第333話 大阪市中央区日本橋の豚Wラーメン(並ヤサイマシマシニンニクマシマシカラメ魚粉)

「どうにも疲れが残っているな」


 週末に少々活動しすぎた。

 

 しっかり眠って回復させたと思っていたのだが月曜日の仕事を終える頃にはヘトヘトになっていた。


 こういうときは。


「しっかり喰って帰ろう」


 そういうわけで、御堂筋線なんば駅の南側から出て、なんさん通りを越え、道具屋筋に入り、少し南に行って東へ折れ、次の角を南へ、東へ、そして、少し北へ向かえば目的の店はあった。


「おや?」


 いつもなら開店直前の時間のはずだが、既に開いている。


 店頭の張り紙を見れば、このご時世に合わせて営業時間が変更されているようだ。どこも大変だな。


 待たなくていいのはありがたい。速攻で入り、食券機の前に。


「この疲れ……肉がいる」


 ということで、いつもと違って豚Wの食券を購入して、アクリル板で区切られたカウンター席へと着く。


 食券を出せば。


「麺の量は?」


「並で」


「ニンニク入れますか?」


「ニンニクはマシマシで。あと、ヤサイマシマシカラメ魚粉で」


 とサクッと注文を通せば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。現在は、イースターのイベントだが、特に焦ることもなくのんびりと楽しんでいた。


 軽く出撃を済ませたところで、注文の品がやってくる。


「ふむ、こうなるか」


 周囲を少し空けて中央部分が高く盛り上がった野菜の山。頂上を彩る魚粉が趣深い。麓には、大量のニンニクと、豚、豚、豚の肉塊。


 Wだけのことはある。


「いただきます」


 野菜を頂上から慎重に取り、スープに浸して喰う。


「優しい味わい……」


 豚の出汁と魚粉が交わって、和の味をなしていた。混ぜていない上澄み部分のスープなので醤油も立っていないからこその味わい。これは、序盤しか味わえないものだ。


 そのまま、野菜を食い進み、スープを混ぜていけば醤油の味が行き渡り、隙間から引っ張り出した麺を啜れば、なんだか生き返る。


 続いて、豚だ。


 ギュッと締まった身を囓ると豚の素朴な味。スープに絡めて、出汁を纏わせれば旨味が追加されてよい。


「こうするのもいいよな」


 胡椒と一味をぶっかけて喰らえば、具材というより、トンテキだ。


 食い応えがある。


 これは、疲れが癒えるに違いない。


 麺を引っ張り出して天地を返し、豚を沈めて出汁と再度組み合わせ、たっぷりのニンニクのパンチをプラス。


 そうして、麺を囓り、野菜を食み、豚を喰らう。


 ああ、生きている。


 バンバン脳に叩き込まれる多幸感。


 食の喜び。


 貪り喰うことは、時に必要だ。


 体力のゲージの点滅が止まったのを感じる。


 豚を増量したお陰で、いつもより満腹感が来るのが早い。


 だが、いける。


 体力が回復したから、喰えるのだ。


 豚だ、豚になれ。


 白いマットのジャングルに今日も嵐が吹き荒れそうな勢いで、喰らう。


 貪欲な腹の虫がほくそ笑む。


 大丈夫。


 そうして、気づけば。


「終わり、だな」


 野菜と麺の切れ端が残るだけのスープが、目の前に。


 少しレンゲでおいかけ。


 最後に水を一杯飲んで一息。


「ごちそうさん」


 いつもより少し大きな満腹感を抱え。


「少し、歩くか」


 オタロードへと足を向ける。


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