5-5


 それはまた、奇妙な二人組だった。


「あららー? 驚きすぎて、声も出せいのかしらー?」

「あれれー? 頭悪すぎて、理解できないかしらー?」


 まるで鏡にうつされた人形のように、よく似た背格好、よく似た髪型、よく似た顔をした二人の女性が、よく似た仕草と、よく似た声色で、よく似たことを言ってくる。


 それだけでも、こちらの頭が痛くなってきそうな光景なのに、もっと根本的な問題として、あの女性二人の服装が、二人揃って、まだ日も高い商店街では、どうしても浮いて見えてしまう、コテコテでフリフリなロリータというか、あえて好意的に解釈するならば、魔法少女みたいな恰好なのが、頭どころか、目に痛い。


 いや、俺だって、あの服装自体を否定するつもりは、毛頭ない。趣味は人それぞれだし、似合う人には、似合うだろう。ちょっと前まで、エビルセイヴァーのみんなも似たような恰好をして、マジカルセイヴァーを名乗っていたし。


 ただ、あの二人……、まだ若いと言われる年齢なのだろうけど、流石にそろそろ、そういう恰好はどうかと思うというか、ギリギリでいえばアウトなんじゃないかと、周りの人間が教えてあげるべきではないかなと思ってしまう程度には、違和感がにじみ出てしまっている。


 そう、オブラートに包まず、正直に言ってしまえば……。


「うわ、キツ」

「駄目よ、ひかりちゃん。本当のこと言っちゃ」


 ジト目のひかりと、気の毒そうに眉を寄せている樹里じゅり先輩の言う通りである。


「はあ~? 意味が分からないんですけど~?」

「ふ~ん? もしかして嫉妬してるんですか~?」


 いやしかし、あそこまでハッキリ言われたのに、めげないな、あの二人……。


 その辺りは、流石に八咫竜やたりゅうの最高幹部……、というべきか。


「えーっと、そっちの二人は、八岐衆やまたしゅう阿香あか華吽かうんで、合ってるかな?」

「あら、ちゃんと勉強してるのね。ヴァイスインペリアルの総統さん?」

「まあ、そのくらいは、当然よね。シュバルカイザーさん?」


 ふむ、昨日、竜姫たつきさんに聞いた情報の中から、二人組の女性で、ただ偉そうにしているという理由だけで予想してみたのだけれでも、どうやら正解だったようだ。


 そして向こうも、こちらのことを知っているとなると、話が早くて済む。


「わたしが、阿香! 心を奪う、魅惑みわくの魔法使い!」

「あたしが、華吽! 心を操る、蠱惑こわくの魔法使い!」


 さて、ご丁寧なことに、それぞれ自己紹介してくれた二人組だが、正直なところ、先に喋るのが阿香で、後から続くのが華吽ということくらいしか分からない。後は、髪を結んでいる位置とか、微妙に装飾品が違ったりする気もするが、まあ別に、そこまで躍起になって判別する必要もないだろう。


 というか、じっくり見て思ったけど、あれってやっぱり、化粧が悪いよなぁ。無理に若く見せようとしているのが分かってしまうというか、年相応に落ち着いたメイクにすればいいのに、あれではむしろ、服装から浮いてしまって、逆に老けてみえる。


 まあ、特に興味もないから、そんな忠告をしてやる必要も、ないのだけれど。


「あははっ! せっかく隠れてたのに、自分から出てくるなんて、おバカさん!」

「うふふっ! まさか、見つからないとでも思ったのかしら、おマヌケさん!」

「ああ、うん、そういうのは、どうでもいいからさ」


 どうやら向こうは、自分たちがおびされたことに気が付いていないようだけど、それもまた、教えてやる必要はないし、どうでもいいことではある。


「めんどくさいし、さっさとかかってこいよ」


 俺たちは、やるべきことを、やるだけなのだから。


「生意気! みんな、出てきて!」

「ムカつく! みんな、やっちゃえ!」


 こちらの態度に、どうやら怒ったらしい阿香と華吽が、声を張り上げた瞬間、周囲からぞろぞろと、複数の人影が現れた。


 あの二人が、俺たちの前に出てきてから、一般の人たちはどんどんと居なくなり、代わりに物騒な空気の気配が増えてきていたことには気がついていたので、こっちとしては、ようやくといった感じ、なんだけども……。


