第11話 ドッジのルール、知ってる?
「きゃあ! い、痛いですー!!」
「ノリちゃーん!!」
ドッジボールが開始されて30秒。バチーンッ! と強烈な音を立てて、ボールはノリちゃんの右足を直撃した。もうね、音聞いてるだけで痛い。壁一面に好きな乙女ゲーのポスター貼り付けてた中学時代の私くらい痛い。今は5枚くらいに収めてます!
「アウトー」
「桃子さん、頑張ってくださいね!」
「うん!」
右足をさすりながらノリちゃんがコートから出る。ああ、真っ赤になってる……かわいそうに……顔はやめな、ボディーにしな、じゃないよ! ボディもだめ、絶対!
まぁそれじゃドッジボール成立しないけど!
「まずは一人」
不敵な笑みを浮かべる相手クラスの女子に、ぶるっと背筋が震える。これは、何人か殺ってるって言われても納得してしまう。
がたいが良すぎる。見るからに強そう。
「はあ? モジョ子もしかしてビビってんの?」
「す、少し」
「なっさけなー!」
そうだ、敵というか対戦相手は同じ陣地内にもいたんだった。同じ年のやつに何怖気付いてんの? と、心底呆れた声が聞こえた。
いや仕方ないじゃん! よく見て! 乙女ゲーによくある意地悪なライバルくらいに不敵な笑み浮かべてるから!
その後もうちのクラスは次々とアウトにされていき、気付けば私と、紺谷さんだけになる。
「ちょうどいいじゃん」
「な、なにが」
「モジョ子とあたしだけ残るなんてさ。勝負、忘れてないよね?」
その確認に、私はこくりと頷く。
まずい。どう考えても私が集中攻撃されるな、これは。どう見たってジャージのチャックをぎゅ! としてる見た目どんくさそうな私が狙われる。いや、実際どんくさいけど!
それに、私が同じ立場なら間違いなく私を選ぶ。カースト上位層狙うなんて高校生活捨てたも同然になってしまう。
「ま、頑張って逃げればぁ?」
「うう……」
紺谷さんもそれをわかっているのか、余裕を見せてくる。
けれど、相手の視線は、私を見ていなかった。
「私、紺谷のこと気に入らないんだよねっ!」
「は?」
ぽかんとした表情を浮かべたのもつかの間、ボールは私ではなく、紺谷さんの顔面めがけて飛んできた。え? もはや私なんて見えないほど存在薄い?
「ひゃっ!」
「紺谷さん!?」
可愛らしい声と、バシーン!という激しい音が混じり合う。かろうじて顔面直撃は避けたものの、ガードするためにあげた両腕にボールが当たり、そのはずみでボールは空高く舞い上がった。
「可愛いからって調子乗んなよ!」
「つーか大して可愛くねーから!」
なんでしょうか。
ヒロインが放課後校門裏に呼ばれて、キャラの取り巻き(非公式)に囲まれて浴びせられるセリフ集は。そんなセリフ集めたCD出てた?
紺谷さんは尻もちをついたまま、相手クラスの女子たちから浴びせられる言葉にぐっと唇を噛んでいた。
このまま、ボールが地面に到達したら紺谷さんはアウトになる。そして勝負は私の勝利だ。
でもーー。
「足引っ張んないでよね!」
あの言葉は、果たして本当に私への意地悪のみで発された言葉だろうか。
いや、違う。
「ピーコちゃん! ボールをキャッチするんだ!」
「……了解!!」
遠くから、レンっちの声が聞こえる。それを受け取ると、私は紺谷さんの方へと走り、空を見上げた。ボールはもう目の前だ。
「……ええいっ!」
「よし!」
「な、なんでモジョ子……」
パシッとボールを受け止める。レンっちが大きくガッツポーズをしているのが見えた。
ノリちゃんは、口元を両手で覆って目を見開いている。
バウンドしなければ、それはアウトにならない。
「だって、紺谷さん、勝ちたそうだから……」
そうだ。カーストNo.1の紺谷さんは負けず嫌いみたいだから。足を引っ張るなっていうのは、この球技大会で勝ちたいって気持ちの裏返しのはず。
まあ、あくまでもゲームで培った読心術だから三次元で有効かは不明。
「セーフ!」
紺谷さんが立ち上がるのを確認し、ボールを渡す。
「ごめん、私、ボールをキャッチするのと避けるのは出来るんだけどさ……」
そう言うと、紺谷さんは気まずい顔をしながらもボールを受けってくれた。
「ふん、これで借りを作ったって思わないでよね」
ふいと顔をそらすと、紺谷さんはすぐに相手クラスの女子を睨みつけた。
「さっき言った奴、覚悟しなよ」
紺谷さんの、元気玉が今ここにーー!!
違うか。
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