第4話 夢のお告げ
シュウトは夢を見ていた。普段は夢の中で自分が夢を見ているなんて自覚出来ないのに今回はハッキリこれは夢だって自覚出来ていた。
所謂覚醒夢ってヤツですな。
(ここは……夢の中……?)
夢の中でシュウトは何をするでもなくぼうっとしていた。普通は何かストーリーのある夢を見るシュウトにとって、それは不思議な感覚だった。
しばらくして真っ白い空間に浮いているシュウトに呼びかける声があった。
「シュウト!シュウト!」
声の主はユーイチだった。
「ユーイチ?」
シュウトはユーイチの声に振り返る。夢の中のユーイチの姿はやっぱり猫の姿だったものの、現実と違うのは服を着ていた事――後、背中に羽が。
「何、その格好……」
「え?ああ、これ……夢の中だからかな」
服を着た猫……それはとてもファンタジックで可愛い姿。そしてその妖精の着るような服装に似合うように背中の羽もちっちゃくて可愛かった。
女子ならかわいーって反応が一番に来るんだろうけど、シュウトはまずその違和感に突っ込まずにはいられなかった。
しかしそんな状態になっても、当のユーイチは当たり前のように振舞っていた。
「もしかして向こうの世界ではそんな格好を?」
「そう……なんだ……よく分かったね」
「何となくね」
恥ずかしいのか歯切れの悪いユーイチの返事に少し違和感を覚えるものの、そこはあえて突っ込むのは止そうとシュウトは思った。
そしてそこまで会話してユーイチが急に僕の手を取ってどこかに進み出した。
「来て!」
ユーイチに羽があるからかな……きっと空を飛んでいるんだろう。
ただこの夢の世界が全方位真っ白で影も生まれないものだから、どこに進んでいるのやら感覚も何も分からなかった。
飛びながらシュウトはユーイチに質問する。
「一体どこに?」
「誰かが呼んでる……」
ユーイチはそう言うと黙ってしまった。その後はシュウトがどれだけ話しかけても無言だった。2人はそうして夢の世界を飛んで行く。
ある程度進んだところで世界は一気に暗くなった。暗くなったところでまた光が見えてくる。
どうやらユーイチはシュウトをその光の先に連れて行こうとしているみたいだった。
この間、シュウトは特に嫌な気持ちにもならず、シュウトに引っ張られるがままになっていた。それはシュウト自身がこの先の展開を楽しみにしていたからに他ならなかった。
リアルな世界で同じ状況になったらパニックになったかも知れないけど、シュウトは今この世界が自分の夢だって知っている。
だからこそ、どんな展開になっても楽しめる余裕があったのだ。
そうこうしている内にシュウトの目の前の光がどんどん近付いて来る。その光はやがて眩しい閃光となって2人を包んでいった。
気が付くとシュウトが最初にいた世界と同じ全方位真っ白な世界に来ていた。
いや、その光は黄金色に輝いている。同じようで違う、眩しい輝きの中にいた。
「ここ……?」
「多分……」
「声の主は?何も聞こえないけど?」
「……」
ユーイチは黙っていた。夢なんて理不尽な事が普通に起こるから、どんな展開になっても不思議はないけど……。
すると目の前に何かの映像が浮かんで来た。
感覚としては巨大なスクリーンを眺める――そう、劇場で観る映画のような――。
その映像は誰かが襲ってくる敵とバトルしているみたいだった。映像はかなり不明瞭で登場人物もはっきりとは分からない。ただ、何をやっているのかは分かるもので、そこで展開されているのは襲ってくる敵を千切っては投げ、千切っては投げ――まるで痛快娯楽アクション映画の趣だった。
そしてその映像は躍動感にあふれてはいたものの、音は一切流れていない。言ってみれば昔流行った8ミリ映画のようだった。
「えっ……」
同じ映像を見ながら、たまにユーイチは声を上げていた。その時の彼がどんな心境だったかは分からない。
ただ、この映像が彼にとって何か大きな示唆を含むものだったのは間違いないだろう。
そして同じ映像を見ているシュウトはただの娯楽的作品として、この映像を見ていた。彼にとってこれは自分とは全く関係ないものとの認識だった。
見せられている映像に物語があるのか、何かを伝えたいのか……。そんな事も分からないままに突然その映像は途切れてしまう。
「これは……大変な事になる……」
全ての映像を見てユーイチはそう漏らす。彼にはこの映像の意味が分かったらしい。
しかし意味がさっぱり分からないシュウトは最後まで要領を得ないままだった。
「これって……」
シュウトがやっと口を開いた時、唐突に夢は終わった。悪夢でもないのに突然目が覚めてしまったのだ。
「あれ?」
見渡すとまだ真っ暗……時計を見ると午前3時を少し過ぎた辺り……。
「ねぇ……?」
シュウトは心の中で眠るユーイチに声を掛けてみたものの、彼からの反応はなかった。どうやらユーイチはぐっすりと眠っているようだ。
もしかしたら一緒に同じ夢を見ていたのかと思ったシュウトだったけど、それはただの思い込みだったのかも知れない。
仕方ないのでシュウトはもう一度寝る事にした。ただ、一度ハッキリ起きてしまったので中々眠りに落ちる事は出来なかった。
けれど……気が付くとぐっすりとまた眠りに落ちる事が出来ていた。そこから先で見た夢はすっぽりと記憶から抜け落ちていた。
チチチ……チチチ……。
夜が明けて朝日が窓から射してくる。無意識の内に目覚ましを一瞬で止めたシュウトは母親からの大声で目覚めるまで、そのまぶたを開ける事はなかった。
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