 なんだか、様子がおかしい気がする。


「…………」


 出てきたのは、甲冑を着込んだ見るからに凶悪な怪人と、まるで足軽のような装備の戦闘員で、それはまさしく、俺が以前見た八咫竜の構成員の姿に違いないのだが、なんというべきか、まるで生気が感じられない。


 戦闘員が黙りこくっているのは、悪の組織としてはお決まりだし、怪人にしても、上司である八岐衆がいるので、ひかえているだけだと考えることはできるけど、まるでゾンビのように、フラフラと揺れている様子からは、そんな問題ではないという異常な空気を、ひしひしと感じてしまう。


 ぶっちゃけ、ちょっと恐い。


「……まあ、やるだけやってみるか!」


 とはいえ、そんなことでおくしてはいられない。状況が不穏ならば、その原因を探ることこそが、今の俺たちにせられた使命なのだから。


「さあ、始めるぞ!」

「へっへーん! 分かってるわよ!」

「任せて、統斗すみと君!」


 戦いの準備を整えるために、ひかりと樹里先輩は、俺のそばから離れると、それぞれ右手を高くかかげて、叫んだ。


「マジカル! エビルチェンジ!」


 その瞬間、彼女たちの身体を、光の粒子が包み込んだかと思えば、二人は一瞬で、エビルセイヴァーへと姿を変える。


 よし、ここからが勝負だ。


「二人とも……、っていうか、イエロー! ちゃんと手加減しろよ!」

「大丈夫、大丈夫! よーし、やるぞー!」

「ふふっ、ちゃんと私が、フォローするわね」


 まったく、俺の話を聞いているのか、いないのか、エビルイエローこと黄村きむらひかり大先生が、いきなり飛び出してしまったが、しっかりと、その後ろを樹里先輩……、エビルグリーンが追ってくれたので、まあ、大丈夫だろう。


 今回の目的は、敵の殲滅ではなく、あくまでも情報収集だ。そして、場合によっては竜姫さんの元に戻れと説得する必要もあるので、今は戦闘を行う必要があっても、大きな怪我をさせるような、容赦ない攻撃をしてしまうと、健全な協力関係を築く上では、色々と不利益になることも多い。


 思い切り殴られた人間は、どうしたって、殴った相手を警戒するものなのだから。


「よっと」


 というわけで、俺はこちらに突っ込んできた戦闘員の一撃を避けながら、特に反撃することなく、さらに後ろから突き出された怪人の槍を掴んで、引き抜き、叩き折るだけにして、次なる攻撃に備える。


 このくらいの相手なら、むしろカイザースーツを使わない方が、やりすぎる心配もないので、安心して立ち回ることができそうだ。


「おい、あんたたち! 竜姫さんのことを裏切って、本当になにも思わないのか!」

「…………」


 とりあえず、彼らにとって耳が痛いだろう話題を直接ぶつけて、反応を見てみようと思ったのだが、まったく驚くくらいに、変化がない。


 なんとも機械的に戦闘員が振り下ろしてきた棍棒を弾き飛ばし、怪人の拳をいなしながら、俺の心の中の違和感は、どんどんと膨らんでいく。


 やはり、いくらなんでも、おかしい。例え納得尽くで裏切ったのだとしても、こうして問い詰められれば、開き直りにせよ、なんにせよ、必ずなんらかのリアクションがあるはずだ。


 しかし、この目の前にいる八咫竜の構成員たちからは、動揺どころか、僅かな心の動きすら、感じられない。


 これではまるで、木偶人形にでも話しかけてるみたいじゃないか。


「……ちょっと失礼!」


 こうなれば、仕方ない。悪の組織としては御法度ごはっとだけど、俺は近くにいた戦闘員を捕まえて、魔方陣で拘束し、そのマスクをいでしまう。


 そう、表情を直接見ることで、俺は少しでも相手の反応を確認しようとした……、ただそれだけ……、なんだけども……!


