第7話 第一回B組会議

この学校の校門は全部で四つある。


 一つ目の場所はちょうど校舎の真正面にある校門。ここは外部から入るときに使う入り口で今日僕が入ってきた場所だ。


 次に二つ目は右側にある校門だ、ここは学園の生徒が出入りする場所で、ここから出て、道なりに進むとA組からD組までの寮がある。


 三つ目の校門は逆の左側にあり、E組からH組の寮がある。


 そして四つ目の門は校舎の裏にあり、二年生の校舎へと続いている。ただ、基本学年が変わっても校舎を変えることもなく、また、学年が違う生徒が絡むこともないので、使うのは教師だけとなっている。


 僕たちは今、その右側にある校門からB組の寮へと向かっていた。

 正式に僕が組長となって、今後の方針を決めることになったのだが、教室では他クラスに話を聞かれる恐れがあるため、授業終了後、寮の中で改めて話をすることになった。


 幸い今、この道を通っているのはB組のメンバーだけだが、ここは普段は四クラスが通る道なので非常に危険な場所でもある。僕は皆に守られるように三百六十度囲まれながら歩いていた。



――

 学校を出てから十分ほど歩いたところで、遠くに四つの建物が見えてくる。

 この場所に建っている建物は一つしかない。ただそれは僕の想像していたものとは全然違う形をしていた。


「えっと……もしかして、あれが寮?」

「ああ、なかなか立派だろう?」


――立派なんてもんじゃない。


 目の前に見えてきたのは学生寮なんかではなく巨大なお屋敷だ。

 周りが木の塀で囲まれていて、入り口の門に木の表紙でそれぞれのクラスの名前が大々的に貼り出されている。寮と言うより旅館の方が近いかもしれない。

 そんな建物が一定の距離を取りながら道の左右に二つずつ並んでいるのだ。


「右の手前にあるのがA組で奥がB組。そんでもって左の手前からC、Dと続いているわ。そのまま奥へ突き進むと山があって訓練所として、よく使われるの。」


 そう説明を聞きながら歩くとまるで観光をしている気分にも思えてくる。僕達はそのまま右奥にあるB組の屋敷へと向かった。


 門に入るとそこの光景に目を奪われる。

 地面は白い綺麗な形の小石で埋め尽くされていて、門から玄関までの場所には、まるで道を示すように大きな黒い石が埋められている。ドッジボール位できそうな広さの庭には橋の架かった池がついており、そのそばには鹿威しもついている。


 映画で見るヤクザの家と言えばこんな感じではあるけど、まさか寮までこんな形にするとは……


――こんな寮があと八個も……


 ヤクザの財力に驚きを隠せない。

 皆が慣れたように玄関から中に入っていくなか、僕は物珍しそうに辺りを見回しながら入っていく。


「とりあえず今日は皆も疲れてると思うから、一旦解散で夜八時から会議室でミーティングね。」


 皆がそれぞれの返事をしながら自由に行動していく。


「えっと、僕の部屋はどこにあるの?」

「あ、そういえば、組長は今日初めて寮に入ったんだっけ?」


 まだ慣れない呼び方に少し戸惑うも小さく頷く。


「そうだな……ならまず中を見て回ったらどうだ?、大間の引き継ぎの準備もあるし。」

「それがいいわね、私は会議の事でやることあるから、誰か時間のある人案内できないかしら?ツン子辺りはどう?」


 飛葉さんが銀色の髪のツインテール女子に呼びかけた。


「ツンコ?」

「ああ、角田かくたのあだ名だよ、ツンデレだから通称ツン子」

「へえ……」


 青山君の説明を聞いた後、改めて角田さんを見る。

 確かに、眼は少し釣り上がっていて性格にきつそうな感じはした。しかしそんな子をそんなあだ名で呼んで大丈夫なのかと少し不安に思っていたが、意外にも角田さんは気にする素振りを見せなかった。


