第92話再会の蟲将 其の三
一人で降下したはずのザインがぞろぞろと引き連れて帰ってきたので、ギドンもフューも驚きはした。しかし、既に彼らの常識は崩れ落ちているので慌てふためくような醜態はさらさなかった。
ただ、ブケファラスが敵意を剥き出しにするのは意外であった。それもケグンダートたち蟲人に、ではなくアメシスに対してである。うなり声を上げながらじっと睨むブケファラスに、アメシスは完全に怯えていた。
「おいおい、どうした?」
「グルルル…クゥーン…。」
ザインが撫でてやると直ぐに大人しくなって威嚇も控えたのだが、その後ブケファラスがアメシスを見る目にそこはかとない優越感がある。そこでザインはようやく気がついた。ブケファラスが嫉妬していることに。
「本当に我が儘な奴め。まあいい。ケグンダートさん、紹介しますよ。こいつは俺の相棒のブケファラス。そして此方はドワーフ族のギドンとエルフ族のフュー。俺の交渉の見届け人です。二人とも、こちらは蟲人の…」
「よい。我が名はケグンダート。ギドン殿とフュー殿、お見知りおき願う。」
「おう。ギドン・ゴじゃ。」
「フュー・ルト・ギヴと申します。こちらこそよろしくお願い致します。」
「よし!じゃあ早速…」
「待てぃ!その前に説明せねばならんことがあるじゃろう!」
三者三様の挨拶が終わって本題に入ろうとしたザインをギドンが制した。
「その後ろの竜…でよいのか?とにかくそれは何じゃ!説明せんか!」
「あー…後でちゃんと説明するから、今は無害ってことで納得して欲しい。」
「ハァ~。後で絶対に詳しい話を聞かせてもらうからな。フューもそれで良いな?」
「ハハハ。僕はもう色々諦めてますからね、別にどっちでも良いですよ。」
好奇心に負けてザインの存在を知り、そのせいでこんなスリリングを通り越して命懸けの旅に連れて行かれたフューは乾いた笑いを浮かべていた。ザインは気にせずに話を進めていく。
「話は終わったな。じゃあ俺達の目的を言わせてもらいますよ。」
ザインの話が終わるまで、ケグンダートはじっと待っていた。そして話が終わると同時に重々しく口を開いた。
「当代の魔王様は…その要求を呑む、と我は思う。あのお方は面白そうかどうかで全てお決めになるからな。その話は興味をそそられるであろう。ただ…」
ケグンダートの答えは歯切れの悪いものだった。彼が言葉を濁したのにはそれ相応の理由が当然ある。
「あの方の種族は悪魔。それも受肉した悪魔王だ。それ故、ただで引き受けることは有り得ん。必ず汝に何かを要求するはずだ。」
「何を望まれようと、俺は必ず応えて見せますよ。この計画は既に俺一人の復讐では済まないんですから。」
「即答か。それだけの覚悟があるのならこれ以上のお節介は野暮というものか。良かろう。汝らと魔王様の謁見、このケグンダートが責任を持って実現させて見せよう。」
そう言ってケグンダートは胸を張って己の堅い外骨格を叩いて見せる。ザインが彼と初めて会った十年前と同じ、誠実で堂々たる姿であった。
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