25-③




 先ほど、彼らを不老不死という幻想を叶えるための、魔法使いの集団と表現した。しかし撤回する、あれは嘘だ。

 創造されたのは、怪鳥を素材に作られた武装。熱々の油攻めによって焼死した39体のゾンビ、プラス刺殺されたゾンビ1体。創造の元となった想像力を刺激された【本】は、どちらも魔法と幻想の物語……のはずなのに、目の前の光景は魔力の気配なんて感じない。思いっ切りリアルファイト寄りの能力だ。魔力の欠片も感じない。

 特に、『ロック鳥の長靴Roc the Boots』を履いたラーレが顕著だった。

 バイキングの揺れを利用してこちらに飛んできて、火衣を地面にめり込ませた人間離れした脚力はロック鳥の恩恵だ。煉瓦の地面を踏み抜いてあっという間に読人との距離を詰めれば、こんなのジャブと言わんばかりに、爽やかに足元を狙ってローキックを繰り出してきた。


「仏の御石の鉢!」

「おっと、防御かな」

「……『白山にあへば光も失するかと鉢(恥)を捨てても頼まるるかな』!」


 読人は既に『竹取物語』を手にしていた。

 咄嗟に、『仏の御石の鉢』で防御をしてラーレのローキックを防ぐが、少年に焦りの色は見られない。それどころか、ローキックの体勢から身を翻して回し蹴りを一撃、二撃。三撃目の前蹴りの反動で少し距離を取って飛翔し、踵落としという連続コンボを決められたのだ。

 まるで格闘・アクションゲームのキャラクターのような動きだ。彼自身が、手練れのプレイヤーに操作されているような錯覚も起きてしまう。

 実際、外見がそうだ。

 黒曜石のように艶のあるキラキラした大きな瞳がパチリと開いた、男らしさへ成長しきってはいない中性的な可愛らしい風貌。少女漫画の登場人物か、可愛い挿絵の入ったおとぎ話の王子様と言っても通じる。

 ビジュアル美麗で売っているゲームの、登場人物のような容姿……所謂美少年なのだ。ラーレという少年は。

 そんな可愛らしく、爽やかな笑顔を見せる少年が容赦なく蹴って来る。意識をしっかりと持て。彼は王子様ではない、ロック鳥の如き猛攻を繰り出す猛禽類だ。

 だが、ラーレが蹴りは全部で四撃……仏の顔も三度まで、三度の攻撃を防いだ『仏の御石の鉢』には仏様のビームという強烈なカウンター攻撃が待っている。

 石作皇子の句を叫んだ読人に呼応して石鉢は割れ、両目から怒りのビーム発射寸前の釈迦がラーレの前に現れる。

 踵落としの体勢から隙ができたラーレを狙って、そのまま直撃するはずだったが釈迦のビームは大きく外れてしまった。読人と大仏の足場が持ち上げられてしまったからだ。


「何だ、地震……?!」

「ラーレ、1人で突っ走っちゃあ駄目だよ。折角、ボクたち3人いるんだからね。お願いね、魔人ジン

畏まりましたナーム

「逃げろ読人! 分断させられる!」


 足場が揺れたのは読人だけではない。

 その場にいた全員の足場に光の亀裂が走ると、煉瓦の地面がパズルのように切り取られて宙に浮いたのだ。

 否、浮いているのは煉瓦だけではない。背後のホラーハウスも散々乗った絶叫マシンも、最後のお楽しみの役目を待っていた観覧車も、遊園地を構成するもの全てが切り取られて浮遊していたのだ。クミンの背後に現れた、煙を纏った緑の巨人によって。

 クミンの手にも白い【本】がある。想像力を創造力へと変える光と共にはっきりと姿を見せたのは、彼の傍らで存在感を見せる古びたランプ。どう見ても、アラビアンな例のランプである。カレーポットみたいな形をした。