「――っ!」

「…………」


 その男性戦闘員のマスクの下を見てしまった俺は、息をむしかない。


 焦点が、まったく合ってない瞳が、こんなに近くにいる俺のことを見るでもなく、ぼんやりと中空を彷徨さまよい、うつろに開かれた口からは、ただ吐息だけが漏れるのみで、ぽっかりと弛緩しかんしてしまっている。その様子は、あきらかに尋常ではない。


 というか、ハッキリ言って、恐い! ホラーかよ!


「あらあら、なによ、押されてるじゃない」

「ほらほら、もっと、頑張りなさいよ」

「…………あー」

「くっ!」


 阿香と華吽の不満気な声に反応して、なんとも気が抜けたうめき声を上げながらも、妙にキビキビとした動作で、捕まえた戦闘員が暴れ出したのに驚いてしまって、反応が遅れてしまった。


 俺は背後から迫っていた戦闘員のキックを、ギリギリで避けつつ、周囲の戦闘員や怪人から、微妙に距離を取る。


 ここまで見れば、八咫竜構成員たちの異常な様子の原因は、丸わかりだった


 でも、だけど……、いやいや、マジかよ……!


「……これは、お前たちの仕業か!」

「あははっ! そうよ? 決まってるじゃない!」

「うふふっ! なによ? 怒っているの?」


 八咫竜の……、自分たちの仲間を、まるで生けるしかばねのようにしたと白状しているというのに、阿香も華吽も、ちっとも悪びれた様子を見せない。


 その姿には、怒りを通り越して、呆れすら感じてしまう。


「悪いのは、こいつらよ? 黒縄こくじょう様には、ついていけないなんて言うから」

「悪いのは、こいつらよ? 黒縄こくじょう様に、逆らおうとするなんて」


 ……あー、なるほど、なるほど。俺にはサッパリ理解できないけれど、どうやら、それが彼女たちが凶行におよんだ理由らしい。


 というか、やっぱり微妙に人望ないのか、あの男……、と言ってやりたいけれど、今はそれどころではない。


 裏切り者の八岐衆から語られたのは、こちらにとって、かなり重要な情報だ。


「だから、わたしの魅力で、骨抜きにしてあげたの!」

「だから、あたしの魅力で、素直にしてあげたの!」


 なにを調子に乗っているのか、阿香と華吽はべらべらと、自分たちにとって致命的な証言を続けているが、俺からしてみれば、特に止めてやる義理はない。


 つまり、八咫竜の戦闘員や怪人たちをおかしくしているのは、この二人の超常能力というわけだ。


「でも、彼らもきっと幸せよね? だって、これからずっと、死ぬまでわたしたちの役に立てるんだから。ねえ、華吽?」

「でも、彼らも絶対、幸せよ? だって、これから永遠に、壊れるまであたしたちの下僕げぼくでいられるんだから。ねえ、阿香?」


 実に悪の組織の人間らしく、自らの悪事を得意気に語るのはいいのだが、その派手な服装が、あんまり似合ってないというか、正直浮いてるせいで、なんだかとっても残念というか、滑稽こっけいな感じですらあった。


 思わず、目をらしてしまいたくなるくらいには。


「あははははっ!」

「うふふふふっ!」


 うわっ、はじ外聞がいぶんもなく、笑ってるよ……。


 正直、痛々しくて目をそむけたくなってしまうけど、そうもいかない。いやむしろ、より目を凝らして、注視する必要がある。


 肝心なのは、ここからだ。


「さあ、それじゃあ、あんたも、わたしたちを愛しなさい!」

「さあ、それじゃあ、あんたも、あたしたちに溺れなさい!」


 不敵に笑った阿香と華吽が、それぞれ奇妙なポーズをとった瞬間に、普通の人間はもちろん、熟練の強者でも目視するのは困難なほどに極細な魔素エーテルたばが、二人の身体から、まるで蜘蛛の糸のように伸びてきた。


「いや、俺もう、好きな人が一杯いるんで、ノーサンキューです」


 とはいえ、俺にはそれが、


 その不気味な糸は、かなりの速度で迫ってくるが、この程度ならば、問題なんて、あるはずがない。俺は魔方陣を展開して、周囲の魔素に干渉することで、軽い衝撃波を飛ばし、その全てを破壊する。


