゃなかった事に感動すらしていた。
しかしずっとカードに感心していても始まらない。彼がここに来たのは捕まえた異世界生物の処置についてだ。
シュウトはひちろに自分の仕事の成果を提示する。
「あの、こいつは……」
「あ、うん、ありがとう。捕獲完了ね。じゃあこの生物はこちらで預からから。わざわざ持ってきてくれて有難う」
「あの、持参するように書いてますけど」
「うん、書いてはいるけどね。持ってきてくれる人少ないんだぁ。信用されてないのかもね」
彼女のこの一言にシュウトはこの仕事の闇を見た気がした。実際、政府に協力している他の融合体の人達もやっぱりユーイチと同じく訳アリの人が多いのだろうなと彼は想像した。
全ての手続きを終え、シュウトは本部を後にする。やっと開放されるとあって彼は背伸びをして体をほぐしながらビルの外に出ていた。
「ふぃ~、疲れたあ~。でもこのレベルの事件が続くだけなら結構楽勝かもね」
(油断は禁物だぞ。こっちの世界にどんな奴が潜んでいるか分からないんだからな)
「分かってるって。でも資料を見て手に負えなさそうなのは受けなきゃいいんだよ」
シュウトはユーイチの忠告に対し楽天的にそう答えていた。それはシンクロした時のユーイチの強さを信頼している証でもあった。
しかしユーイチは一抹の不安を覚えずにはいられなかった。向こうの世界の悪党の大物がこの世界で暴れれば何が起こるか想像もつかないからだ。
こちらの政府がどこまで最悪の事態を想定しているのか、それが不透明なのはやはり不安でしかなかった。
(そんな簡単に済めばいいんだけどな……)
「きっと政府の人がうまく調整してくれるって!」
(政府……か。あんまりそう言うのは信用しない方がいいぞ……)
飽くまでも楽天的なシュウトに対し、流石政治犯だけあってユーイチは政府と言うものを信じきる事が出来ない。
この2人の思想的なバランスは、うまく噛み合えば正しい判断をするのにいい指針となるものではあるけれど、今はまだお互いにそこまでの理解の域には達していなかった。
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