25-④




 と、読人たちが散々な目に合っている中、分断された他の面子は39+1人のゾンビに囲まれていた。


『お嬢チャンたちぃ~!』

『恨みはねェが!』

『ちょっと間、おネンネしてくれぇーー!』

「ハイ、分かりました」


 とても棒読みな嘘を吐くと、桐の手のトンファーが伸びてゾンビが三連で串刺しにされた。が、そこはゾンビなので、最初から死んでいるのでダメージの蓄積はなくさっさと立ち上がった。ゾンビの癖にやたら元気なのである。


「敵の【本】は『船乗りシンドバードの冒険』に『アラジンと魔法のランプ』。ゾンビの数は40人であることから、恐らくあの少女の持つ【本】のタイトルは『アリババと40人の盗賊』でしょう」

「逆に言えば、ゾンビは40人しかいないけど……倒しても倒しても数が減らないんじゃ、キリがないよ!」

『ぐわっ……もー! なにしてくれてんの!』

「くっついた!?」


 最初から死んでいるゾンビとはまあ便利なもので、夏月が薙刀で腕を切断されたゾンビは落ちた腕を拾ってギュっとつっくけたのだ。どんな身体の構造をしているんだ、一体。

 ラーレ、クミン、ライラの役割は最初から決まっていた。

 ライラが『アリババと40人の盗賊』で遊園地を封鎖し、『40人の盗賊』で人海戦術を仕掛ける。

 クミンが『アラジンと魔法のランプ』で遊園地内部を組み替え、更なる隠れ場と逃げ場を潰し、『魔法の絨毯』で縦横無尽に監視の目を向ける。

 そして、ラーレは『船乗りシンドバードの冒険』で自身をロック鳥にして、正面突破の肉弾戦を仕掛けるのだ。

 個人戦タイマンに持ち込めば怪鳥が、距離を取ろうとすれば魔法の絨毯が。そして、逃げ隠れしようなら人海戦術の盗賊ゾンビとかくれんぼになる。中々に上手くできているではないか、『千夜一夜物語』トリオ。

 だが、忘れてはいけない。

 トリオにとっての“敵”は、『竹取物語』だけではないのだ。


「一つ、気になることがある」

「奇遇ですわね、キリノ。わたくしも、違和感があります」

「え?」

「こっちは『アラジン』を……魔法の絨毯を潰そう」


 相手がトリオで、こちらが三つに分断されたのならばちょうどいい。こちらはこちらで動くとしよう。桐乃たちは狙いをクミンに絞ったが、ランプの魔人によって創り変えられて右も左もよく分らなくなった遊園地内において、彼を探し出すことが困難な状態だ。

 一方、お互いの面識があまりないまま一緒に分断された、ハインリヒと響平はというと。

 十数体の盗賊ゾンビに集中攻撃されていた。


『やれぇー! デカブツをぶっ潰せーー!』

『男だから思う存分やれるぜヒャッハーー!』

「なんか、微妙に世紀末っぽいゾンビが混じってない?」

「知るか! 兵飲みの大魚Fisch Allgemein!」


 巨大なスズの兵隊の背後に隠れてシャムシールを片手に特攻してくる盗賊ゾンビの攻撃を防ぐ中、光彩の鱗を持つ金属の魚が創造されれば、調子に乗ってスズの兵隊に飛び乗るゾンビを叩き落とす。

 自主的に三枚におろされた『兵飲みの大魚』が装着され、スズの兵隊・Meerフォームへと合体して水圧砲が発射された。


『ギャーー!』

『ビームとかズルイぞ!』

『ゾンビゲームの武器は大体ハンドガンだろうが!!』

「やかましい」

「すっげ。合体ロボットみたいだな~! もしかして、日本の特撮ヒーロー好き? 今やっている、ファイブナイツとか」

「まあ、嗜む程度に」

『怯むな! 次行け、次!!』

『疲れないのがゾンビのいいところだぞ!』

『テラブラック!』

「社畜しているところ悪いんだけど、白線の内側さ下がってくれない」

『え』

『命が惜しかったら、白線の内側まで、お下がりくださーい』

『構わねぇ! 行けーー!』


 既に死んでいるため、ゾンビの復活は早い。水圧砲に吹っ飛ばされても秒で戻って来る、見上げた社畜根性だ。

 再び向かって来る盗賊ゾンビたちの前に、星屑でできた光の路線が出現する。ご丁寧に車掌さんのアナウンスも流れたのに、注意喚起を無視して路線入り込んだら汽笛と共にやって来た『銀河鉄道』に盛大に轢かれた。