 どうやら、細いだけあって、あの糸は、かなりもろいようだ。


「なっ!」

「なっ!」


 それ見た阿香と華吽が、二人揃って驚いてこそいるけど、追撃はしてこない。次の手がないのか、それとも動揺してるだけなのかは不明だが、どちらにしても、こっちにも時間的な余裕が生まれて、ありがたい。


 俺はこのすきに、両目に込めた力をゆるめて、自分自身の様子を確認することにする。


「なんで!」

「どうして!」


 そんな、馬鹿みたいに聞かれても、敵である二人に、わざわざこちらの手の内を、懇切丁寧に教えてあげる義理はない。


「悪いけど、俺はあんたたちより魅力的な女性を、たくさん知ってるからな。まあ、そのせいじゃないか? ハッキリ言って、全然趣味じゃないし」


 俺は適当なことを言いつつ、軽く周囲を見渡してみるが、視界がぼやけたり、目の奥が痛くなったりするような自覚症状は、出ていない。


 敵の攻撃を見極みきわめるために、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまから得た力を使ってみたのだが、少しづづだけど、感覚が分かってきたぞ。


 やはり、一回目より二回目、二回目よりも三回目。数をこなせば、コツも掴める。大事なのは、可能な限り、見る対象を絞ること。そして、その対象から得る情報を、さらに極限まで、限定すること。


 イメージとしては、メガネというよりも、カメラのピントを合わせるような感覚と表現した方が、近いだろうか。あくまでも、個人の感想だけど。


「俺が愛する人は、俺が決めるから、余計なお世話は、お断りってことで」


 ラッキーだったのは、あの二人が自分たちのことを、魔法使いなんて名乗っていたので、一応の保険として、魔素に的を絞っていたら、たまたま正解だったことか。


 というか、こちらをまどわすブラフかとも思ったのに、そのまんますぎて、逆に驚きである。まったく、どういう危機管理能力をしてるんだ。


 と思っても、俺は別に、注意したりはしてやらない。だって、敵だし。


「このっ! 生意気言って! だったら、こっちよ!」

「もうっ! 許さない! これなら、どうよ!」


 再び俺を狙っても、無駄だと判断したのか、怒りに顔を歪めた阿香と華吽は、周囲の敵を牽制けんせいし、かき乱し、倒さずに抑止していたエビルセイヴァーの二人に、標的を切り替えたようだ。


 髪の毛よりも細いのに、ゾッとするほど繊細に編み込まれた魔素の糸が、うねうねと気味の悪い軌道を描きながら、獲物に迫る。


 おそらく、あの極限まで研ぎ澄まされた糸に触れられたら、阿香と華吽が支配する魔素に精神を侵食されて、奴らの操り人形になってしまうのだろう。


 だけど……。


「うん? なんか引っかかった? 気のせい?」

「あら、なにかしら? まあ、今はどうでもいいわね」


 その接近にすら気付いていないイエローとグリーンに、悪意の塊のような蜘蛛の糸が触れようとしても、全て無残むざんはじかれ、霧散していく。


「うそっ!」

「なにあれ!」


 必殺だったはずの攻撃が、またもや呆気あっけなく防がれて、八岐衆の二人が愕然がくぜんとしているけれど、俺にはこうなることが、最初から分かっていた。


 エビルセイヴァーのコスチュームは、伊達や酔狂で作られたわけではない。いや、あの雰囲気とか、造形なんかは、製作者の趣味が多分に入っているけども、そもそもは装着した人間を強化し、守ることを目的としている。


 なので、あの衣装には、稀代きだいの天才発明家であるマリーさんが製作したバリアが、標準的に搭載されており、ある程度の攻撃ならば、自動で防ぎ切ってしまう。


 本来ならば、魔素は科学的な見地からでは、観測すらできないのだが、マリーさんにとっては、そんなこと関係ない。観測できないというだけで、存在はするのだからといって、魔術のスペシャリストであるけいさんに協力させて、物理的な攻撃だけではなく、魔素を使った攻撃に対する耐性も、完備させてしまったのだった。