「案内?いいよ、それじゃあ組長、ついてきて。」


 そう言って承諾すると角田さんは奥へと歩いていき、僕も後ろから、言われた通りついていった。



――


「――んで、ここがお風呂場ね、大体五、六人は入れるようになってるから、風呂に入るときはそこにあるホワイトボードに名前を書いてね。」


 そう言われて僕は近くにあった小さなホワイトボードを手に取った。


「ここ男女共用なんだよね?」

「そうだけど、どうかした?」

「いや……」


――こんな緩い制度で大丈夫なのか。


 男女が一つ屋根の下で過ごすのも問題と思うが、風呂とか寝場所の区別管理が全くなっていない。

ヤクザってのはこういうの気にしないのだろうか?それともこのクラスだけなのだろうか。


――しかし……


 改めて思ったが本当に豪華だ。これまでに角田さんに案内された場所は居間、キッチン、娯楽場。元々三十人が住むところだけあってどこもかなり広々としていた。本当に旅館と引けを取らないくらいに豪華な寮だ。


「あと、次に行くのが会議室、今晩八時に集まる予定のところだから覚えていてね」

「うん、ありがとう、角田さん。」

「ツン子でいいよ、みんなそう呼んでるし。」


 まさか本人公認のあだ名だったのか。そのことに少し驚くが、それ以前に疑問が一つ浮かぶ。

 今までの案内の途中でもいろいろ話をしたが、全く持ってツンデレ要素がない。僕が組長だからなのかとも考えたけども抑えているようには見えなかった。


「ここまでで何か質問とかある?」

「え?あ、家事とかは当番制なの?」

「ううん、基本はアヤメが中心で私や英子、あと手の空いている人でやっているわ。料理とかは出来る人がいないと大変だからね。まあ、学校の食堂で出来合いを買うのもありだけど。」


――アヤメ……英子……


まだ名前と顔が一致しない人がいる。


――それにしても……


 僕は角田さんの横顔を見つめる。

 見た目こそ少し気の強そうだが美人ではあるし、性格もすごく優しい。自分も戦闘に参加して疲れているはずなのに、僕の案内も嫌な顔せずに引き受けてくれる……


「どこがツンデレなんだろう……」

「え?ツンデレ?」


――あ、しまった⁉


 思わず心の声を漏らしてしまう。怒らせたのではないか?そんな緊張を走らせたが彼女は特に気にせずただ首をかしげていた。


「ツンデレって私の事?そんなこと言われたことないわよ?」

「え?でもツンコはツンデレからつけられたって青山君が……」


 そう言った瞬間少し眉をひそめた。


「青山か……あいつまた適当なことを……この呼び方は私の名前の角田勇つのだいさみのツノから取ったあだ名よ、角田も勇もなんか女の子らしくないじゃない?」


――読み方も間違ってるじゃないか


 得意げに解説しておいて全然合っていない青山君に苦笑する。


「……というわけで今後は、ツン子で宜しく、あと青山の話は信用しなくていいよ、あいつ見た目は優等生っぽい感じがしてるけど中身は、クラス一のバカでいい加減な事しか言わないから、(あとで絞めておかないと……)」


 そう言って次の場所へと向かう前に角田、改めツン子さんは一瞬恐い顔を浮かべたが僕は何も見てない振りをした。



――


 一通りの部屋を案内された後、若田部君から引き継ぎが完了したとの報告があり、ツンコさんと交代の形で、僕は若田部君に大きな部屋に案内される。

 中に入ると飛葉さんが部屋のチェックをしていた。


「この部屋は?」

「ここは大間、組長をやる人の部屋だ」


 その言葉で思わず眼を細くする。


「え……てことはここが僕にの部屋?」

「そう、ここが今日からあなたの部屋です組長。」


 そういわれると改めて部屋を見渡す。そこはまるで時代劇で出てくる殿様が座っているような部屋で横の障子を開ければちょうど大きな庭と池が見える。エアコンや机、最新のテレビがついているのが少し場 違いに感じるが設備としては粗方揃っている。


