第129話獅子心中の虫 其の二
王都の空気に敏感なステファノの計らいで休業中の闘技場、その裏手にある訓練場にザインは足を踏み入れた。人竜の姿のままで。
「う、うわあ!何だコイツ!?」
「ば、化け物!?何処から来たってんだ!?」
驚いて武器を此方に向けてくるのは新入りの剣闘士達である。しかし数年前にザインの本当の姿を見たことがある者達はすぐに気が付いた。
「おい!ザインじゃねぇか!」
「む!?ザインだと!」
「ほう、久しいな。」
「やっぱり生きてやがったか!そう簡単に死ぬ訳ゃねぇよな!」
即座に駆け寄ったのは『四天剣』の四人であった。竜である事を知っていて、その姿を晒してなお友人として接する彼らにザインは内心で感謝していた。
「おう。お前等も元気そうで何よりだ。色々あってな、お前たちの力を借りたいんだ。」
「へぇ?そのために古巣に帰ってきたってわけか。親父っさんの許可は貰ってんのか?」
「ああ。そこで、だ。信頼出来て腕も立つ連中を集めてくれ。大人数が集まれる場所はあるか?」
「それならブケファラスの小屋がいいだろう。今でも欠かさずに手入れをしてるからな。」
ブケファラスの小屋に集まったのは元『剣王』ザインに『四天剣』の四名に数名の古参の剣闘士、それに彼らが信頼できる新人達だった。残りの古参連中は信頼出来ない新人達が余計な真似をしないように監視していた。
「みんな集まってくれたこと、感謝するぞ。」
「いいってことよ。その代わりっちゃあ何だがこれまでの事とその姿でいる事の説明はしてくれよ?」
「当然の権利だな。さてどこから話そうか…」
「最初から全部話せよ?」
「わかった。じゃあ十年前、俺がここに来る前のことから話そう。」
ザインはこれまで聞かれても頑として言わなかった昔話から今までの経緯を詳細に語った。奴隷に身を窶した剣闘士から見ても、ザインの半生は壮絶である。さらに勇者への復讐という無茶な目的にはただただ圧倒されるのみだった。
「お前の事情はよく解った。んで、俺たちに協力しろって言いに来たんだな?」
「その通りだ。」
ザインに真っ先に問うたのは『四天剣』の一人にして唯一の人間であるジョナサンだった。彼だけは終始表情を変えずに黙って聞いていたのでザインとしてもその返答に予想がつかなかった。
「ぶふっ!そんな顔すんな。」
そんなザインの不安を見抜いたのだろうジョナサンは思わず吹き出してしまった。
「俺達は、少なくとも俺は乗るぜ。親父っさんの下で剣闘士も悪くないがな、お前の話に乗った方が面白そうだ。」
「私達は当然協力するぞ。」
「おお!俺達は他人事じゃねぇからな!」
「そうともよ!同胞が世話んなってんだ。何もしねぇんじゃあ筋が通らねぇやな。」
四人を皮切りに、この場に集まった全員が口々に賛同していく。彼らならば着いてきてくれると思っていたのは事実だが、実際に来てくれるとなると嬉しいものである。
「よし、決まりだ。襲撃は明け方に決行する。作戦は後で説明してやる。一丁派手に暴れてやろうじゃねぇか、野郎共!」
「「「うおおおおお!!!」」」
こうしてザインは王城を襲撃する戦力を確保した。魔族の精鋭とも良い勝負ができる人間や亜人でも最高峰に達する者達約五十名。数時間後、彼らがザインと共にダーヴィフェルト王国アジェルヴォルン朝を滅ぼすこととなるのである。
しかし彼らは知らない。後に彼らはザイン直属の諜報員として魔王の覇業に陰ながら貢献する情報戦の要となることを。
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