 全身複雑骨折した盗賊ゾンビの断末魔が木霊している……流石に、人身事故は痛かった。


「……言っただろ、白線の内側さ下がってくれって」

「お前、案外えげつないな」

「ん。俺、檜垣響平。確か、ハンリヒだっけ?」


 4月1日に『若紫堂』でお茶していた時に顔を合わせて、一応の自己紹介はしたが、きちんと顔を合わせたのは今日が初めてかもしれない。

 檜垣、響平……ハインリヒは「ヒガキ」の名前を、イーリスからもガーベラからも聞いていた。

 イーリス曰く、「軽薄な態度に騙されると、痛い目に合う」とのこと。

 ガーベラ曰く、「祖父に似ているなら、働き者で人当りの良い少年だろう」とのこと。

 色々と相反するお言葉を聞いていたが、容赦なく盗賊ゾンビを轢いた響平を目にして確信した。こいつ、敵に回したくない。

 どちらかというと、イーリス寄りの感想を抱いたのだった。


「ゾンビを操っている女! あいつの場所さえ掴めれば」

「あ、分かるよ」

「何で分ンだよ!?」

「これ」


 そう言って響平が見せたのは、黒曜石でできた円い地図だ。位置を知らせる『黒曜石の円盤地図』には、【読み手】の位置を知らせる宝石がチカチカと点灯していた。


「これ、お前が創造した能力か?」

「うん。俺が知っている人の位置なら、この地図で分るよ。俺とハインリヒがここ、この密集した三つは……桐乃さんたちかな。で、これが読人と火衣。多分」

「何でこの二つだけ高速で動き回っているんだ?」

「ソード・フィッシュにでも乗っているんだべかな」

「っ、待て。あいつらの位置も分るか?」

「うん」

「だったら、ゾンビの親玉を叩くぞ!」

「おー。あ、ちょっと待って。色を変えて分かりやすくする」


 分かりやすく色を変えた。

 桐乃を紫、ビルネを緑、夏月を青に。高速で動き回る読人を白にして、隣の小さな赤い光は火衣にした。響平本人はオレンジにして、ハインリヒは水色に色を変える。

『千夜一夜物語』のトリオはそれぞれピンク系統にして、ついでに盗賊ゾンビたちも黄色で散りばめてみたら、本当の天体のような地図となった。


「読人から離れないのがラーレで、1人で動かないのが……ランプの魔人と一緒にいた、クミンって奴かな」

「それなら、ゾンビの光の近くに密集しているのが」

「リラって子だな」

「行くか」

「行こか」


 以外な人物が攻略法を持っていた。

 いくら内部構造を入れ替えても、GPS並みの探知能力で居場所を知られたら迷宮も機能しないのである。

 ハインリヒと響平はリラを止めようと、ローズカラーで点灯する彼女の位置へと走った。彼らは、響平のこの能力は知らない……だからこそ、自分たちの位置を覚られているのも知らず、ラーレが生身で読人へちょっかいを出している以外はどうも好き勝手やっていた。

 フードコートに入っているファストフード店にて、クミンは勝手にドリンクサーバーを操作してコーラLサイズの氷少なめを注文し、電子マネー決済で料金を支払った。来場者もスタッフも全員追い出してしまったので、自分でやるしかない。


「日本のLサイズって小さいな。LLサイズってないの~?」


 日当たりの良い席でコーラを片手に。手にしていたトランクケースをテーブルの上で開くと、内部にはタッチパネルやらラップトップやらが詰まっている。

 手慣れた様子で画面をフリップすると、モニターには園内の光景がいくつも映し出された。


「他の【読み手】はリラに任せて、『竹取物語』はそろそろラーレが狩ってくれるかな……早く終わらないかな、余った時間で秋葉原と中野に行きたいんだけど」


 クミンが展開させたモニターには、ラーレによって集中攻撃される『ソード・フィッシュ』に、アグレッシブに攻め込んで来る盗賊ゾンビを蹴散らすハンイリヒと響平の姿が映し出される。更に、こちらに向けてピースをしてふざけるゾンビたちが映り込む……ゾンビ、真面目に仕事しろ。