「なんか僕には勿体ない気が……」


 言葉では遠慮しているものの興味津々にあちこちを調べ回っている。そんな僕を見て飛葉さんがクスリと笑う。


「どうやら気に入ってくれたようね。」

「一応最低限の物は揃っているけど何かを足りなかったら適当に買い足してくれ。」

「買いに行ける場所とかあるの?」

「学校の購買部で頼めば大体買えるわ。直に見て買いたいなら休みの日に隣町までで行けばいいし。ただ、往復で半日消えるけどね」


 そう言われると今日ここまで来た道のりを思い出す。


――そういや隔離されてるんだったな。


 当分あの距離を歩きたくない、僕はとりあえず明日、購買の様子を見に行こうと決めた。


「じゃあとりあえず、俺たちは戻るから。何かあったら言ってくれ。他の組員の部屋は二階にあるから。」

「あ、うん、ありがとう」


 二人が部屋に戻るのを見送ると、僕は広い畳の床に大の字で寝転がった。

 目の前には見知らぬ天井、そしてその上には僕の仲間達が住んでいる。

 家族と住んでいながら一人だった僕にとっては事実上これが幼少期以来の共同生活になる。


――これから一体どんな暮らしになるんだろう?


 環境が環境なだけに少し不安が残るがそれでもまだ楽しみの方が勝っている。僕はそんなことを考えていると緊張が切れたのか瞼が重くなっていき、そのまま眼を瞑ると闇へと落ちていった……




――


…………

眠りからふと目覚めて時計を見る。時刻は丁度会議が始まる午後八時……三十分だ。


――完全に寝過ごした!!


慌てて起き上がると直ぐ様会議室へと向かった。



――


 会議室に着くとドアを開けると同時に謝罪をする。すでに皆は集まっているが話合いをしている素振りもなく、ただ団欒としていた。


「え……も、もしかして待ってた?本当にごめん!!」


 ただひたすらに平謝りをする。


「別に謝る必要なんてないのに。」

「そうよ、ここではあなたのやることが言うことがが絶対なの。例え遅刻しようがサボろうが、謝る必要なんてないわ」


 飛葉さんの言葉に自分の立ち位置がどれ程重要なのかがわかった。これから僕一人の行動で皆がめちゃくちゃになる可能性だってある。それを胸に刻み反省した。


「さて、これで全員集まったし、早速会議を始めるわ!!」


 飛葉さんが一度手を叩いて元気よく立ち上がり、部屋の端に置いてあった大きなホワイトボードを持ってきてクラス名や会議のお題などを書き始めた。


「なんか今日、飛葉さん気合入ってるねえ」

「当り前よ!まさに会議こそ参謀を務めている私の活躍の場!……ここ最近は皆の暴走を止めるくらいしかやってなかったからねえ……」

「わ、悪かったよ」


 横田君の茶化した言葉が失辣な言葉で帰ってきた。言葉を放った飛葉さんの姿に苦労の陰が見えた気がした。


「では気を取り直して話を進めるわ、まずはクラスの現状を説明から。私たちBクラスは全二十一人中十五人、あと一人停学なら我がクラスは壊滅するという非常に危険な状況に陥っています!」


 その言葉に一同が身を引き締める、この言葉を今日で何度聞いただろうか。


 一人でも怪我をすれば退学。


 それがこのクラスにとてつもないプレッシャーを与えている。


「私達、四辻組長の新体制となったクラスで当面の目的は交戦の徹底回避!二か月!二か月間交戦を避けること!そうすれば二人仲間が帰って来るわ。」


――二か月


 今は九月だから十一月まで怪我人を出さずに過ごせばいい……だがそれは簡単のようで難しい。

 遠いか近いかで聞かれれば間違いなく遠い。

 普通の学校なら問題ないが、この学校は普通じゃない、筋さえ通せば暴力を奮うことが許された高校だ。


「普通に学校生活を送れば簡単だが……他のクラスが見逃すわけねえよな」

「やっぱり抗争ってよく起こることなの?」

「いや、本来ならそう簡単に起こるようなもんじゃない、揉めるのにも火種が必要だし、それに組が潰れることでマイナスはあっても組を潰したからと言ってプラスがもらえるわけじゃないし、別に普通に学園生活を送っても問題ないからね。」

