第274話 大阪市天王寺区舟橋町の辛口炙り肉ソバ『醤油』大盛+唐揚げ+野菜トリプル

「思いの外、早く予約が取れたな……」


 世間が少しずつ折り合いを付けて動き出す頃。

 定期的に受けている検査を受けるべく、上本町の病院に予約診察に訪れていた。


 流石にこのご時世、空いていたのでサクッと予約が取れ来週末には検査が受けられるということだ。


 その、帰り道。


「腹が、減ったな……」


 昼を軽めに住ませたので、腹の虫が騒ぎ始めていた。


 家に帰るまでは、我慢してくれそうにない。


「せっかく出てきたし、どこかで喰って帰るか」


 坂を上るよりは下ろうと、鶴橋方面へ降りてきていたのだが、この界隈は麺屋が豊富だ。


 そんな中で、


「そういえば、長らく行ってなかったな」


 ふと、思い出した店があった。


 鶴橋駅に向かう途中、特徴的なフォントで店名を記した赤いテントがあった。


「少し並ぶ、か」


 このご時世、完全に満席にならないように運用しているようだ。


 だが、開店は早そうなので、そのまま待合のボードに名前を書いて待つことにし、『ゴシックは魔法乙女~さっさと契約しなさい!~』を起動する。


 現在は、ラナンの物語。相変わらずメインシナリオはハードだなぁ、などと想いつつとりあえず確定リリーのガチャは回したので順調に出撃してアクティブポイントを稼いでいると、すぐに席が空いた。


 店内に入り、店員がしっかりと消毒作業を行ってくれた席に付いて一息つく。


 久々で少々店内の様子が変わっているので店員の話を聞いていると、


「旨辛ホルモンまぜそば! そういうのもあるのか!」


 どうやら、今日からの限定メニューらしい。


 結構引かれるが、しかし、久々なのもあって、メインが喰いたい気持ちがかった。トッピングも色々増えているので吟味しつつ。


「醤油、辛さはレベル4で。あと、唐揚げと野菜トリプル追加で」


 という感じにする。以前は山椒とにんにくの量も選んだ気がするが、現在は両方とも卓上に準備してあって自分で調整できるのが有り難い。


 あとは待つばかり、ということでAP切れまで出撃し、後は異世界転生したTRPGプレイヤーが子供の頃からデータマンチなビルドをしていく小説を読んでいると、注文の品がやってきた。


「これは、豪勢だな」


 トリプルにした野菜やもやしとキャベツ。こんもりと盛られて、その上には刻みネギが惜しみなく降りかかっている。更に、辛味追加分の唐辛子のパウダーが一角を一足早い紅葉の山肌のように染めている。


 麓には、角煮状の大ぶりのチャーシューが鎮座し、豚バラ薄切の焼き肉も結構な量が盛られている。肉ソバの名に恥じない量だ。


 そこに加えて、掌大の大ぶりな唐揚げが斜面の三分の一ぐらいを占拠しているのが壮観だった。


 麓に覗く赤黒いスープが食欲を掻き立てるのに任せ。


「いただきます」


 箸でまずはモヤシをスープに浸して喰えば。


「おお、うま、から……」


 醤油と唐辛子の風味が前面に出た、スープにもやしが滅法あう。いや、もやしだけじゃない。キャベツはその甘みとスープの辛味の絡みが絶妙だ。


 そこで、唐揚げを囓る。


「おお、コッテリ」


 サクッとした衣はしっかりと鶏の脂の旨味を含んで濃厚。天ぷらそばの天ぷらのような衣の旨味が効いている。このままサクッと行くのも、スープを含めるのも、どちらもいけそうな味わいだ。


 ついで、チャーシューを囓れば、豚の脂の甘み旨味がしっかりと。これも、旨辛スープとのバランスが最高だ。


 ある程度喰い進めたところで、天地を返して麺へと至る。


 太いストレート麺は、しっかりとスープを吸って食べ応えも旨味もバッチリ。


 これで、一通り味わった。


 確かに、十分旨い。


 だが、だ。


 まだ、いけるはずだ。


 というわけで、備え付けのニンニクをマシ……スプーン一杯放り込み。

 

 更に、パラパラと山椒を振り掛ける。


 軽く混ぜて、頂けば。


「これは、汗が、止まらないな……」


 ニンニクのパンチが加わり、山椒の痺れが別の方向からケリを入れてくる。唐辛子だけでもガツンときたが、今はもう、刺激のラッシュだ。


 だが、それがいい。


 麺を豚を野菜をモリモリと食う。時々紛れ込んでいるぶつ切りキャベツの芯が箸休めだ。これ、マジで旨いな。


 反面がスープに浸った唐揚げも、サクッとした表面とじゅわっとした背面のハイブリッドで楽しませてくれる。ここまでくると、素直な薄切り豚バラ肉さえ箸休めだ。


 しっかり辛い。だが、旨い。


 これ、いいぞ。


 代謝も抵抗力も爆上げだ。


 モリモリと食えば、口内に満ちる刺激と旨味。


 咀嚼し飲み込む満足感。


 ああ、生きている。


 食を楽しんでいる。


 命を実感する食の体験だった。


 ほどなく。


「あ、もう、終わりか」


 肉はガッツリ食い尽くし、麺と野菜の切れ端が残るスープ。浮かんだネギと諸々残滓をレンゲで追い駆け。


 名残を存分に惜しみ。


 レンゲを置いても口内に残り続ける余韻に浸り。


 水を一杯飲んで一息。


 身支度を調え、


「ごちそうさん」


 会計を済ませ、心地良い挨拶に見送れられながら店を後にする。


「さて、帰るか」


 満たされた心と腹と、止まらぬ汗を道連れに、鶴橋駅を目指す。


 


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