第369話 大阪市中央区西心斎橋のねぎラーメン

「なるほど、こういうホラーか」


 仕事が終わった後。心斎橋で『整形水』を観た帰りである。


 行き過ぎたルッキズムの被害者が、容姿を美しく変えてくれる整形水に手を出して……という、古典的な怪談のようなテイストの御華詩。ラストは予想外になりつつも、なるほど、と思わせられた、ということである。


 映画で心は満たされたが、


「腹が、減ったな」


 物理的に胃の中は満たされていない。


「何か、喰って帰るか」


 普段余りこない方面である。少し疲れ気味なので、体力の回復によいものがいい。


 となると、


「ニンニク、か」


 とはいえ、マシマシするほどの空腹でもない。欲をかいてはろくなことにはならないだろう。


「あ、あの店があったか」


 普段は別の場所でいく店が、確かこの近くにあったはずだ。劇場から西へ向かい、


「確か、この辺に」


 北へ向かうと、


「あ、あったあった」


 記憶通り、目的の店があった。


 店内はそれなりに客は入っているが、空きもある。見ている間に人が出てきて、入っていく。


 回転が早いのだ。


 乗り遅れてはいけない。


 さっと店内へ入り、食券機へ。


「よし、ねぎだ」


 と、即決したのだが、どうにも最近、ねぎをラーメンに入れたくなってしかたない。習慣付いた衝動のせいだろうか?


 店員に案内されたカウンター席へつき、食券を出す。


 味の濃さと麺の固さを問われるので、


「濃いめ、固め」


 で通す。


「あと、にんにくを二人前」


 と本題も忘れない。


 後は待つばかりとなれば、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。今日からロザリーメインのアイテム集めイベントが開始するようだ。リリーが来るかは解らないので聖霊石は温存しつつ進めるか、と考えている間に、麺上げの気配。


 さすがに、早い。


 ゴ魔乙を終了すると、まずは揚げニンニクがやってくる。


「うんうん、いいねぇ」


 一つつまめば、ホクホクの揚げ具合。にんにく臭がありながらも、香ばしさ、甘さも感じられる。


 ついでに、席にあるキムチを器によそったところで、麺がやって来る。


「ねぎだ」


 白髪ねぎに、刻みねぎがたっぷり。更には薄切りながら丼の表面をほぼ覆う大きなチャーシューが一枚。茶色いスープの中には、細麺。


「いただきます」


 ずるっと、麺を啜れば。


「久々の細麺だなぁ」


 パツンパツンと口内で切れていく感触が心地良い。纏った背脂醤油味もよき。絡んでくる白髪ねぎと刻みねぎの風味も嬉しい。そこを更にキムチで追い駆けるのもまたよし。スープに入れてしまうと、味が変わるので、別に喰らうのがいいだろう。


 ほくほくのにんにくを摘まみ、チャーシューをほどよく噛み。


 あっという間に、麺はなくなってしまう。


 だが、大丈夫。


「替え玉おねがいします」


 この店は、替え玉一玉無料なのだ。


 固めで頼めば、出てくるのも早い。


「おっと、少し塩でいただくか」


 卓上の替え玉用塩なるものを振り掛けてそのまま喰らう。


「ああ、魚介の風味」


 これはこれで旨い。だが、やはり、スープに入れねば。


 だばっと丼に空けて、少しほぐし。


 再びパツパツの食感を楽しんでいけば。


「もう、終わりか」


 そもそもサクッと喰うタイプの麺だ。こういうサラッと済ませるのが似合うだろう。


 丼に残ったスープをグイッと飲み干し。


 最後に水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 店を後にする。


「さて、少し歩くか」


 すぐそこに心斎橋駅があるが、難波駅へと向け、南に進路を取る。

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