「まあ、あっても小競り合い程度だ。」

「でもそれはあくまで、普通のクラスの話だけどね」


 争いは普段は起こらない、そんな言葉に上塗りするように、喜田さんが言葉をかぶせてくる。


「クラスを潰せばそのクラスの奴らを紅蓮会での立場で出し抜ける、そしてちょうど一人停学にすれば潰せるクラスがある。」

「何もしないわけがないよね。」

「この中でやはり一番危険なのはやっぱりC組かな?」


 誰かに殴られたような痣を顔に作っているが慣れたように平然としている青山君の言葉にみんなの視線がホワイトボードに書かれたC組の所に注目が行く。


「だろうな。今までも何度も争ったし」

「C組ってやっぱり強いの?」

「いや、総合的な実力なら大したことはない。だが、頭の三人、組長九条、参謀、宇佐美、若頭の飯山が厄介な奴らだ。」


――あれで⁉


 今日の戦いの状況を改めて振り返る、確かに皆は数が上の相手に互角に戦っていたが、向こうが大したことはないとは到底思えなかった。


「九条はあれでかなり頭としては有能だからな。」

「あと狙ってきそうなのはG組くらいね……」

「Gは問題ないだろ、沖原の欲望だらけの理想に集まった、チンピラの塊みたいなもんだし。」

「い・い・わ・け・ないでしょ?チンピラだからこそ、なりふり構わず襲ってくるんじゃない。今の状況じゃあそれが一番危険なのよ。」


 若田部君と飛葉さんのやり取りから、G組は余り大したことがないというのが分かる。ただそれと同時にある疑問が思い浮かんだ。


「ところで思ったんだけど、クラスの生徒の割り振りってどうやって決めているの?」


 話を聞いている限りだと一般の学校のように学校側が決めているようには感じない。僕の素朴な質問に飛葉さんが丁寧に説明してくれる。


「あらかじめ、入学してきた生徒の中から一番格のの高い家柄の生徒がそれぞれの組長として選ばれるの。そしてその組長をやるクラスに入りたい人が組長に自分を売り込んだり、組長が引き入れたりしていくの。この学校は他の組同士が交流しやすい場でもあるからね、位の高い人のクラスには売り込みが多いからその分、優秀な人材が集まりやすいの。

 格の高い順は大幹部、幹部、中部、下部組織の順、そしてここには組長の子供だけではなく、構成員の子供とかもいるから、そういう人たちは所属している家柄の地位から一つ格下の家柄の扱いにされるわ。

 例えば幹部の組に組員の人なら中部、大幹部の組員なら幹部扱いされるわ。

 ちなみにクラスの組長の話だけど拒否することも可能よ、例えば、E組の組長に選ばれたけどD組の組長の下に付きたいとかなったら拒否とかもあり得るわよ、そう言った場合は同じ格の人か、その一つ下の格の人が選ばれたりするの。そして私たちの年は十人しかいない大幹部の子供、が四人も在籍しているという黄金、もしくは最悪世代なの」

