第12話 女の戦いはどこで決まるか


女の戦いとやらは三次元でも激しいようだ。


「可愛くて何が悪い!」

「自分で言ってんなよ!!」


ええ、もはや私が出る幕はほとんどござーません!

紺谷さんと、先ほどボールをぶつけてきた相手クラスの女子の一騎打ちですよ、一騎打ち! なんて某アイドル育成ゲームのメインヒロインのモノマネを脳内で展開しながら観戦している。


「スキあり!」

「うっわぁひょ!」


ファウルボールにご注意下さいとか、どこかに書いておくべき! ドッジだけど!

先ほどほとんど出る幕は〜と言ったのは、こうしてたまにこっちにもボールが飛んでくるから。


「桃子さん、ナイスキャッチです!」

「痛い……」


外野の方からノリちゃんの声が聞こえる。もう足の痛みは引いたようで良かった。

あとよく考えたら先ほどから外野にボールが飛んでいくことがない。ずっとコート内だけでボールが飛び交っている。


「モジョ子、ボール」

「はい、どうぞ」

「ありがと」


ボールを受けたあとは、素早く紺谷さんに渡す。私が投げたら100パーセントヒョロヒョロボールだからね。それなら力強く投げる紺谷さんに渡した方がまだ勝機はある。

いつの間にか、私と紺谷さんの勝負はどこかへ行ってしまった。今はクラスの勝利を掴むことが最重要事項だ。

それにしても……


「ブスだからって僻んでんじゃねーよ!」

「うるっせーよクソビッチが!」


もはや飛び交うのはボールじゃなくて完全に言葉の方が多く飛び交っている。女の子がそんな言葉遣いしちゃいけません! と、マイフェアレディのヒギンズ教授が飛んでくるレベル。あれは訛りだけど。

ノリちゃんなんて、どちらかが何か言うたびに内股のまま、アワアワしている。

紺谷さんは怒りを込めた言葉とボールを投げ続け、私は私で流れ弾を外に弾かれないように必死で受け止める。

僻むな、うらやましいだけだろ、私の方がかわいいのは当然、と紺谷さんが言うたびにあちらがわの女子は顔を真っ赤にして怒る。

もし私が自分で自分のことを可愛いと言っていたら速攻笑い者になる。でも、紺谷さんは違う。実際に可愛いのだ。生まれつきの美貌もあるが、何より可愛さを維持しようとする努力だって人一倍しているんだろう。

だからこそ堂々と、自分の可愛さを肯定する。そして相手はそれを聞いて怒る。同時にその怒りは、嫉妬していることを認めていることになるのだけど。


「いい加減にアウトになれよっ!!」


今までで一番大きな声で紺谷さんはそう叫んでボールを投げた。ファサッとジャージが翻る。チラリと見えたウエストはきゅっと引き締まっていて、それは紺谷さんがスタイル維持のために努力していることを証明していた。


「っ!!」


相手は紺谷さんの声と気迫に一瞬ひるんだ。

完全に受け止める体制に入るのが遅い!

今度こそーー!!

バチンっ!と激しい音を立ててボールは見事に相手の女子に当たった。

わあっと私のクラス側からは歓声が上がる。


「試合終了!」


ホイッスルの音が鳴り響き、一同は動きを止めた。転がるボールを、あちらの内野に残っていた子が拾い上げる。


「はあ、はあ……」

「も、もう動けない……」


へたりこみそうになるのを必死にこらえて整列する。いやほんと頑張ったよ! ボール受けすぎて腕が真っ赤になっている。めちゃくちゃ痛い。前半はボールを避けまくり、後半はボールを受けることに神経を集中していたので、心身ともに疲れた。

でも、最後に紺谷さんが決めてくれて良かった。


「……」

「……」


息を切らしながら私と紺谷さんは顔を見合わせる。目でお疲れ様と訴えると、紺谷さんもお疲れと返してくれた。多分。


「試合終了! D組の勝ち!」

「お疲れ様でしたー!」


まぁ、負けたんですけどね!

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