 そのゾンビたちの親玉であるリラはというと、ゲームコーナーになる対ゾンビシューティングゲームに何度もコンテニューして遊んでいる。

 ゾンビゲームは好きなのに彼女の腕はイマイチだ、いつもリロードに手間をかけている。


「……あれ、あの3人は」


 映像の中に、桐乃、ビルネ、夏月の3人娘の姿が見えない。いや、それだけではない。クミンに資格情報を伝える映像の数が減っている。


「どうした、遊園地内のWi-Fiの調子が悪くなったか……いや、数が」


「数が減っている」クミンの口からその言葉が零れそうになったその刹那、彼の横を燕が飛んだ。

 風を切る音と共に飛翔した燕がテーブルの上に置いていたコーラを倒すと、クミンの意識は一瞬だけそちらに逸れる。

 飛ぶ燕は、持ち主の手の中へと還る。クミンの視界に入らないようにと、テーブルの下に潜んでいた夏月の手に飛び込んで来ると、貝の光沢を持つ刃の薙刀へと実体化した。

 狙ったのはクミン本体ではなく、足元。彼が座る椅子と、テーブルの脚をぶった切った。


「脛!」

「いつの間に! 魔法の絨毯は?」

「こちらです」


 夏月によって椅子もテーブルもぶった切られ、バランスを崩したクミンは地面に尻もちを着いた。

 上空を飛び回っているはずの『魔法の絨毯』まで仕事をしていないのかと、ビルネの声に振り返って目にしたのは、細い糸によって雁字搦めにされた多数の『魔法の絨毯』だった。

 糸を操っているのは、ケタケタと笑っている木製の人形だ。桐乃の能力である『歓喜のマリオネット』の糸が、アルレッキノとパンタロネの人形が糸で捕獲してしまったのだ。こちらに向けて、あっかんべーとお尻ペンペンをしてきている……非情にムカ付く。


「『アラジンと魔法のランプ』の物語、止めさせてもらいます!」

「う、うわぁぁぁぁ……って、なーんちゃって!」


 薙刀の切っ先がクミンに振り下ろされ、絶体絶命の危機に悲鳴を上げる……ような素振りを見せて、ニヤリと勝利を確信した。

 右手の中指に光るのは、赤い宝石の付いた金細工の指輪。


「指輪の魔人! ボクを助け……」

「桐乃さん!」

「……その能力、予想外だったよ」


 夏月の背後から飛び込んで来た桐乃のトンファーがピノッキオの鼻と同じように激しく伸びた様子は、彼女の口から出た言葉が盛大なる嘘であったことを証明している。

 勢いを付けて伸びたトンファーが指輪の宝石を砕き、そのままクミンの身体を突き飛ばした。


「え……何で? 何で、ボクの居場所が……何で、日本人のお前たち、が?」

「どうして、しっちゃかめっちゃかになった遊園地で、君の居場所を知ることできたのか。その答えは、地図を持っている人がいたから」


 トンファーを構えたままの桐乃が手にしていたのは、ビデオチャットに映った『黒曜石の円盤地図』。会話の相手は勿論、響平である。

 GPSの如く、リアルタイムで居場所を教えてくれる宝石の点灯を頼りにクミンの居場所を探り、襲い掛かって来る魔法の絨毯を糸で捕縛して襲撃しに来たのだ。

 そして、もう一つの「何で」……何で、クミンが指に嵌めていた『魔法の指輪』の存在に勘付いたのか。


「『アラジンと魔法のランプ』の物語。アニメには登場していないけれど、原典の物語には魔法のランプの他に魔法の指輪とその魔人が存在する。私だったらこう考えるよ、目立つランプを見せびらかして指輪は懐刀にするって」

「そして、この魔法の絨毯は貴方がたが持ち込んだ本物のドローンですね。こちらは、アニメには登場しましたが原典の物語に魔法の絨毯は登場しません」

「そうだったんだ」

「よく気付いたね。アニメが好きな日本人なら、騙されてくれると思ったのに」


 桐乃とビルネが抱いた違和感はそれだ。

 いくらアニメの印象が強くとも、実際に存在しないものを創造しようがない。想像しても、合体させることができても、ゼロから創造することはできないのである。

 本来ならば存在しないアイテムが創造されている。イコール、『魔法の絨毯』は【本】の能力によって創造されたものではない。クミンが手持ちのコンピュータで制御している、人工物のドローンなのだ。