「創造能力・ランプの魔人Lamp of Jinn……折角の遊園地なんだから、楽しくいこうよ」


 ランプの口から排出される煙のその先には、色が緑な以外は完全に見覚えがあるランプの魔人がいた。日本人がよく知る彼のように陽気ではっちゃけてはいないけれど。

 鋭く光る視線に、怪しく光る両手。浮遊するアトラクションが、煉瓦が、煉瓦の上に取り残された人間たちが、光る魔人の手の動きに合わせてしっちゃかめっちゃかに動くのだ。


「火衣!」

『ぐえ……串刺しにされた。昼のタピオカ、零れてないか?』

「お腹に穴、開いてないから! グロい! 怖い!」


 ラーレの蹴りにめり込んだ火衣を抱き上げたら、意外と無事だった。大丈夫、タピオカもチーズハットグも戻していない。

 分断させられる。桐乃の言葉どおり、魔人によって持ち上げられた煉瓦には読人と火衣だけだ。

 桐乃が夏月を引っ張り、彼女の行動を目にしたビルネも桐乃へと近付いて女性陣が一か所に密集する。

 ビルネ目配せをしたハインリヒは、巨大なスズの兵隊と共にその場を動かず。響平は、何となくの行動でハンリヒと合流したら「何でお前ここに?!」という反応をされた。

 仕方ないべさ、余りそうだったから。


「彼らのターゲットはヨミヒト・クロモジですね。どうやらワタシたちは仲間とでも思われているよう……お生憎様。別にチームでもありませんわ!」

「ビルネちゃん!?」


 弾丸を装填し直したデリンジャーを構えたビルネは、迷いもなくクミンを狙って発砲した。その様子は、先ほどのシューティングゲームで見せた時よりも鋭さを増した形相だ。

 だが、少女の掌に収まる銃の威力なんてたかが知れている、射程だって稼げない。ビルネだって威嚇射撃のつもりで発射した弾丸は、クミンの目の前で弾かれた……届かなかったのではなく、何か障害物のような物に命中してカン!と音を立てて弾かれたのだ。


「っ! 魔人以外にも、ナニかがいます!」

「せっかちだなあ。ヨミヒト・クロモジ以外は、眼中にないんだよ。魔法の絨毯Flying Carpet!」


 クミンが指を鳴らすと、障害物の正体が現れた。ナニもないところに色が落ちるように、風景の中から異国の模様が浮き出て来たのだ。

 ステルス機能でも搭載されているのだろうか、周囲に同化して完全に見えなくなっていたのは、ペルシャやアラブなどの模様が機体に描かれた空飛ぶドローンだ。しかも、銃口のようなものが搭載されているのが、何機もクミンの周りを旋回している。

 名前は『魔法の絨毯』。自在に飛び回り敵を追撃する絨毯が何機も、クミンが腕を振り下ろしたその瞬間に、お返しと言わんばかりに彼女たちの足元に銃弾を撃ち込んだの。


「うわっ?!」

「夏月さん!」

『読人、自分の心配をしろ!』

「え……」

「さあ、ランプの魔人。お願いだ、遊園地を創り変えて! アラジンの城を遠い異国の地へと持ち上げたように!」

畏まりましたナーム


 クミンの手にあるのは『アラジンと魔法のランプ』の白い【本】

 魔人が創造された時点で、もうタイトルなど覚られているだろう。だが、一応紹介しておく。

 原作のランプの魔人は、三つなんて上限もなくいくらでも願いを叶えてくれる。それこそ、巨大な城を持ち上げて遥か彼方の異国の地に移動させることも容易いのだ。

 魔人の光る掌がオーケストラの指揮をするように動くと、その動きに合わせてアトラクションもショップも、煉瓦の道に取り残された人間たちも魔人に振り回されて動き回る。そして、新しい姿に形成されるのだ。新しく陣地を創り上げられるかのように。

 ティーカップが噴水の中に浮かび、ホラーハウスはショップと直結してしまった。午前中に盛大に楽しませていただいた『ソード・フィッシュ』のコースは更に捻じ曲げられて、観覧車の輪を潜ってキリモミ回転をし始める。ゴンドラは勝手に動きだす。

 そして、『千夜一夜物語』の【本】を持つトリオの標的である読人は、火衣と共に標高高く持ち上げられる。

 下を見ると、地面が遥か彼方。後ろを振り向くと、眼光鋭い魔人の姿がこっちを睨んでいる。「次の願いは、ヨミヒト・クロモジを連れて来る」


畏まりましたナーム

「っ! 火針ひばり!」


 魔人の巨大な掌が読人を捕まえようと迫って来る。抱えた火衣をぶん投げて、背中から炎の槍が発射されて魔人の掌を貫いた。

『アラジンと魔法のランプ』から想像して創造された魔人でも、熱くて痛いのは分かるようだ。『火針』で貫かれた掌にフーフーと息を吹きかけて消火に当たっている。


『このままじゃいい標的だ。どうする?』

「ゴメン火衣!」

『え、嫌だ! また腹は嫌だ!』

「後で何杯でもタピオカ奢るから!」

『わぁーー!?』


 読人が考えていることが、火衣にダイレクトに伝わって来る故に彼の脱出方法を悟ってしまった。

 また、ぶん投げられる。今度は下だ。陣地が形成し直されて遊園地に向かってぶん投げられた火衣が、ボン!と最大サイズである軽自動車の大きさまで巨大化すると、背中から炎が吹き出て辺り一面は火の海になる……その火衣のお腹に向かって、読人はダイプした。