「じゃあ、皆もかなり凄いんだ。」

「どうかな、確かに実力はあるけど桐島は家柄や実力で選ばなかったからな。」

「そうだな、義や仁侠を重んじて、来るもの拒まずで受け入れていったからな。元々知り合いだった俺と京香を除いて、これだけの戦力が整ったのは偶然だぜ。」


 そう言うと、周りもうんうんと頷く。

 皆の話を聞く限りだと、その桐嶋君って言うのは凄く立派な人だと感じた。

 そしてそれと同時に、その人の代理を務めるという事に少しプレッシャーを感じた。


「お陰で、桐島に取り入ろうとしていた小物もそれなりにいたよね。」

「まあ、そう言う奴等は若田部に代わったお陰でずいぶん炙り出せたよな。」

「竜也がが停学になったとたんビビッて、退学する奴等や他クラスに移籍した奴等もいたしな、全く盃をなんだと思ってんだ。」


 そう吐き捨てた若田部君の眼には怒が灯っていた。


「ちなみに強いクラスはどのクラス?」

「やっぱ、大幹部のいたクラスは実力者が揃っているからな、大幹部のクラス、A、D、Eこの辺りは強いな。」

「特にE組はヤバイよね、あいつらは戦闘狂の集まりだし、入学早々全面抗争ぶっかけるようなやつらだったし、あそこの頭は最上位の大幹部の癖に自分から抗争吹っ掛けるなんて、とち狂ってるよ。」

「ただ、AもEもトップが停学食らってからは大人しいのが幸いだな、Dに関しては元々非交戦的だし、もしここら辺が襲ってきていたらもうすでに壊滅してるよ。」


 その言葉に背筋がゾクリとする、Cクラスの九条君でもあれほどだったのに、まだその上が三つ以上ある……

 その事に恐怖を感じられずにはいられなかった。

 話がいろいろ落ち着いたところで飛葉さんが路線を元に戻した。


「まあ、そう言うことも含めて、全クラスからの攻撃を想定して、今後私たちはスリーマンセル、最低でもツーマンセルでの行動を提案します。大人数で要られるならそれがいいけど、常にいられる訳じゃないしね。最低でも二人入ればなんとか凌げるし。一応ペアは私が仮で決めてみました」


 そういうと飛葉さんは決めたペアを一通りホワイトボードに書いていき、それを読み始めた。


「まず女性陣からね、私とセナ。良子と紀子、アヤメと英子とツン子。男子陣は健次と片瀬、横田と青山、あと鈴鹿の三人衆で、一応みんなの相性を決めて考えたけど異論があったら言ってね。」


 皆そのペアに納得したのか声は上がらない。


「組長に関してはこのペアの誰かを護衛につけようと思ってるんだけど。」

「それなら、俺達でやるか。」

 若田部君が我先にと名乗りを上げ、片瀬君も立ち上がり拳を作り、張り切りを見せる。


「クラスのツートップの実力者なら安心だね。」


 飛葉さんのペアの清川セナさんが太鼓判を押すが、飛葉さんはあまりいい顔をしない。


「う~ん、どちらかと言うと上の三人は離れさせてほしいわね。組長不在時に指揮を執る人が必要だし。」


 その言葉で若田部君と飛葉さんのペアは自然と排除される。

 そして代わりの候補を探していると一人が手をあげる、ただそれは名乗りではなく断りの方であった。


「ゴメンだけど私と英子はアヤメの護衛に専念したいから遠慮するわ。まあ組長命令なら従うけど」


 ツン子さんが断りを申し出るそれと共に隣に座っていた女子が立ち上がり頭を下げた。

 身長は僕よりも少し高く、清純な黒髪が背中まで伸びた清純そうな女性、百瀬アヤメさんだ。


「ご免なさい……、私が至らないばっかりに」

「仕方ないわよ、皆が皆、喧嘩が得意って訳じゃないしね。」

「……護衛はできないけど、藁人形ならあげるよ」


 百瀬さんの隣に座っている顔色が青白い三つ編みの少女、鷺沼英子さんが僕に藁人形を渡す。


「あはは……、ありがとう」

「もしもの時はそれの首の紐を切って投げてみて……」


―― 一体何が起こるんだろう……


僕は思わず、とあるアニメの事を思い出す


「う~ん、しかし、そうなると、どうしようか?」

「なら僕と横田で護衛するよ」


 青山君が背筋を伸ばし、まっすぐに手をあげる、椅子から勢いよく立ち上がり、元気よく手を挙げるその姿はまるで授業の問題に対して率先して手をあげる優等生のように見える、しかい周りの反応は……