 とはいっても、そのバリアも、決して絶対無敵の障壁というわけではない。やはり許容量を超えた攻撃を受ければ、当然ながら、破られてしまう。


 つまり、言ってしまえば、あの阿香と華吽による攻撃は、もろすぎるのだ。


 相手の心を奪い、操るという効果は、確かに強力で、凶悪だけど、あんな納豆の糸みたいな、ひょろひょろとしたアタックでは、マリーさん印のバリアを貫くなんて、不可能だと言い切れる。


 とはいえ……。


「こうなったら……!」

「数で押し切る……!」


 さらに表情を硬化させ、まるで悪魔のような形相になった阿香と華吽が、その腕を振るうと同時に、魔素の糸が蠢き、より多くの戦闘員や怪人を、まるで湧水わきみずごとく、この場所へと引き寄せ始めた。


 流石に、ここまでの人海戦術でこられると、相手を無傷で制圧するのは、難しくなってしまう。


「まあ、こんなもんか」


 冷静に考えて、今の俺たちだけでも、阿香と華吽を倒すことは可能だと判断する。


 だけど、下手に倒すことで、あの二人に操れている八咫竜の構成員たちに、どんな影響が出てしまうのか、分からない。


 この目を使っても、あの糸が相手の精神に作用し、操作する効果を持つことまでは分かるのだが、それを不正な手段で立ち切った場合、なにが起こるかは、どうしても賭けになってしまう。


 捕らわれた精神が、開放されるのか、それとも崩壊していまうのか、確信を持って安全だと言い切ることができない以上、迂闊うかつ真似まねはできない。


 ようするに、潮時しおどき、というわけだ。


「二人とも、そろそろ帰るぞー!」

「は~い! お仕事終わり~!」

「うふふっ、お疲れ様でした!」


 そうと決まれば、さっさと撤収してしまおうと、俺はイエローとグリーンを近くに呼び寄せて、退路を決める。


「あっ、待ちなさい!」

「くっ、逃がさない!」

「はっはっはっ! 逃げる? 違うな! 俺たちが、見逃してやるのさ!」


 こちらの動きに反応して、阿香と華吽が騒いでいるが、もう遅い。俺は適当な啖呵たんかを切りながら、とっとと次の一手に打って出る。


「――グリーン!」

「了解! マジカル! フォーリッジ・シールド!」


 細かい指示などしなくても、俺の意図をしっかりとさっしてくれた先輩が、周囲の風を操って、この場に集まっていた怪人や戦闘員たちを、一箇所に集めると、その周囲を強固な防壁でおおってしまう。


「あぐっ! 狭い!」

「ううっ! 動けない!」


 まるで満員電車のような密集地帯の中心に、いきなり放り込まれた阿香と華運が、ジタバタもがいているが、あそこから抜け出すのは、至難の業だろう。


 さあ、これで準備は整った。


「――イエロー!」

「はいはい、お任せ! マジカル! カナリーフラッシュ!」


 トドメとばかりに放たれた、エビルイエロー必殺の閃光によって、太陽のおかげで明るかった商店街が、さらに激しい光に包まれる。


「あーっ! まぶしい! 見えない! ムカつく!」

「うーっ! しびれる! 動かない! 大っ嫌い!」


 イエローのフラッシュには、相手の視力を奪うだけではなく、視神経を通して脳を揺さぶり、一時的に相手の動きを封じる効果があるので、ただでさえ使い勝手のいい技ではあるけれど、こういう場面では、尚更なおさらにありがたい。


 これでもう、後は安全に逃げ去るだけだ。


「それでは、さらばだ! 暇つぶしには、丁度よかったよ! はははっ!」


 俺は悪の総統らしく振る舞いながら、一応こちらの本当の目的を隠すために、さらに適当な理由をでっち上げつつ、ちゃんと周囲の安全を確認しながら、きびすを返す。


 さあ、予想外ではあったけど、必要な情報は手に入れたことだし、ここからは仲間たちと話し合って、今後の対応をるべきだろう


「帰ったら~、お昼~、お昼~!」

「もう、ひかりちゃん、まだ気を抜かないの」

「そうだぞ、樹里先輩の言う通りだ。ちゃんと隠れ家に帰るまでが、任務なんだぞ」


 というわけで、俺は愛する二人と共に、愛するみんなが待つ、愛の城へと向けて、スタコラサッサと逃げ帰るのだった。


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