 炎の威力で勢いを弱め、火衣をクッションにして地上へと帰還。ラーレの蹴りだけではなく、読人の身体までもが火衣の腹にめり込んだ。

 ちなみに、ハリネズミの背中はトゲトゲしているがお腹はふわふわのモフモフであり、火衣も本物に準じてお腹がモフモフしている。ベストなクッションだった。


『タピオカだけじゃねぇ、豆花も付けろ。黒蜜のな!』

「次の予定は台湾カフェだね。来たよ!」

「うん、来たよ」

華炎車かえんぐるま!」


 来た。巨鳥の羽ばたきの幻聴さえも聞こえる、ラーレの蹴りが来た。

 レンガの地面を踏み抜いて、飛翔した怪鳥の踵落としが読人の頭上にやって来た。

 巨大な火衣が炎を纏った身体を丸くして、名前の通りに火炎車の状態で『ロック鳥のブーツ』と衝突すれば、バチバチと火花が散った。


「ヨミヒト・クロモジ、君本体に戦い能力はないんだ。創造したモノを召喚する、サモナーみたいな戦法だね」

「まあ、お手本としている人がたくさん召喚する人だから」

「勿体ないな。折角の能力だよ、自分が思い描くように想像すれば創造できるんだから、格ゲーみたいに戦って無双すればいいのに!」

「仏の御石の鉢!」

「あ、カウンターの能力だね。注意しないと」


 ラーレがブーツの脚でくうを蹴ると、鎌鼬のような風の衝撃が飛んで来た。

 殆ど無意識に『仏の御石の鉢』を発動させて防ぐが、「仏の顔も三度まで」のタネは先ほどバレてしまっている。連続的に攻撃しなければ、カウンタービームは怖くないのだ。

 あと、ラーレの猛攻も怖いが敵は正面の彼だけではない。もう一度言うが、『千夜一夜物語』のトリオだ。

 また、読人と火衣が浮いた。今度は身体そのものが持ち上げられた。


『よくも火傷させてくれたな』

「喋った!?」

『お前、「ナーム」以外も喋れたんだな』

『全知全能の魔人は喋れるわーい!!』


 キレ気味のランプの魔人に捕獲され、そのままぶん投げられた。よく見たら、『火針』で負傷させた手には包帯が巻かれて保冷剤が当てられている……手当、したんだ。

 ボスっと、少々乱暴に1人と1匹が放り込まれたのはカタカタと音を立ててレールを登るゴンドラ。その先が見えないのは、急転直下が待っているからだ。


「……ソード・フィッシュぅぅぅ?!」

『お前、今日何回目だぁぁぁ?!』


 本日何度目になるか分からないキリモミ回転へとご案内された。

 しかし、これは嫌というほど読人の身体に沁み付いたソード・フィッシュではない。傾斜角は90度どころか120度ぐらいまで抉れ、360度回転が三連続で待ち構えている。

 ランプの魔人の手によってバラバラにされ、しっちゃかめっちゃかに組み替え直して、ついでに色々追加して創り変えられたジェットコースターに強制乗車させられたのである。しかも、安全バーは下がっていない。


「安全バー! 安全バー!」

『座席に座れ! 次の回転で落ちる……っ、隠れろ読人!』

「魔法の絨毯!?」


 振り落とされぬようにと必死にゴンドラにしがみ付き、せめて正しい位置に乗車しようとしたが、読人と火衣の状態は彼らが思っている以上に無防備だった。

 目の前に現れたのは、銃口をこちらに向ける魔法の絨毯ドローン。身動きがとれないこちらに対してあちらは容赦なく撃ってくるので、間一髪でゴンドラの中に身を隠した。弾丸を弾く金属音を立てながら『ソード・フィッシュ』は最高時速120kmで走行し、三連続360度回転へ突入しようとしたら……目の前のコース上に、ティーカップが四カップほど並べられていた。

 よくみたら、リラが召喚した火傷ゾンビたちがせっせと運んで並べている。おいやめろ、コース上に障害物を置くな。そんな風に、「あーいい仕事したな!」とハイタッチをしながら、爛れた腕で良い汗を拭うな。あと3秒で事故る!


「ティーカップどけてぇぇぇーーー!!」


 世にも珍しい、ジェットコースターとティーカップの衝突事故が発生した。が、ジェットコースターがティーカップを蹴散らしてそのまま走行した。『ソード・フィッシュ』は強かった!

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