第17話

 意識が戻った瞬間にピスカは身悶えた。全身に痛みが迸っている。鈍痛と激痛が入り混じる。いまこの時にも攻撃を受けているかのような痛みだった。

「大丈夫?」

 誰かの声がする。首をよじって声のする方を見た。

「ユイ……ル」

 自分の声がかすれていることを自覚。身体を動かす度に皮膚や筋肉が悲鳴をあげる。

 痛い。

「身体動かさない方がいいよ。ずっと寝ていたんだから」

 ピスカは布を巻かれ寝台に横たわっていた。

「今日は、いつ?」

 どのくらいの間こうして寝ていたのだろう。

「丸一日目を覚まさなかったんだよ」

 ユイルの顔が視界に入る。心配、してくれているのだろう。冷たく扱っていたユイルに優しくされるのは、心が痛んだ。衣服が代わっている。傷の手当は誰がしてくれたのだろう。父上が、してくれたのならいいのに。

 目を瞑って全身の力を抜いた。痛みも活動を抑えたかのように和らぐ。

 瞳を開け、天井を仰いで訊ねた。

「父上は、怒ってた?」

 なにもかもが幻のようだった。父上が怒る姿なんて見たこともなかったし、蹴られたことも、もちろんなかった。全部が全部夢で、怪我もわたしが梯子から落ちたから、だったりすればいいのに、と心のどこかで願っていた。

 返事がないので首を傾けた。ユイルの表情を見て悟る。

「そう、なんだ」

 視界が滲む。涙が瞳から溢れて頬を濡らす。

 やっぱり、全部本当のことなんだ。父上は、わたしのことが嫌いになってしまったんだ。こぼれる涙を掌で拭う。料理なんてつくらなければよかった。嗚咽が喉から漏れる。なんであんなことしちゃったんだろう。父上が怒ってた。全部、全部わたしのせいなんだ。

 後悔の念が身体を支配した。記憶のかけらに残っている父上の笑った顔が見たかった。家族四人でまた幸せになれるんじゃないかと夢見た。それを壊したのはわたしなんだ。

「ごめんなさい」

 誰に謝るのでもなく言葉が出た。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 沢山の呟きが口から漏れ、自責の念を増やしていった。

 ユイルはもう一つの寝台に腰を下ろしていた。泣きじゃくるピスカに声を掛けることなく、見守っていた。炎の光儚げに揺れる、室内の空気をピスカの言葉が満たした。

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