第305話 大阪市西区江戸堀の辛つけ麺(大)

「疲れた……」


 どうにも仕事が忙しいというか、なんというか。


 疲れに苛まれながら職場を出たものの、帰って食事を用意する気力もなし。


「何か喰って帰るか」


 ふらふらと、夜の街へと。


 なんとなく歩いていると、肥後橋方面に出ていた。


 この辺りなら、つけ麺だ。


「久々に、行ってみるか」


 四つ橋筋を越え、一つ奥の道へと入る。


 かつてはアーケードがあり、日本一短い商店街と呼ばれていたが、今は商店街としては残っているのだろうか?


 そんなことを考えさせられる一角に目的の店はあった。


「呑み、か」


 つけ麺専門店ではあるが、今ではラーメンもあり、呑み用の一品物メニューも幾つか。これが、時の流れだろうな。


 そんなことを考えつつ店内に入れば、時間も半端なので先客はなし。


 適当なカウンター席に付いて、メニューを眺める。


 色々とあるが。


「辛つけ麺、大で」


 とオーダーする。かつては辛黒味噌つけ麺というのがあってヘビーローテーションしていたのだが、なくなって久しい。少しでも近い、辛つけ麺だ。


 注文すれば後は待つばかり。『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在は、プルメリアのターンでアクティブポイント稼いで報酬のレアリティを上げて行くタイプのイベント。今回の対象はカレン・ダチュラ・プルメリアだが、早々にリリーの出番は終わったので頑張らない……はずが、新しいリリーのガチャが登場し、確定枠2回目でまさかの4枚抜きで限界突破マックス。


 ゆるゆると、それでも稼いで進めていた。


 そんなこんなで出撃をしてアクティブポイントを稼いだところで、注文の品がやってきた。


「ああ、これだなぁ」


 濃い黄色の麺は太く艶々。一枚海苔が乗っている。つけ汁はいい感じに赤く、刻みネギとメンマが浮き、チャーシューが一枚沈んでいる。中央にわだかまっているのは、魚粉か。


「いただきます」


 ツルツルの麺を汁を潜らせて食う。


「ああ、この味だ……」


 魚介の風味と獣系の出汁の旨味。よくあるつけ麺とはやや方向性の異なるこの味が、やはり、いい。今は無き辛黒味噌つけ麺も、大元はこの味だったのだから。


 適度に葱が絡んでくるのもいいアクセントだ。


 ズルズルと麺を喰い進み。


 頃合いを見て。


「玉葱をください」


 と店員に声を掛ける。傷まないように冷蔵されている薬味の玉葱だ。


 蓋付きの壺に入れられたそれを受け取ると、早速備え付けの匙ですくい上げ麺の方に混ぜ込む。


 スープに入れると、一気に冷めるからだ。


 麺に絡めて喰うと、冷める速度を抑えることができる。


 経験によって学習したことは、いかさねばなるまい。


「玉葱、いい」


 風味がいい仕事をするだけでなく、免疫を高める効果もあり、これからの季節にもいいだろう。


 シャキシャキした歯応えも楽しみながら、ズルズルと食す。


 ときおり、沈んだチャーシューを囓って豚の味わいを加えるのもよい。


 メンマのコリコリした歯応えも、楽しめる。


 一枚の海苔も、ここぞで投入して味わう。


 そうして、麺をズルズルいけば。


「あ、もう終わりか」


 麺の丼は空だった。


 一心に喰えば、こんなものか。


 だが、まだ終わりではない。


「スープ割りをください」


 再び店員に声を掛ければ、ポットを持ってきてくれる。


 そこから熱々のスープをつけ汁に加える。


「ふぅ、温かい」


 冷めたスープが再び温度を取り戻し、鶏ガラの優しい風味も加わる。


 温度を一頻り頼んでから。


「玉葱、追加」


 壺から存分に注げば、玉葱スープのできあがりだ。


 シャキシャキムシャムシャと飲むというより食い進め。


 最後の最後まで追い駆け。


 つけ汁を空にし。


 水を一杯飲んで一息入れ。


「ごちそうさん」


 会計を済ませて店を後にする。


「さて、帰るか」


 駅へと、向かう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る