「お前できんの?」

「横田はともかく青山はねぇ……」


 あまり信用されていないようだ。


「だ、大丈夫だよ!な、横田!」

「そうだね……組長とは魔法少女の話をしていきたいし……」


 そういえば横田君は魔女っ娘知恵が好きなんだっけ?なら少しお願いしたいかも。


「ちょっと待ったぁ!!」


 ほぼ決まるかと思いきや、ここで待ったがかかった。


「組長の護衛に、この鈴鹿の三羽ガラスも忘れちゃ行けねぇ!!」


 すると三人の男子が立ち上がる。

 右側に立つのは、身長も低めの少し小太りな男子、左側に立つのは目に大きなクマを作りニヒルに振る舞っている男子、そして最後は真ん中にいる顔だちの良い七三分けをした男子だ。彼らはそのまま華麗にポーズを決めながら自己紹介をしていく。


「鈴鹿組構成員沼田大五郎の息子、沼田三郎!!」

「同じく鈴鹿組構成員、館山新吾の長男、館山次郎!」

「そして俺が鈴鹿組組長、鈴鹿清次郎の息子、鈴鹿一郎だ!!」

「三人合わせて!鈴鹿の参羽烏!」


 三人が上手くポーズを決めて格好をつける、本人たちは満足のようだが、周りからは痛々しい空気が流れる。

 なぜこんな色の濃い人たちが今まで前に出てこなかったのかわからない。


「組長の護衛は俺達に任せてもらおう」

「重大な護衛にそんな知ったかと、魔法少女オタ何かでは役不足」

「知ったかって誰だ?」

「おい待てや!それはどういう意味じゃ?魔法少女好きの悪いんじゃ!!言うてみぃ!!」


 三人の言葉に豹変した横田君が怒鳴りあげる、聞いてるこっちが、思わずすくみ上りそうになるが、三人は全く怯まず同じ口調で応戦する。


「魔法少女みたいなみみっちいもん見とるお前に護衛は無理やというてるんじゃ」

「お前等だって戦隊もんばっかみてるだけだろうが!極道がヒーローモンに憧れるってどういうことじゃ!」

「戦隊もんをバカにすんじゃねぇぞ、あいつらは正義というより任侠に近いもんを持ってるんじゃ!大体なあ――」

「お前ら止まれ、そういう話はあとにしろ」


 片瀬君の言葉に遮られると四人は黙りこくる。


「で?どっちにするんだ?」

「私的には三バカラスは結構目立つから遠慮したいんだけど、横田青山ペアも何か不安だしなぁ。」

「ん?今、三バカって言わなかった?」

「なんか不安って……」

「と言うかちょっと男子!!さっきからなに勝手に話進めてるのよ!!」

「私たちも……いるぞぉ!!」


 二ペアで悩んでいる中、更にここぞで新しいペアが乗り込んできた、クラスのムードメーカー、喜田良子と喋り方が少し独特的な女子、秋山紀子ペアである。

 僕から見ればここのメンバーが一番まともに見えるが、飛葉さんは微妙な顔をしている。


「さて、どうするかな……」

「他には……もういないよな」

「仕方ない、じゃあこの中から、組長、選んで。」

「ええっ!」


 まさかの振りに思わず焦る。

 はっきり言って誰がどういう人なのかは全くわからない、

 鈴鹿の三人は少し恥ずかしいし、横田青山ペアはなんか不安だし、喜田、秋山ペアは女性ということもあり少し抵抗がある、どのペアが一番いいのかなんてわからない。


 僕は少し考えた後この場でも最も最善だと思われる選択を選んだ。



「とりあえずじゃんけんで……」

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