 想像の能力ではなく、科学の能力だった。


「ちなみに、『千夜一夜物語』の一話だと思われていた『アラジンと魔法のランプ』だけど、最近の研究では中国発祥の物語とされている」

「ええっ! そうなんですか?」

「“アラビアン”ナイトでもありませんでしたね」

「……ピンポン、正解だよ。反射コーティングによる光学迷彩で、背景に溶け込むステルス機能付きの戦闘用ドローンだ! ボクの渾身の作品! 絨毯の模様には凝ったんだよ、凄いでしょ!」

「ドヤるな。要は欺こうとしたんだろうが」

「日本人なら騙せると思ったんだよ。けれど、ランプの魔人は本物だよ! 来て、魔人ジン!」

荒波の鯨鮫モンストロ!!」


 クミンの持つ魔法のランプに光が灯る。光の点滅に呼応して現れたランプの魔人を、飛沫と共に『モンストロ』が迎え撃つ。


「クジラを絡め取れ、魔人ジン!」

「攻撃だ、モンストロ!」


 伸びた魔人の腕がモンストロを締め上げ、クジラの大きな口からは魚雷の如き鮫が発射されて爆発が起きた。


「貴女だってアニメの混合しているじゃないか!」

「幼少期からの刷り込みだから、仕方ない。それより、自信作のドローン……返すよ」

「え?」


 クミンと魔人が同時に振り返ると、背後には糸に絡め取られた『魔法の絨毯』――もとい、クミン自信作のドローンが何機も。

 アルレッキノとパンタロネが「よいしょーっと!」と、地引網のように引っ張って振り回す。狙うは、魔人の後頭部……何機かがステルス機能の誤作動を起こしたドローンの群れによって、魔人の頭がぶん殴られたのだった。


『いったーーい!?』

「不意打ちは卑怯だよ!」

「卑怯もクソもあるか。協力プレイなんだから、動けるプレイヤーは動かないとね。飲み込め、モンストロ」

『あーーーん』


 海鳴り以上に野太い声と共に、鮫を吐き出し終わったモンストロが大口を開ける。がばぁっと、胴体の半分が裂けてしまった口はジェペット爺さんの船もピノッキオも、ランプの魔人さえも飲み込んでしまう猛獣の口だった。


『え……クミン様! 戻して! ランプの中に戻しっ……!』


 ばくんっ……!


『……げぇーーーっぷ。ごちそーさま』

「……そのクジラ、喋れたんだ」

「最近、喋り出した」

「それでは、降参していただけますでしょうか」


 豪快にゲップをしたモンストロに呆気にとられたクミンの首筋に、ビルネが構えるデリンジャーの銃口が触れる。

 彼の【本】を閉じれば、桐乃の勝ち。ランプが吐き出す煙に囲まれた、青年と二体の魔人の紋章は彼女の【本】に収納され、しっちゃかめっちゃかに配置し直された遊園地は元に戻る。


「降参はするけど、ボクの【本】を閉じていいのかな? 魔人ジンによって組み直された遊園地が元に戻れば、今、ジェットコースターに乗っているヨミヒト・クロモジはどうなるかなあ……コースターが空中分解して、放り出されるだろうな。それに、ボクの魔法の絨毯はまだ残っている。攻撃は止まらないよ」

「あれが制御しているコンピュータか」

「ナツキさん、どうでしょうか」

「え、こ、壊れてはいないみたい、だけど……」


 倒れたテーブルから落ちて、ひっくり返っていたトランクケース型のコンピュータは夏月が回収していた。

 画面が消えていたので、どうしたのかと電源スイッチらしきアイコンをタップしてみたら……ぐるぐると回る輪が出て来て、延々とぐるぐるローディング状態のまま、動かなくなっていた。


「フリーズしている!? 何したんだよ!」

「え、ええ……何もしていないよ!」

「素人の「何もしていない」は、絶対に何かいらない操作をしてぶっ壊しているんだよ! 絶対にメモリーを消すし変なプログラムのダウンロードは「YES」を選択している! ああっ! Wi-Fi接続が切れている! 墜落おちる!?」

「……ナツキさん。貴女、機械音痴だったのですね」

「ハイ! そうです!!」


 SNSをやらない理由は、それである。




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BOOK 中村 繚 @gomasuke100

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